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83『新年のお出かけ』

 新年はダンジョン探索を休みにして、各自自由時間とした。

 アンナリーナは、昨夜酔っ払って帰ってきたテオドールとダラダラと過ごしている。



「どこかに出かける?

 新年だからバザールとか出てるんじゃない?」


「おう、そうだな」


 二日酔いの症状も抜け、ベッドから足を下ろして室内ばきを履いたテオドールが洗面所に向かう。

 アンナリーナは出かける準備を始めた。



 身体が浮き上がるような感覚が、次の瞬間落とされたような、独特な転移の時が終わり、テオドールはアンナリーナと共に見慣れぬ森の中に佇んでいた。


「リーナ、ここはどこだ?」


「ここはね、アグボンラオールの王都ベソリナに近い森の中だよ。

 ここなら私たちもそれほど知られてないし……ゆっくり出来ると思うの」


「アグボンラオール……」


 呆れ果てているのだろうその口調は、前回ここに来た時の苦労を思い出しているようだ。


「さあ、王都に行こ?」




 王都へはすんなりと入ることが出来、アンナリーナがこの世界に転生して一番賑やかな場所にやって来ていた。


「熊さん、賑やかだね〜

 私、こんな所初めて!」


 アンナリーナとテオドールは手を繋ぎ、人混みの中散策していた。

 王都の目抜き通りは両側にはたくさんの屋台が並び、家族連れなどで賑わっている。

 いつもの食料品や食べ物の屋台のほかに土産物のようなものを売っている屋台もあり、時折上がる歓声が何か催し物をやっているのを知らせてくる。


「やっぱり王都だね。

 ハンネケイナの新年はどんな感じ?」


「やってることはあまり変わらないな……だが、規模が違う。

 これほどの人出はないわな」


「うん、私も生まれた小さな村と薬師様と暮らした森しか知らないから、びっくりしちゃう」


 まるでお登りさんのようにはしゃぐアンナリーナは、その筋のものに対しては絶好の対象であったが、誰も恐れをなして近寄ってこない。

 凄腕のスリはアンナリーナたちを包む魔力に腰を抜かしてしまったほどだ。

 だからアンナリーナが、屋台でどれほど大人買いしようとその財布を狙われる事はなかった。



「リーナさん?」


 ほぼ知り合いがいないはずの、このアグボンラオールで声をかけられ、アンナリーナは警戒しながら振り向いた。

 そこには何となく見たことのある、1人の中年男が佇んでいる。


「お久しぶりです。お元気でしたか?」


「あぁ!あなたはギルドの鑑定士さん!」


 記憶と現実が繋がり、アンナリーナの表情が変わる。


「お久しぶりです。お元気でしたか」


「リーナさんもテオドールさんもお元気そうで。今日は新年のバザールを楽しみにみえたのですか?」


「そうなんです。

 ちょうど近くにいたもので」


 ちなみに、直前までいたデラガルサ・ダンジョンからは国境を3つまたいでいる。


「よろしければ、お茶でもいかがですか?近くに美味しい菓子を出すカフェがあるんです」


 アンナリーナはテオドールと顔を見合わせた。

 ふたりは同時に頷く。


「そうですね。

 少し歩き疲れたし、休憩したいと思ってました」


 アンナリーナは相手の意図を想像して、少しげんなりした。

 だからアンナリーナはこちらから先行して話をする。


「うふふ、大した数ではありませんが、今回も融通する事は可能ですよ。

 後ほどゆっくりお話ししましょう」


「ありがたい!

 実は我が国のある町の近くに【迷い森】が出来て、物資が足らず難儀しておるのです」


「【迷い森】?」


「【迷い森】って言うのはダンジョンに近いもんなんだが、階層が重なる構造ではなく平面なんだ。

 大体、森や平原、砂漠などに出来るんだが……どう言ったらいいんだろうな。

 ある程度進んでその場を攻略すると転移する?のだろうか。階段はないんだ。

 俺も話だけで行ってみた事はないがな」


「ふむふむ、何やら面白そうだね。

 熊さん、行ってみたい!」


 何やら楽しみが増えたようだ。


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