82『ダンス・ダンス』
アンナリーナが身長差のある相手と踊る場合は、特別なステップを踏む事になる。
男性の方も、失礼にならない程度に持ち上げて、ターンを組み込んだダンスになっていた。
王はくるくるとアンナリーナの身体を回す。
まるで妖精のように軽いアンナリーナに驚きつつも、王は遊園地のアトラクションのようにその身体を振り回し、喜ばせてくれる。
不審な事を言わなければ、楽しい男性なのだ。
「もう後宮に召上げる話はせぬゆえ、俺と友だちになってくれぬか?」
ステップを踏みながら抱き上げて、耳許に顔を寄せ囁くようにそう言った王の唇が軽く頬に触れて離れていく。
「先に情けをかけてきたのはそちらであろう?
最後まで責任を持つのが道理ではないのか?」
【魅了絶対対抗】の護符の事を言っているのだろう王の瞳が、揶揄うように輝いている。
「男女の間でお友達など、不穏な響きしか感じられません」
つん、と拗ねたように唇を尖らせるアンナリーナの、仕草が可愛い。
計算尽くではない、その反応が新鮮で、王は思わず目を細めた。
と、同時に曲が終わった。
アンナリーナは丁寧にカーテシーすると、その場から離れていく。
王はライオネル個人として、その後ろ姿を見送っていた。
「リーナ様!」
この場では滅多に聞かない、変声期前の声に、アンナリーナはサッと振り向いた。
「アレクセイ君?」
「よかった、やっとお話できました」
にこにことしたアレクセイが側にやってきた給仕からグラスを2つ受け取ると、そのひとつをアンナリーナに差し出した。
「ありがとう、アレクセイ君。
でも、こんな所にどうしたの?」
確かアレクセイはまだ成人していないはずだ。
「今夜は特例で参加させて頂きました。我が家は僕しか後継がいなくて……顔つなぎのようです」
そう、父親のサバベント侯爵は、自身の息子が錬金薬師と知己の間柄である事を利用して、一番価値の高い今、周りに印象づけようとしたのだ。
「そう、アレクセイ君も大変ね。
じゃあ、侯爵様方がいらっしゃる、あちらに行きましょうか」
「あの……リーナ様、そのまえに」
「?」
「そのまえに僕と一曲、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「まあ……」
驚きに見開かれた目が、喜びに変わる。
そして咲き誇った薔薇のように微笑むとお辞儀をする。
「よろしくお願いします」
ちょうど始まったワルツのリズムに乗り、ふたりはゆったりと踊り始める。
身長があまり変わらないふたりはふつうにホールドし、ホールをくるくると回っていく。
「まあ、お可愛らしい」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきて、視線はアンナリーナたちに集まっていく。
そんな中、アンナリーナは今宵初めて楽しくダンスを踊った。
「リーナ様は終業式前から学院にいらっしゃらなかったようですが、どうなさったのですか?」
「うふふ、これは内緒よ?誰にも言っちゃ駄目よ?」
悪戯っ子のような笑みでアレクセイを籠絡すると、周りに音声遮断の結界を張って話し始めた。
「今ね、うちの従魔たちとあるダンジョンをね、攻略しに行ってるの。
まだ、未攻略だからどこまで潜るかわからないのだけどね」
「凄い! ダンジョン攻略ですか?!
いいなあ、僕も行ってみたいなぁ」
かわいそうだがその願いが叶うことはないだろう。
アレクセイは見事なほど武術に向いていないのだ。
だが、例えばあのダンジョンが攻略され、出現する魔獣すべてのデータが公表されれば、十分な準備と頼もしい護衛をつければあるいは叶うかもしれない。
「うん、そうだね」




