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63『国王と寵姫』

 ハルメトリア国、第18代国王ライオネルは、隣国から迎えた幼い正妃の他に後宮には数人の側室がいたが、その誰よりも、学院に在学中に知り合った寵姫を寵愛し、政治的配慮で入内した妃たちの誰よりも傍に置き溺愛していた。

 だが彼女は平民の出身。

 世継ぎの王子でも産めば考慮されるかもしれないが、妃にもなれない身分なのだ。


 王は今宵、その寵姫カテレインを伴いお忍びでコンセプシオン大公の舞踏会に姿を現していた。

 何かと息の詰まる後宮での暮らしのため、息抜きとしての舞踏会やパーティを好むカテレインは、最近何かと人の口に登る事の多い錬金薬師に興味津々だった。

 何度も王に、自分のサロンで開かれる茶会に招きたいと強請っていたが、正妃の所の茶会は許したくせに自分の所は許可しない王におかんむりだった。

 その寵姫の機嫌をとるため、王は目の玉が飛び出るほどの金額の首飾りを贈らされていた。

 今日がその首飾りの披露の日だったのだが、誰もその首飾りに目を向けようとしない。

 対して、アンナリーナのものは【異世界買物】で購入した、ヨーロッパ王室御用達の名店のものだ。

 この世界の技術では出来ないカットで研磨されたダイヤモンドは、その輝きが違う。


 カテレインは悔しかった。

 だが、それ以上にあの首飾りが欲しかった。


「ライオネル様ぁ、あの娘のしている首飾りが欲しいですぅ」


 お忍びで参加している国王に、必要以上に接触してくるものはいない。

 護衛の近衛兵数人が周りを固めており、国王と目の合ったものだけが黙礼を交わすだけだ。

 そしてこの寵姫はその身分ゆえに重要な派閥を作る事が出来ない。

 この国の政界は微妙なバランスで成り立っていた。

 言い換えれば、王の寵愛のみで我儘放題している寵姫を鬱陶しく思っている貴族は多く、それは派閥の壁すら取り去って貴族社会の常識であった。


 その王がここ一年ほどの間に、何度もその名を口にし、王宮に招待しようとしている女人がいる。

 王に近しい上位貴族が歓喜したその出来事は、すぐに絶望に変わっていた。



 昨年の、王宮年越し大舞踏会に現れたその少女は、魔法学院の塔の賢者ユングクヴィストの内弟子で、貴重な錬金薬師だった。

 小さな身体から溢れ出る魔力は規格外の量で、その場にいた貴族の誰もが自分の家に取り込みたいと思った事だろう。

 もちろんアンナリーナも平民なのだが【錬金薬師】に氏素性は関係ない。

 膨大な知識と技術、そしてその魔力量。ただ魔法職でも生産系の薬師は気難しいものが多く、気分を害するとそこから居なくなってしまう、そんな事が多々あるのだ。

 そして今回の錬金薬師はテイマーでもあるようで、アンナリーナのことを調べさせていた宰相が顔色を変えていた。



「錬金薬師殿の持ち物は特別だからな。今度、同じものが手に入らないか、頼んでみよう」


 それが王の精一杯の誠意だったのだが。


「ダメダメ!カテレインは今欲しいのですぅ!!」


 駄々を捏ねるように暴れ、アンナリーナのいる上級貴族のグループを指差す。

 とても一国の王の寵姫とは思えない様に、騒ぎに気づいたものたちが眉を顰める。

 そんなことに知ってか知らずにか、エレアント公爵に誘われて、アンナリーナたちは奥のサロンに移動していってしまった。


「待って! 待ちなさいよ!」


 いくら寵姫とはいえ、国王は渋い表情を浮かべている。


「落ち着け、カテレイン。

 明日、朝一で宝石商を呼んでやるから」


 そんな、宥める声を聞いて、表情を動かさずに侮蔑する近衛兵もいる。


「あの者の首飾りがいいのです!」


 そしてカテレインは、貴婦人とは思えないはしたない所作で走り出した。


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