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62『しがらみ』

 最新のドレスのお披露目にと、嬉々としたアラーニェに送り出されたアンナリーナは、げんなりとしている。



 今年もやってきた、冬の社交シーズン。

 アンナリーナは、まだ学院が冬季休暇に入っていないにもかかわらず、ユングクヴィストのパートナーとして、今期初めての舞踏会に向かっている。

 この舞踏会は王家の主催ではないが、前国王の弟君が当主を務める大公家が主催する、社交シーズンの幕開けを告げる舞踏会であった。


「で? ユングクヴィスト様……

 こんな大層な舞踏会(パーティではなく “ 舞踏会 ”格式が違う)に参加させられる理由はなんでしょう?」


 ユングクヴィストと乗る馬車は、学院の紋章の入った、登城などの際に使われる、一番格式の高い馬車である。

 去年乗った馬車を新調したものだ。


「そなたがあちこちで顔を売るからだろう。学院には貴族の子女が多いゆえ仕方ないが、サバベント侯爵まで釣り上げてくるなど……

 いくら儂でも庇い切れん」


「あれれ……アレクセイくんのお父様は重要人物でしたか?」


「北壁のゲオルギー。

 かの領地の北は【黒の森】だ。

 そして、その北は蛮族の棲む氷塊の大地……サバベント侯爵家は実質的な辺境侯なのだよ。

 その彼を寮の自室に招いた。これがもたらすのは【混乱】だな」


 アンナリーナは唇を尖らせた。


「不可抗です。

 たまたま、実習でアレクセイくんが怪我をして、たまたま治療した私に礼を言いにきて下さった……それだけです」


「それでもな……」


 ユングクヴィストが溜息する。


「そなたと繋がりを持ちたい貴族たちは焦燥感を募らせている。

 そなたのことを“ 知らない”ものが馬鹿をしでかさないうちに顔だけでも繋いでおいた方がよいのじゃよ……

 つまらんことだがしょうがない」


 今までアンナリーナは、貴族の社会に足を突っ込むつもりはなかったのだが、行きがかり上しょうがないのだろう。


「まあ、顔を繋いだだけで、そなたが気を留めてやらねばならんわけではない。無理せず、卒なく……利用してやればよいのじゃよ」


 後見であるギィ辺境伯家、エレアント公爵家、ロドス伯爵家、そしてサバベント侯爵家。ココット伯爵家もこれに含まれるだろう。

 貴重な【錬金薬師】を取り巻く環境は騒がしくなってきている。



 白銀狼の、ふかふかの冬毛の毛皮で作られたイブニング・ケープの裾を捌いて、ユングクヴィストの手でエスコートされたアンナリーナが馬車から離れた。

 ほんの数十歩で大公邸の扉をくぐり、ケープはクロークに預けられる。


「まぁた、そなたは……」


 もうすでに、アンナリーナは注目の的だ。

 先ほどケープを預かった、大公家の従者の手が、あまりに貴重な品ゆえ震えていた。

 そして今、ユングクヴィストと共にホールに向かうアンナリーナの装いはもう、注目を集めている。



 従者の先ぶれに、集まった貴族たちの視線が一気に向けられる。

 今夜の装いはアラーニェの最高傑作と言うべき、シルクベルベットのイブニングドレスだ。

 それは、夜闇のような濃紺に極小のダイヤモンド・ビーズを一面に散りばめ、ハイネックで首を隠し、細いボディラインを惜しげもなく晒した鞘型のドレス。

 首や手首、そして裾にふんだんに使われた同色のレースが、アンナリーナが動くたびに光を弾く。

 どういう技術を使っているのかわからないが、それは人々の目を釘付けにした。

 低めのヒールの、サテンの靴。

 アクセサリーはダイヤモンドで統一され、その首回りを飾るネックレスは見るものすべてを驚愕させた。



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