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61『女王様と犬(牛)』

 アンナリーナの何倍も太い指がかすかに動いたのに続き、ミノタウロスの瞼がひくひくと痙攣し始めた。


「……さて、どんな反応を示すかな?」


 ネロが、いつでも攻撃できるようミノタウロスに意識を向けるなかアンナリーナは、セトたち同様逞しい胸に、残る傷を治癒魔法で癒しにかかる。

 と、突然目を開き、上体を起こしたミノタウロスが牙を剥き、咆哮した。


「おぉっと……」


 思ったよりも俊敏に後退り、攻撃しようと腕を振り上げたネロを止め、アンナリーナはミノタウロスを見つめてみた。

 目と目が合い、視線が絡み合って、ミノタウロスの動きが止まった。

 口唇が捲れ上がり見えていた牙も、見えなくなる。


「えーっと、あなた……私の話している言葉がわかるかしら」


 グルグルと唸ったミノタウロスは小さく頷いた。


「では、私の事、覚えているかしら?」


 アンナリーナがそう言った途端、作業台から飛び降りたミノタウロスは、膝をついて頭を下げた。


「え? どうしちゃったの? これ……」


 戸惑うアンナリーナに、聞き慣れたナビの声が聞こえてきた。


『彼らの種族は強者至上主義です。

 主人様を自分よりも上位と認めたのですね』


 その遣り取りの目の前で、頭を上げたミノタウロスはいきなり、鬣のような髪を掴んでその鋭い爪を振るい、ザックリと切り落として、アンナリーナに捧げ、差し出した。


『主人様、これは戦闘民族が忠義を示す証。髪を受け取ってやって下さい』


 両手で持ってして髪を受け取ったアンナリーナの前で、もう一度頭を下げたミノタウロスが、ブツブツと何かを言っている。


『主人様、彼は今日この日の僥倖と、生まれ変わった事に感謝を捧げているようです』


 アンナリーナとネロが茫然としているなか、ミノタウロスがそちらに這い寄り、アンナリーナの靴の先に口づけした。


「女王様」


 アンナリーナ、ドン引きである。


「己の命と誇りにかけて、あなた様に忠誠を誓います」


「命……」


 本人はどういう感覚なのかわからないが、彼はもう死んでいて今はアンデッドだ。


「女王様、どうかご命令を」


 まさかの “ 女王様 ”呼ばわりと足下の犬……いや、牛。

 アンナリーナはなるべく尊大に見えるように背筋を伸ばした。


「まずは説明します。

 その前に……あなたは私と闘ったことを憶えていますか?」


「はい、もちろんです。女王様」


 そのあと、アンナリーナがいかに美しく、圧倒的な力で自分を打ち滅ぼしたのか、とうとうと話し始めたのを遮って、言う。


「あの時にあなたは死にました。

 そして私の魔法で蘇ったのです」


「何と!生き死にまでを司る女王様とは……感動のあまり胸が昂ぶる思いです」


「その胸ですが、動いていません。

 あなたは【アンデッド】として復活したのです。

 これからは僕として、私に仕えなさい」


「御意」


 キラキラと目を輝かせたミノタウロスが、再びアンナリーナの靴に口づけする。


「あなたの名前は【ツァーリ】です。

 ここにいるネロもあなたと同じアンデッドですので、わからない事があれば彼に聞きなさい」


 アンナリーナはこの女王様ごっこに疲れてきたので、退散する事にする。


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