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60『死霊魔法』

 実質的な学年末である秋口から年末にかけての学期は、駆け足で過ぎていった。

 元々が貴族の子女のために設立された魔法学院だ。

 社交の季節や、領地に戻り統治する時期には授業は行われず、長い休暇となる。

 アンナリーナは目の前に迫った冬の休暇……去年はテオドールの知人であるダージェの依頼で、大陸最南端の国アグボンラオールに行っていたが、今年はダンジョンに潜ろうと思っていた。



「新しい従魔ですか?」


 自室に訪ねてきたアンナリーナにそう告げられ、ネロは首を捻った。


「従魔じゃなくて【眷属】だよ。

 死霊魔法で蘇らせるの」


 ネロは思念の海に意識を漂わせる。

 何しろ自分の主人はフットワークが軽い。

 基本、ツリーハウスから出る事のないネロと違って、あちらこちらに転移の拠点を持つ主人はとんでもない拾い物をしてくる事がある。


「……新しい眷属は私の知るものでしょうか?」


「ううん、会ったこともない……

 私も、何度もあそこに行くけど、その個体以来、出現したのを見たことないし」


 ネロは、動くはずもない眉間をしかめた。

 主人の言い方はまるで、魔獣の蔓延る原生林か、ダンジョンでの出来事のようだ。


「それで……私に用と言うのは?」


「その子を屠るとき、結構苦労したのよ」


 アンナリーナが魔獣に傷つけられたなど、後にも先にもそれ一回だけだ。


「だから、私が術を行使している時に、ネロに守護してもらいたいの。

 もしもその子が暴走したら “ 抑えて ”欲しいのよ」


 ネロはそれで理解した。

 単純に、暴走した魔獣を処分するのならセトやイジなら瞬殺だろう。

 だが、この目の前の主人は、その魔獣を損ないたくないのだ。


「承知致しました……」


「それと、ネロの【実験室】を貸して欲しい」


 ネロは、ツリーハウスの自室の続きの間を【実験室】と呼ぶ作業部屋にしていた。

 彼はここで、スケルトンやグールを生産している。


「では、始めようか」


【実験室】には強固な結界が張られ、他の部屋からは完全に隔離された。

 気配に気づいたセトやアラーニェがドアの外に集まり、戸惑っている様子が感じられる。

 アンナリーナはわずかに笑むと、部屋の3分の1を占める巨大な作業台に、その魔獣を取り出した。


「っ! これは!?」



 アンナリーナのインベントリの中で、ずいぶん長い間死蔵されていた魔獣。

 あの日、命失った日そのままに、黒光りする肌を晒し、今彼らの前に横たわっていた。



 アンナリーナの死霊魔法の魔法陣の展開は、それはそれは美しかった。

 ネロもアンナリーナから膨大な魔力を供与されていたが、何しろ桁が違う。

 そして、自分自身もこのようにして復活なされたのだと感動に震えてしまった。

 今、アンナリーナは複雑に魔力を編み上げ、眼前に横たわる魔獣をアンデッドに変えようとしている。

 その横でネロは、不測の事態に備えて魔力を紡いでいた。


「さあ甦れ、私の僕……ツァーリ!」




 その魔獣の逞しい身体を包むように魔法陣から発せられた光が、一段と眩しく輝き……そして収束していった。


 投げ出されていた手の指先が、ピクリと動き、今回のこの死霊魔法が成功したことを知らせる。

 だが、ネロの警戒は最高潮に達していた。



 新しいアンナリーナの家族は、もうずいぶんと前にデラガルサのダンジョンで死闘を繰り広げた?ミノタウロス・ツァーリだった。


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