59『クランハウスの段取りとジルヴァラ』
未だ自分の世界から戻ってこないアーネストを置いて、エメラルダの部屋に向かったアンナリーナは、同じ机と色違いのソファー、そしてアーネストよりも少し高級な寝具を出して、言った。
「これまで、魔力回復ポーションのモニター、ありがとうございました。
これらは心ばかりのお礼です。
これからは、各種ポーションをご贔屓に」
アンナリーナの笑みは、商人の笑みに近い。何となくやられた感の漂う、エメラルダだった。
そのあと2人は町に繰り出した。
王都に来たのは初めてではないが、慣れないエメラルダを連れて、富裕層が利用する商店を巡り、紹介する。
なかにはクラスメイトの実家もあって、店主自らが迎えてくれたところもある。
「エメラルダさん、こちらならお好みの雑貨が手に入ると思います。
私は明日から数日、学院から出て来ませんので、あとは熊さんたちと相談してお願いします」
【ココット】というその店は高位貴族が経営する、いわゆる百貨店と言うものだ。
アンナリーナがエメラルダに説明していると、ニコニコと愛想の良い笑みを浮かべて、ひとりの紳士が近づいて来た。
「リーナ殿、いらっしゃい。
おや、こちらの方は?」
「御機嫌よう、伯爵様。
こちらはエメラルダさんと仰って、私がハンネケイナでお世話になったクラン【疾風の凶刃】の方です。
エメラルダさん、この商店の経営者ココット伯爵様です」
びっくりしたエメラルダが略式のカーテシーをすると、伯爵が慌ててそれを止めようとする。
「こちらにいるときは、私は一店主。
どうか普通に接して下さい」
こうして、一通り紹介して回ったアンナリーナは、表向き翌日から学院に籠る事になる。
「ほぉら、ジルヴァラ、とってこーい!」
ここは魔獣の森、ツリーハウスの結界外の原生林だ。
そこでアンナリーナは今、手頃な枝を投げ、ジルヴァラに取って来させている。
初めは嫌々行っていたジルヴァラだが、すっかり嵌って下草を蹴散らし走り回っている。
……そしてもちろん、結界外と言う事で、護衛のイジがついている。
「ジルヴァラはどう?
まだひとりで狩りは無理だよね……」
「そうですね。
しばらく俺が付き添いますが、このまま供与していけば近いうちには」
「じゃあ、お友達を作ってあげなきゃね」
「お友達ですか?」
イジは不思議そうだ。
「そうよぉ、以前デラガルサのダンジョンで会ったでしょ?」
はて……と、イジは考える。
あのダンジョンは低層ではあまり強い魔獣は出ない。
獣系は狼種が数種出たはずだが、今更狼とは?
そう、少々戸惑っていると。
「ケルベロスとオルトロスですよ!
あの子たちを一目見て、どうしても欲しくなったんです!」
近々、11階層に行く事になりそうだ。
「それとね、デラガルサのダンジョンを出来るだけ深く攻略したいのよ」
「ご主人様?」
「ちょっと考えてる事があるんだよね」
どちらにしても長期戦になりそうな事。
学院がまとめて休みになる、年末から春にかけて、来年はダンジョン攻略に明け暮れそうだ。




