57『【疾風の凶刃】王都支部』
冒険者ギルドからの周旋で賃貸した物件は、廃業した宿屋だった建物で、家族経営だったそれはこじんまりとした、これからクランの支部を立ち上げるテオドールたちに相応しいものだった。
「ハンネケイナでは有名な俺たち【疾風の凶刃】だが、ここ王都ではそれほどでもない。
個人的に知り合った連中は別だが、そんなもんだしな。
まず最初はこのくらいの規模で十分だろう」
そうと言っても一階は、入ってすぐのところに小振りのフロントがあり、奥に厨房が、あとは食堂として使っていたのだろう、今は家具もなく閑散としていた。
その、今ではホールとなっている元食堂の奥に上に上がっていく階段がある。
「部屋は客室だったのが10室。
あと、厨房の奥にある階段で直接3階に上がれるようになっていて、そこに経営者の家族が住んでいた部屋がある」
4人は連れ立って階段を上がっていく。
エメラルダが客室のドアを開けて中を覗いていた。
「ここって各部屋に洗面、トイレ、それに身体を洗う洗い場があるのね。
部屋もこのくらいあれば、むさ苦しい大男にも十分じゃない?
テオドール、いい物件を見つけてきたわね」
「ふうん、客室はそれほど手を入れなくても良さそうだね。
でも3階に上がる階段は必要なんじゃない?
あと、ここの敷地はどうなってるの?
馬車とか馬とかはともかくとして、簡単な鍛錬くらい出来なきゃ……」
アンナリーナが窓を開けて外を覗いている。
男2人は大人しく、女性陣の言うことには逆らわない。
「そうね、3階を使うのなら直接行けるように階段をつけなきゃ。
そうなるとかなり手を入れなきゃならないわね」
エメラルダの言葉にアンナリーナがうんうんと頷く。
「私は使えないけど、学院で建築魔法の講師に聞いてみるわ。
誰か良い方を紹介していただけるかもしれませんので。
それと……エメラルダさんとアーネストさんは今夜はどうするの?」
「そうねぇ……
今夜は宿でゆっくりしようかしら。
あ、でも久しぶりにリーナちゃんのお料理が食べたいわぁ」
「ではそうしましょう。熊さん、戸締りしてきてね」
アンナリーナはその場にテントを出して、以前彼らを誘った部屋に向かう。
「ここは変わらないわね〜」
実はそうでもない。
アンナリーナの生活する部屋すべてに、日々アラーニェの手によって花が生けられ、細かな装飾品や本などが増えている。
アーネストなど、ソファーのレザーをうっとりと撫でてから腰を下ろしていた。
「ところで【疾風の凶刃】の他の方々はいつ頃王都に来るんです?」
「あいつらは今、依頼を受けていて王都に着くのは少し遅れる。
……多分、10日くらいか?」
ずっと黙っていたテオドールが答えてくれた。
「ふぅん、出来ればそれまでに何とかしたいね。
ところで【疾風の凶刃】は花形の魔法職を2人も王都に派遣して大丈夫なの?」
「私たちもただ依頼をこなしていたわけじゃない。
最近は後進の育成に力を入れていて、昨冬は一緒に依頼に出て、実地で訓練していたんですよ」
少し難しい話はアーネストが担当のようだ。
「そのおかげで、冬の間は隣国に閉じ込められてしまったのですけどね」
どうやら彼らも雪に難儀したようだ。
「あー、アーネストさんたちも?
私たちも大変だったんだよー」
お互いの近況から取り留めない世間話に変わり、アラーニェがお酒を持ってくる頃には、外は夕刻を迎えていた。




