55『試行する』
昇級試験であった護衛依頼から帰ってきて数日後、冒険者ギルドから呼び出されたアンナリーナ一行は、正式にそれぞれの昇級した印を手にしていた。
それは名札のような形をした小さなプレートで、首飾りのように鎖とつないだり、直接防具につけたりするための金具がついていた。
「うん、セトとイジの防具につけて貰おうか。
熊さんも今まで通りでいいのね?」
このプレートが与えられるのはC級以上であり、それは上級者だと認めることになるのだ。
それゆえ、D級までのように討伐などの数だけで昇級するのとは違う、厳しい審査がある。
先日の護衛依頼もそのひとつだった。
穏やかな学院生活が再開し、アンナリーナは学業とツリーハウスでの新しい家族のための諸事に忙殺されていた。
「ジルヴァラ、もう念話が出来てもおかしくないのだけど……どう?」
『……』
「う〜ん、ステータスオープン」
途端に、アンナリーナの頭の中に文字と数字の羅列が現れる。
ジルヴァラ(フェンリル亜種、雄)
体力値 86950
魔力値 35695
取得スキル
風魔法(ウインド、エアカッター、エアスラッシュ、ウインドアロー、トルネード)
身体強化
威圧
遠見
夜目
噛みつき
引き裂き
彼は今、ツリーハウスの居間の片隅に絨毯を敷いて、そこで身体を休めている。
「専用のお部屋か、それとも外に別棟を建てた方がいいかしら?
ジルヴァラはどう思う?」
『……ココ』
搾り出すような声が、確かに頭の中で響いた。
「すごいじゃん、ジルヴァラ!
これからも少しずつ練習していこう」
『ハイ』
あまりペット扱いは良くないのだが、今だけはその手触りの良い被毛に指を差し入れ、思い切り撫で回した。
次はガムリだ。
彼は、ようやく灯りになれた目は異常なく、軽めのダンベルや握力を鍛えるグッズなどで、ほぼ再生された右手を日々鍛錬していた。
「じゃあ、私たちのお家に行きましょうか。
ガムリの場合、工房をどうするか相談しなくちゃいけないしね?」
「工房……工房まで用意してもらえるのか?」
「約束したでしょ?
ただあなたの場合、そこらの町で鍛治工房を開くわけにはいかないんだよね」
そのあたりはガムリも理解している。
少なくともランブエールのあるこの国では無理だろう。
別にガムリはお尋ね者でも犯罪者でもないのだが、一度は殺されかけた身、いらぬトラブルは避けたい。
「じゃあ、このテントはしまうわね」
初めてテントから出たガムリは、思わず目を瞠る。
そこは昼なお暗い大森林の中、近くには滝つぼがあり小川が流れ出している。
「ここは……」
「詳しい場所は言えないけど……ここは魔獣の森なの。
生息している魔獣は、かなり強いから、結界からは絶対にひとりでは出ないでね」
それから大まかな結界の範囲を教え、ツリーハウスの階段を上がっていく。
そしてドアを大きく開いて、アンナリーナは言った。
「ようこそ、これからはあなたのお家でもあるのよ」
中に入るよう誘い、そして後ろから促すと……ガムリの背中を食い入るように見つめていた。
「これは……一体どうなっているんだ?!」
2歩、3歩と足を踏み入れ、驚愕しながらキョロキョロと見回している。
その様子を見て、アンナリーナは心から安堵した。
『よかった、何事もなくて……』
従属契約が意味を成さなかったら、ツリーハウスに1歩入った途端、ガムリの運命は潰えていただろう。
“ 実験 ”しておいて何だが、宣誓魔法が発動した時、ガムリの額にアンナリーナの印が現れた瞬間に、ツリーハウスへの入室の成功を確信したのだ。
「空間魔法で中を弄っているのよ。
見た目よりもずいぶん広いの。
ガムリのお部屋もここに造るか、それとも別の場所に工房とともに造るか……
それまではここを使ってもらおうかな」
アンナリーナが誘導したのは、イジが使っていたトレーニングルームだ。
その一角にベッドなどの家具を出し、ガムリに向き直ったところ、ガムリはすっかりとトレーニングマシーンに夢中だった。
「リーナ様、一体これは何ですか?!」




