45『ドワーフをめぐるあれこれ』
アンナリーナからあらましを聞いて、テオドールは露骨に顔を顰めた。
「完全にワケありだろう。
おまえ、面倒なもん拾ってくるなぁ」
「誰にも見られてないよ?」
「それでも “ 死体 ”がなくなったら勘ぐるものも出て来るだろうが」
「まったく」と頭を掻き毟り、アンナリーナに向き直った。
「出立まで宿から出るなよ?」
「うん、わかってるよ。
それでちょっと頼みがあるんだけど」
アンナリーナはテオドールに、できる範囲でこのドワーフの事を探ってくれるよう頼んでみた。
「言われなくてもわかってるわ!
こんな事、放っておける訳ないだろうが。
それで? どのあたりで拾ったんだ?」
アンナリーナはマップを思い浮かべ、地図を描いて見せた。
幸いな事にテオドールはこの町に何度か来たことがあり、鍛治工房の集まるあたりにも詳しかった。
「わかった、ちょっと探ってくるわ」
「ごめんね。送って行くね」
「ああ、それで駐馬車場にでも直通のテントを出してくれたら嬉しい」
「わかった、用意しとく」
アルバインたちに今夜は合流しない事を説明し、テオドールは夜の街に出かけていった。
そして深夜に近い時間に彼は、テント経由でアンナリーナのいる治療用テントに戻ってきた。
「リーナ、そいつの具合はどうだ?」
「う〜ん、まだ意識は戻ってないよ。
危険な状態は脱したんだけどね」
アンナリーナが視線を落とした、包帯の巻かれた右手には血が滲んでいる。
「とりあえず……治療に耐えられる状態にまで戻して、それからゆっくりと再生させるつもり」
横たわるドワーフの、かすり傷程度の左手にそっと手のひらを重ねた。
「それで、何かわかった?」
ドワーフが寝かされているテントの横に、アンナリーナのテントを出して、今、ふたりはそこで軽食を摂っている。
「ああ、鍛治工房の連中がよく行く酒場で話を拾ってきた。
まあ……犯罪がらみなんではっきりした事は言わないが……何人かの話を組み合わせて、なんとなく見えてきた」
それは鍛治工房同士の勢力争いと言うか、王家への献上品の製作を任される職人の選定がらみのようだった。
その候補者の中で、一番若い職人の姿が見えないのだと言う。
ほとんどの職人がドワーフのこの工房街は一種の治外法権に近く、この町の憲兵も手を出し難いらしい。
「ん〜 、じゃあこの人は闇から闇へ消されちゃうって事か」
アンナリーナは何事か考え込んでいる。
「リーナ?」
「ねぇ、熊さん。
私たち専任の鍛治士、欲しくない?」
意識が浮上してきた彼は、それなのに何も目にする事が出来なかった。
「!?」
両眼は激しく痛む。
右手は動かす事も出来なかったので、左手で顔に触れてみた。
『これは……?』
どうやら顔一面に包帯が巻かれているようだ。
わずかに口のあたりだけ開けられている。
「おれ、は、いったい」
「目が覚めた?」
突然、耳許で若い女の声がして、彼は飛び上がるくらいびっくりした。
「あなたは瀕死の重傷を負って倒れていたんだよ。覚えてる?」




