44『拾ったドワーフ』
「ちょっ! セトっ!!」
排水路を覗き込んでいるアンナリーナに近づき、ヒョイと中を見るセト。
「……何だ、死体ですか。
死霊魔法の材料にでもするつもりで?」
「ばっ、馬鹿!
まだ生きてるよ! 早く拾い上げて!」
排水路はそれなりの深さがあり、アンナリーナではとても手が届かない。
セトは頷くと縁まで近づき、服を掴むと持ち上げた。
「そっと、そっとね」
もう地面にはアイテムバッグから取り出した毛布が敷かれ、その人物はそこに下された。
「この人……ドワーフ?
ひどい状態だね」
そう、彼はドワーフだった。
……ファンタジー世界では有名な種族、主に鍛治や細工に長ける彼らはこの世界にも存在したのだ。
「とりあえず応急措置だけしたよ」
無詠唱で治癒魔法をかけ、止まりかけていた心臓を強化する。
あとはゆっくりと、散々な状態の各所の怪我を治していくのだ。
「主人、此奴はこのまま宿に連れていくのか?」
「ん〜 どうしよう?」
どう見ても “ ワケあり ”の、このドワーフ、宿に連れて行って良いものか暫し悩む。
「【転移】でツリーハウスの外に飛んで結界内にテントを出すか」
小動物ならともかく、許可されていないヒト族が直接ツリーハウスに入るとどんな事が起こるかわからない。
弾かれるだけならいいが、おそらくアイテムバッグに手を入れたと同じ事になるだろう。
アンナリーナたちは人目のないときを見計らって【転移】した。
ツリーハウス結界内にテントを出し、彼を寝かせた。
「片目は完全に潰されて髭が焼かれてるね。これはひょっとして排水路に放置されたから、たまたま消えたの?
身体には大した傷はないわね。
……でも右手が酷い。完全に潰されてるわ」
これはおそらく【リンチ】だ。
彼は何かトラブルに巻き込まれ、暴行を受けたうえ、放置されたのだろう。
死体が発見されるのも、見せしめの意味があるのかもしれない。
「一体、何したんだろうね」
片目は完全に潰れ、もう一方も瞼がざっくり裂けている。
顎髭を焼かれているので火傷も酷く、右手はおそらくプレス機で潰されている。
アンナリーナは治癒魔法とポーションを多用して、治療を進めていった。
「熊さん、熊さ〜ん」
テオドールが厩から出てくると、アンナリーナが建物の陰から顔だけ出して呼んでいる。
「何だ? 今帰ってきたのか?」
「うん、ちょっと付き合って?」
「ああ? もうすぐ夕食だろうが」
「うーん、ちょっと戻って来れないかも……誰かに伝言頼もうか」
テオドールは、珍しく強引なアンナリーナに首を傾げるが、基本的に甘い彼は、まだ厩に残っていた御者に『夕食に行かない』事を伝えてアンナリーナについていった。
その場所にテオドールがやって来たのはもちろんはじめてだった。
アンナリーナの転移で移動した場所、それは昼なお暗い、鬱蒼とした森の中、清浄な空気の溢れる滝とそこから流れ出す小川。
その河原のほとりの一角にそびえる木とツリーハウス……それが話に聞く、アンナリーナの本拠地だ。
「私と一緒ならここの結界、通る事が出来るから」
アンナリーナに手を引かれ敷地内に入ると、かすかに漂う鉄錆の臭い。
「血か?」
「さすが熊さん、この中だよ」
入り口の布を捲って中を覗くと、包帯だらけの男が横たわっている。
「子供? いや、ドワーフか?!」
その身長の低さから始めは子供かと思ったようだが、何よりもその特徴的な体格ですぐに種族を言い当てた。
「どうしたんだ。どこで拾ってきた?」




