39『タイニスの思惑』
タイニスの方も、アンナリーナの機嫌が良くないことはすぐに見て取った。
だが、引く気はない。
「この話は双方にとって利のあるものだと思うのです」
商人と言うのは、目先の利益を得る為なら多少強引にでも押してくるものだ。アンナリーナは渋々、話を聞くことにした。
「……では、こちらへ」
セトを伴い踵を返す。
他者の目から認識阻害していた自分の馬車の阻害を解いて、またタイニスをびっくりさせた。
目の前に突然現れたのは、大型の旅行用馬車だったからだ。
「こんな時間に外で立ち話……と言うのも何ですし、どうぞ」
橡色の馬車の、前側部の階段を3段上がり、ドアを開ける。
そこにはテーブルを挟んで、作り付けの長椅子が対面で並んでいた。
そこを勧められると思っていたタイニスだったが、あっさりと通り越して先のドアに向かうアンナリーナの後に続いた。
「これは……」
開かれたドアの先の光景を見て、タイニスは足がすくんだ。
そこにはとても馬車の中とは思えない、なによりも馬車内の面積と合わない部屋があった。
「どうぞお座りください」
広々とした居間に応接セット。
この場に他人を招く可能性を感じていたアンナリーナは、見た目があまり特殊ではない、だが格段に座り心地の良いソファーを【異世界買物】で用意していた。
しっとりと落ち着いたゴブラン織りのそれは、猫足のロココ調だ。
ここも寮の部屋と同じく、全体をロココ調にまとめ、若い女性が好む形にしてある。
「で、では、お言葉に甘えて」
タイニスの頭の中では、目に入った物の金額がはじき出されているのだろう。視線がさまよっている。
そこにアラーニェが、茶を淹れる為に近づいてくる。
ウ○ッジウッ○のティーセットを舐めるように見つめているタイニスに思わず苦笑いを浮かべて、口を開いた。
「そろそろ本題に入りましょう。
明日も早い事ですし」
暗に寝たいから早く帰れと言わんばかりのアンナリーナに、タイニスはわずかに頬を赤くした。
「では遠慮なく……。
私があなたの元を訪れたのは、本来はテントのことでした」
「今は違うと?」
アンナリーナの全身から、ゾワリと魔力が溢れ出た。
それが圧をかけてのし掛かってくる。
魔力の少ないタイニスには感じられないが、従者の男は違う。
「旦那様」
この、目の前にいる少女は決して怒らせてはならない人物だと察した彼は、それとなくタイニスに知らせた。
知らせたのだが、彼は止まろうとしない。
根っからの商人であるタイニスは、目先の利益に暴走が止まらない。
「ぜひ私と継続を見越した取引を結んでいただきたい」
「あの〜 私、あまりお金には興味ないのです」
アンナリーナは困ったように笑った。
「だからお取り引きはごめんなさい。
これ以上、色々なことを抱え込みたくないので。でも、最初のお話……テントに関しては、以前も販売したことがあるので、お譲りすることもできますが、ある条件があるのです」
二兎を追う者は一兎をも得ず。
タイニスはまず、テントの購入から始めることにしたようだ。
信頼関係を築けば、この先はどうなるかわからない。
タイニスはあっさりと引いた。
このあたりが普通の商人と大商人の違いであろうか。
「条件とは?」
緊張で、タイニスの喉がゴクリと鳴った。




