37『護衛依頼は楽しい……?』
第一夜目は何事もなく明けて朝、アンナリーナとアラーニェはいつものように朝食の準備をしていた。
ほとんどはツリーハウスで待機しているアンソニーの手で作られたものを温めるだけの作業だ。
そしてその間、何事か言いたげな視線を受け、げんなりしている。
「淑女に対して不躾な眼差し……
シメてきましょうか?」
アラーニェが物騒な事を言い出すほどには、鬱陶しい。
「まあ、放っときましょ?
用があるならあちらから言ってくるでしょう」
そう言いながら出来上がったスクランブルエッグを、個々の皿に盛り付けていく。
今朝は、携帯用魔導オーブンも出してロールパンを温めたり、ウインナーを焼いたりしていた。
「りんごのジャムを出しておいてくれない?バターたっぷりのロールパンに良く合うの」
「かしこまりました」
アラーニェがテントに向かうのを見送り、今度は鍋をコンロにかけて、スープを温めはじめた。
今朝のスープはオーソドックスなコーンのスープ。
ゆっくりと火にかけ、大ぶりのスープカップに注いでいく。
テーブルの上には、レタスときゅうりのピクルスとベビーリーフのフレッシュサラダ。
ウインナーとスクランブルエッグに、数種類のチーズ。
コーンスープとバターロールが今朝の朝食だ。
あと、ケバブの厚切りが皿に山盛り盛られて持ってこられた。
これは基本的に、セトとイジのものである。
「まだたくさんあるので、皆さんもお好きなだけどうぞ。
セトとイジには、今お肉を焼いてもらってるから」
食事の間の見張りはアマルとネロが行なっている。
この後、アマルを残してアラーニェとネロはツリーハウスに戻すつもりだ。
「リーナ様、私もお仕えしとうございます」
「いつも十分仕えてもらってるよ。
それに昼食時や夕食の時にはまたお願いするからよろしくね」
そうは言っているが、アンナリーナは今回の依頼には絶対的に人数が足りない事を自覚している。
「アンソニーにも用意させておきますか?」
「そこまではいかないと思うけど……
彼にはこれからも料理でサポートを頼みたいの」
「わかりました。
では、準備だけは怠らないようにしますね」
「アラーニェ、ありがとう」
食後、今日の旅程の打ち合わせで、今夜は村の宿屋で一泊する事がわかった。
今日通る街道は整備されていて、結構なスピードで走れるらしい。
「じゃあ、熊さんとイジは伴走する?
エピオルスたちを呼んでもいいけど」
「俺は自分で走った方が早い」
セトが後ろから覆いかぶさるようにして言う。
「それこそセトがリザードの姿で走ったら、そこらの魔獣は寄ってこないよね」
あとは馬たちが怖がらないか、それが不安だが今回はドラゴニュートの姿で走るようだ。
「身体が鈍っていたのでちょうどよい」
今日の旅程では、セトが伴走することに決まったようだ。
「では、今日もお疲れ様でした」
タイニスの音頭で、小さな村の宿屋で今、夕食が始まったのだが、最早宴会の様を呈している。
アンナリーナはテオドールに目配せすると、早々に引き上げ、馬車置き場に向かっていた。
そこでは、宿の人間を怖がらせないように、セトとイジが見張りがてら待機している。
「悪いわね。
しばらくは私が見張っているから、あっちで休憩してらっしゃいよ」
その間に夕食の用意をしておくから、と言われて2人は身体を洗ってくる事にする。
アンナリーナはもう、BBQコンロを取り出していた。
「ふふふ、今夜は焼肉にするからアンソニーも呼んできて」
「もう参上しています」
そこには、以前のアンソニーを知るものなら首を傾げるような……見た目がまったく変わってしまったアンソニーがいた。




