30『テオドールの決心』
抱き込んで、宥めすかしてようやく翌日の出立は取り消させた。
基本、温厚?なアンナリーナだが一度キレると手がつけられなくなる。
今回はどう落としどころをつけようかと、テオドールは考えていた。
そしてもうひとつ、以前から悩んでいた事柄にも、そろそろ決着をつけるべき時がきたようだ。
「この年でこんな事になるとは思わなかったな」
静かにくつくつと笑っていると、腕の中のアンナリーナが身じろいだ。
「熊さん、どうしたの?」
「何でもない……」
それでも、その後もテオドールは考え込んでいる姿を隠そうとしなかった。
その後、アンナリーナはセトとイジに魔獣の森での採取を命じた後、調薬室に篭った。
そしてかつてないほどの量の調薬にかかる。
アマルやアラーニェの手も借りて、さくさく仕上げられていく様はまるで工場のようだ。
そんな頃、テオドールと言えば、クランマスター・ヨーゼフの元にいた。
「何だ?いつになく真剣な顔をして」
「あんた、気づいてるんだろ?」
ドサリとソファーに座ったテオドールはヨーゼフを睥睨した。
それに対してヨーゼフは顎をしゃくって話の先を促す。
「ギルドでの一件で、リーナが機嫌を損ねた。
すぐにここを発つと言って大変だったが、どうにか説得してあと数日は滞在する事になった。
ただ……将来的にはこの町と距離を置きたいようだ」
本当はもう少し深刻だったのだが、そのあたりはぼかして伝える。
「今回は俺もついて行って、拠点を王都に移したい。
側で支えてやりたいんだ」
「……では、かねてから予定していた、王都進出を早めるか」
「それ、それも俺は抜けさせてもらいたい」
「なんだと?」
ヨーゼフの表情が引き締まった。
「あんたもわかっていると思うが、リーナは色々訳ありだ。
あいつの周りに、よくわからん奴を近づけたくない。
それとリーナは近々、従魔たちを冒険者登録してパーティを組むらしい。
……俺もそこに参加するつもりだ」
「テオドール!」
ヨーゼフの怒気が伝わって来るが、テオドールは飄々としている。
それどころか更に彼を煽った。
「俺はこのクランを出て行くつもりでいる。
……そうなれば、リーナを留めるものがなくなるから、今すぐと言うわけではないが」
そうして二人は睨み合った。
ギルドとクランに納めたポーションや薬は合わせると、金貨2000枚を軽く超えた。
どちらの納品もアンナリーナは姿を見せず、すでに王都に戻る準備を終えていると言う。
アンナリーナが転移出来ると言う情報はなるべく隠匿したいので、町の門を出るところを印象付けなくてはならない。今回はそれに、テオドールも同行するのだ。
「へ?熊さん、もう一度言って?」
「ああ、俺も王都に拠点を移す。
まだあと何年かはクランに部屋を残して、今まで通りポーションを卸すが、行く行くはおまえと一緒に、気ままに旅暮らしもいいな、と思ってる」
「熊さん……」
「さあて、外に出たら転移するんだろう?どこに行くつもりだ?
デラガルサか?」
「うん、少し腰を据えて攻略してみる?」
アンナリーナは嬉しそうだ。




