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29『堪忍袋』

「母さん、何やってんだ!」


 その場に飛び込んで来たのは、アンナリーナもその顔を見たことがある程度の冒険者だった。


「メルタン!

 サーシャが、サーシャがっ!!」


 女が、メルタンと呼ばれた冒険者の腰にしがみつき、物言わぬ骸となった娘の名を、ただ繰り返している。


 メルタンはここに来るまでの間に、妹の身に起きたことをほぼ正確に把握していた。

 残念だし、悲しくないわけではないのだが、そもそも一般人が一人であんなところに行くなど、自殺したいとしか思えない。

 たしかに以前は子供たちが、木の実やキノコを取りに出かける事もあったのだが、ここ数年は浅いところでも魔獣を見かける事が多くなり、森に入ることは禁止されているはずだった。


「サーシャは自業自得だ。

 母さん、リーナさんに当たるなんていい加減にしろ!」


「だっておまえ」


「そもそも報告の義務だってないんだ。遺体を回収出来ただけ良かったんだよ。リーナさんに感謝こそすれ、なじるなんて」


 メルタンの目には怒りが満ちている。


「だって、助けられたって」


「バカな事言うな!

 リーナさんは薬師だぞ。

 得物だって大したものを持ってないのに、何考えてんだよ!

 一体誰だ、母さんにそんな事を吹きこんだ奴は?」


 チラリと、ホールの柱の影に隠れているミルシュカの方を見る母親を見て、メルタンは忌々しげに舌打ちした。


「またあいつか……

 母さんは騙されているんだよ!」


 それを聞いて見るからにおどおどし始めた母親に、懇々と説明する。


「……だから、究極の選択だが、もしもサーシャとリーナさんが同時に襲われていたら、俺は迷わずリーナさんを助ける。

 それほど薬師というのは貴重なんだよ」


 うずくまり、泣きじゃくる母親を、今度は宥めるメルタン。

 そこにアンナリーナの姿は、既に無かった。



 ギルドの裏口からドミニクスに導かれて、アンナリーナは早い時期に脱出していた。

 そのまま、ギルドの男子職員を護衛として【疾風の凶刃】のクランハウスに戻ると、一気に階段を駆け上がりテオドールの部屋に飛び込んだ。

 そのままテントに飛び込み、ツリーハウスに駆け込む。


「イジ、いる?」


「ご主人様?どうされました?」


「下に行って、熊さんを探してきてくれる?

 ……私、そろそろこの町と距離を置こうと思うの」


「何かありましたか?」


 とりあえずだんまりを決め込んだアンナリーナを見て、イジは動き出した。

 彼は以前、クランハウスの一階に行ったことがあるので顔を知られている。



「リーナ、どうした?」


 すごい勢いでポーションを木箱に詰めているアンナリーナの様子に、テオドールは目を見張る。


「熊さん……

 これからは私、少しずつこの町と離れて行こうと思うの」


「ギルドで何かあったらしいな」


 テオドールの耳にも、今日の騒ぎの事は聞こえてきていた。


「うん、何かもう嫌になっちゃった。

 ……こうしてたまに戻ってきたらまた、あのひとに絡まれて、いい加減にして欲しい」


「じゃあ、あっちを何とかしたらいいだろう?」


「それが出来ないから居座っているんじゃないの?」


 この町の有力者と縁故関係にあるからこそ、ミルシュカは今でもギルドにいる。

 この町ではよく知られたことだ。


「それにおまえの後ろ盾になっている【辺境伯】と【ギルド】を忘れるんじゃない」


「もう、ここには居たくない。

 ……明日、立つから」


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