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14『モロッタイヤ村の今』

「お、かみさん、が?」


 己の、震える身体を抱きしめ、顔を上げたアンナリーナは振り絞るように、ようやくそう言った。


「門番のジャージーや、食料品店のデニスの一家もやられた。

 他にも農家が数軒、女子供もお構いなしだ。ひどいもんだった」


「何て事だ」


 セトがアンナリーナの手を握りしめる。ギュっと握り返してきたアンナリーナの手は震えていた。


「ミハイルは無事だよ。

 それから、村の中心部の場所が変わったんだ。

 お嬢ちゃんが動けるようになったら案内しよう」


「すぐに!」


 テーブルに落としていた視線をあげて、アンナリーナは力強く言った。


「今すぐ案内して下さい」




 イジに縦抱きされたアンナリーナが背後にセトを従えて、ハンスの後を続く。

 元々、村の中央を貫いていた道から脇道に外れたところにあるハンスの鍛冶屋工房から、来た時と反対側に行くと道に合流する。


「この先に門を作り直して、無事だった村人は全員そちらに移ったんだ。

 冬の厳しい寒さの前に何とか落ち着けたのは、お嬢ちゃん、あんたのおかげでもあるんだ」


 アンナリーナは不思議そうな顔でハンスを見つめる。


「昨年、お嬢ちゃんはこの村に金を落としてくれただろう?

 今までの畑のさらに奥を開墾し、その金で買った種麦を撒いたところだった。手前の畑は休ませて、春になったら野菜を植える段取りになってたんだ」


 それは昨年、アンナリーナが村の中を飛び回っていた時に見た、柵の外の事だろうか。

 そこは森が広がっていたはずだったが。


「前々から開墾の準備はしていた。

 木を切り、厳重な監視のもとで焼畑をして、灰と土を混ぜ合わせた。

 今は麦が青々と育ち収穫が楽しみだ。

 ほら」


 今、アンナリーナの眼前には広大な麦畑が広がっている。それはもう穂をつけ、あとはそれを太らせて行くだけだ。


「新しい門も見えてきた。

 冬の間に家々も建て、俺たちは先に向かって進み始めたんだ」



 木造だが、以前とは比べものにならない頑丈な門をくぐり、新しい門番の兵士に挨拶する。

 新しい村の中には、ちゃんとミハイルの雑貨屋もある。

 アンナリーナは先ほどハンスの工房に飛び込んだ時のように、イジの腕から下りて駆け出した。


「ミハイルさんっ!」


 以前と同じように、以前より新しくなった店のカウンターに座って、居眠りをしている姿。

 飛びつくように近づくと、その声で目覚めたミハイルが目を瞬かせた。


「リーナ? 嬢ちゃんか?」



 カウンターの向こうから出てきたミハイルを見て、アンナリーナはその表情を曇らせた。

 見るからに不自然な歩みは、その左足が不自由なことによるものだ。


「ミハイルさん……」


 アンナリーナの視線と表情に気づいて、ミハイルは苦笑した。


「ちょっと、逃げる時にドジっちまってな。生活するには大して不自由はないんだ」


 そう言われても、引き摺るようにして歩くミハイルの姿に、アンナリーナは黙ってしまっていた。


「事の次第は……ハンスから聞いたのか?

 アンソニーに会っていくか?」


「アンソニーさん、ここにいるの?」


「ああ、うちで面倒見てる」


 ミハイルの話し方に違和感を感じながらも、アンナリーナは頷いた。


「会いたいです」


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