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4『哀しき王妃』

 この世界では毒々しいほどのピンク色の菓子を、侍女ふたりが口にしようとしていた。

 小さく開けた口で、ひとくち。


「っ!」


 その時、人生観が変わったと言っても過言ではない。

 その食感と、ここでもふんだんに使われたホワイトチョコレート。

 思わず毒味だという事も忘れ、ふたつ目を手に取り、また口にして、そして自分たちに注がれる視線に気づいた。


「あっ……申し訳ございません」


「いえ、こちらのチョコレートもお願いします」


 アンナリーナから箱を差し出され、手を出そうとした瞬間。


「そちらは違う侍女で致しましょう。

 あなた、お毒味を」


 声をかけられた侍女が頬を染めて、頷く。

 そんな遣り取りを、王妃はワクワクしながら見守っていた。


 毒味が終わって口にしたマカロンに、感激のあまり絶句して、チョコレートはその甘さに目を潤ませる。

 王妃は生まれて初めて食べた菓子に感動しきりであった。




「私、王妃様がどんなものを好まれるかわからないので、色々持ってきていたんです」


 王妃が少し席を外した時に、それまで様子を見ていた辺境伯夫人と話していた。


「まあ、どのようなものを?」


「例えば……」


 ビーズバッグから取り出したのは、それなりの大きさの箱だ。


「これには特別な製法で作られたドールが入っています。

 王妃様は年若いと伺っていたので、このようなものも用意していたのですが……少し子供っぽかったですね」


「ぜひ、見せていただきたいわ」


 実は上流貴族の婦女の間では、ドールの収集が嗜みのひとつとなっていて、辺境伯夫人にもコレクションがある。


「では、王妃様がお戻りになったら、ご披露いたしましょうか」



 アンナリーナが今日持参したドールは【異世界買物】で購入した、現代作家によるビスクドールだ。

 この世界では見慣れないものだが、その顔の造作がまったく違う。

 より美しく、可愛らしく。

 可憐な表情に、繊細な技術で作られたドールは、一目で王妃を虜にした。


「リ、リーナ様。この子を私に?」


「はい、もし気に入って下さるのなら」


 本日、何度目になるだろう。

 王妃な目から涙が溢れ、止まらない。


「王妃様」


 今度は女官長がハンカチで涙を拭い、自身も目を潤ませた。


 宮廷に疎いアンナリーナは知らなかったが、王妃が嫁いでからの7年間、表立ってはいないがその冷遇は有名で、国王と顔を合わせたのも数えるほどであった。

 後ろ盾もこの国では薄く、名ばかりの王妃とそしるものも多かった。

 そんな王妃に、親切以上のものを与えてくれる、小さな “ 錬金薬師 ”に感謝しかない。



 王宮からの帰りは辺境伯夫人と同乗していた。


「ヴィヴィアンヌ様、私、今まで知らなかったのですが……王妃様のこの国での立場というのは」


「幼くして嫁いでいらしたのもあるのだけども、陛下にはその前からの愛妾がいらして」


 面倒ごとの臭いがプンプンする。

 王妃との交流に関しては問題ないが、その他に対しては用心した方が良さそうだ。




「あー! 疲れたよ〜」


 寮の自室に戻ったアンナリーナは、アラーニェの手を借りてドレスを脱ぎ捨てていった。


「あちらでテオドール様がお待ちです」


 それを聞いたアンナリーナは閃いた。

 着ようとしていたワンピースの代わりにチュニックとレギンスを身につけてテオドールの元に向かう。


「熊さ〜ん、ただいま〜」


「おう、思ったよりも元気だな」


「うん、いい事思いついたから」


 テオドールは、悪い予感しかしない。


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