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3『お土産』

 見慣れぬ木の箱の蓋を開けると、信じられないほど薄い紙に包まれた、純白の総レース地が現れた。

 それと共にアラクネ絹が収められていて、その貴重さはこの場にいるものならわからないものはいない。


「なんて見事な……

 王妃様、ご覧くださいませ。

 この布はひょっとして」


「ご無礼かとも思いましたが、私がいつも身につけているアラクネ絹です。

 お好きな色がわからなかったので白生地に致しましたが、もしお望みならこちらで染めさせていただきます」


 それは “ 唯一無二 ”のドレスを仕立てるという事。

 王妃を仰いだ女官長は、歓喜の笑みを浮かべた。


「リーナ様、本当にありがとう。

 私……とっても嬉しいの」


 アンナリーナの手を握りしめ、ポロポロと涙を零す王妃の様子にたじろいでしまう。


「リーナ様……ありがとうございます」


 女官長も侍女たちも、涙、涙なのだが皆笑っている。

 そのへんの事情がわからないアンナリーナは、さらっとスルーする事にしたようだ。

 手許の、ビーズ刺繍のバッグからベルギーレースのハンカチを取り出し、そっと王妃の涙を拭う。


「リーナ様……」


「王妃様、どうかリーナと呼び捨てて下さいませ」


「そんな事……」


「リーナと」


「では、ふたりきりの時はお姉様と」


「それもずいぶん問題があると思いますが」


 周りの女官長たちが祈るような面持ちで見つめている。


「では、そういたしましょう。

 王妃様、お土産はまだまだあるんですのよ」


 表情を明るくした王妃が、何度も頷く。


「王妃様、お茶会のテーブルに参りましょう。

 もう辺境伯夫人も参内しているはずでございます」


 女官長の言葉に、侍女たちが王妃の化粧を直し、庭に向かった。



 後宮でも王妃のためだけにあるローズガーデンの、今一番見ごろの枝振りの正面に茶会の場が設えてあった。


 ギィ辺境伯夫人・ヴィヴィアンヌがカーテシーで出迎える中、王妃、続いてアンナリーナが現れた。


 和やかな挨拶が交わされ、茶会が始まる。


「リーナのお噂は色々聞かせてもらっていたの。

 エレアント公爵が、リーナのところでとても珍しいものをご馳走になったと」


「あっ!」


「どうなさったの?」


 アンナリーナは一瞬、口を開けて、慌てて掌で覆い隠した。


「私、忘れてました……

 王妃様の侍女の方々へのお土産を用意してたんです。

 あとでお渡ししますね」


 教育の行き届いた侍女たちは、表立ってはしゃいだりしないが、その瞳は喜びに輝いている。


「そのお土産って、私も見たいわ」


 王妃のその言葉で、新たに運ばれてきたテーブルに箱が積み上げられる。


「これはマカロンと言います。

 あまり日持ちしませんのでなるべく早く召し上がって下さいね。

 それと、この薄い箱にはハンカチが入っています……何人くらいいらっしゃるんですか?

 これで足りるのかしら」


 そう言ってアンナリーナが土産の品々を取り出すのは、空間付与したビーズバッグの中からだ。


「マカロンっていうの、私も食べたいですわ」


 ウルウルと瞳を潤ませて女官長を見上げる王妃。

 その姿はまるで小動物のようにかわいらしい。


「しょうがありませんわね。

 リーナ様、申し訳ございませんが御前で毒味させて頂きます」


「どうぞ、当然の事ですわ。

 ではもう一種類、出しましょうか」


 ゴデ○バの、デザイン性に優れたパッケージに包まれた、食するのが惜しくなるようなチョコレートの数々に、アンナリーナ以外の全員が目を瞠る。


「こちらは少し甘みが強いので、お茶にお砂糖は入れない方が良いですね」


 この世界にはないチョコレートの社交界デビューである。


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