121『串カツ』
ボリスが手綱を引いて、ようやく止まった時には、男は素早く馬車の方に回り込んできて、戸を激しくノックしてきた。
「また君か。いい加減にしてくれたまえ」
改めて戸に鍵をかけ、窓から頭だけ出して迷惑そうな顔を見せているのはダージェ、アンナリーナはその後ろに控えていた。
「改めて、昨日も言ったが俺はお買い得だぜ。
是非、是非連れて行ってくれ」
昨日とは違って、外套の下には軽鎧と剣帯、そして肩には荷物袋を担いでいる。
「昨日も言ったろう?私には君を雇う気は無いのだと。
そもそも大前提なのだが、どこの誰かわからない君をこのチームに入れる気はない。
それに君はわかっているのかね?
町の外でこのように馬車を止めると言う事は、盗賊ととられて……一閃に斬り捨てられても文句は言えないのだぞ。
ボリス、出してくれ」
御者台で馬に鞭を入れる音がして、馬車が動き出す。
今度は邪魔されないようにテオドールとイジが殺気のこもった視線で制して、アルゴを置き去りにし、走り去って行く。
「くそっ、覚えてろよ」
虚しい言葉が車輪の音に消えていく。
「もう一回くらい……ありそうですね」
むっつりと、腕組みをして前を睨みつけるダージェに、アンナリーナが話しかける。
「今夜は山中での野営ですね?
少し気をつけた方がいいかも……ですね」
「リーナちゃん?」
「今夜からは少し派手に野営しましょうか。
今更だが、結界内からは意識しない限り音や臭いは漏れない。
隠蔽しない限りは中は丸見えだが声は聞こえないのだ。
だが中からは外の音が聞こえる。
さらにアンナリーナの探査で外の動きはお見通しなのだ。
このあたりの中継地は、隣接する森を切り開いて空き地を作り、野外用の竃や、馬繋場が設置されている程度の小規模な場所だ。
そこでいつものように馬車から馬たちを外し、ボリスとテオドールが世話を始める。
イジはまた今夜見張りについてもらうので、一旦休ませるためにツリーハウスに返した。
馬車を囲むようにテント2つと食事の為のテーブルセットを設置して、大きめの結界を張った。
所々に携帯用魔導ストーブを置いて暖をとり、ボードゲーム用のテーブルも出した。
今はそこでダージェがいつものパズルをしている。
アンナリーナはテントを出入りしながら夕食の準備を始めていた。
「今日は串カツです!」
ツリーハウスのキッチンで揚げたものを運んで来るだけ。
スープはシンプルなコンソメスープを簡易魔導コンロにかけてある。
サラダはたっぷりのスプラウトにオレンジ仕立てのドレッシング。
それと、アボカドとオニオンスライスのサラダ。
パンは今夜はベーグルを用意した。
「今夜は【串カツ】ですよ。
お肉はたっぷり用意しました」
オークの肉と玉ねぎを交互に刺したもの。ミノタウロスと玉ねぎのもの。
その他の海老や野菜は【異世界買物】で串カツセットを購入した。
まるで宴会のようなノリで、さも見せつけるように夕食が始まり、ビールがどんどん開けられていく。
「で、リーナ……奴らは寄ってきてるのか?」
「ん〜 かなり遠くで動いているようなんだけど、今はあのアルゴってひとがのぞいてるだけ」
アンナリーナたちは、獲物をおびき寄せるために普段より明るく振舞っていた。




