118『スケルトン・ネロ』
「ネロ、ちょっとこっちに来てくれる?」
お茶の後、アンナリーナはネロを誘って書斎にやってきた。
「そのへんに座って待ってて」
ゴソゴソとクローゼットを探って、ひとつの木箱を持ってきた。
それを、ソファーセットのローテーブルに置くと蓋を開けた。
「これは……ネロを見つけた洞窟で、あなたが身につけていたものと、多分あなたの荷物だと思う。
これを見て、何か思い出さない?」
ネロは箱からひとつひとつを取り出し、見入っていたが何も思い出せないようだ。
すべてを見終わって、彼の得物だったろう長剣を見ても、なんの感慨もない。
かぶりを振って剣をテーブルに置くと、骸骨の空虚な目がアンナリーナを見つめていた。
「そう……
あのね、これからのことを決めたくてね。ネロは剣士と魔法職、どちらになりたい?」
骸骨なので表情はないのだが、いささか戸惑っているように見える。
「持ち物から見て……剣士ではなかったように思えるの。
どうやら剣は護身用のようだし、防具もないしね。
……私はネロに、リッチになってもらいたいと思うの」
リッチとは、魔法職のスケルトンの上位種だ。
アンナリーナは、将来的に人型の魔獣を護衛として連れ歩きたいと思っていた。
剣士としてはイジがいる。
セトはどちらかと言えば魔法職なのだが、今のところ人型になれない。
ぜひネロに魔法職となってもらって、共に世界征服を……
冗談である。冗談なのだが、できてしまいそうで怖い。
「リッチ?」
「うん、でも返事は焦らないから。
まずは少しずつステータスを上げていくね」
「ワカリマシタ」
ネロが書斎を出て行って、アンナリーナは木箱を元に戻した。
今、ネロに返しても良いが、混乱するだろうからもう少し預かることにしたのだ。
しかし……
予測していなかったわけではないが、生前の事をまったく覚えていないとは思わなかった。
人間としての生を終えてから時間が経ち過ぎて、記憶がなくなってしまったのか、もしくはこのまま魔力値を上げていけば思い出すのか。
何もかも手探りなのだ。
アラーニェに手伝ってもらって入浴し、第二の我が家とも言えるテントに戻ると、テオドールも入浴し、まだ髪が濡れたまま居間でワインを飲んでいた。
「熊さん、お待たせ」
「おう、もうあっちはいいのか?」
「うん。新しい従魔がね、話せるようになったんだ。
ちょっと今までの子たちと毛色が違うんだけど、ゆっくりと育てていくつもり」
テオドールは今回、アンナリーナの従魔たちには本当に世話になったと思っている。
もしも、彼がアンナリーナと知り合っておらず、クランのメンバーでこの依頼を受けていたら……指名依頼なので確実に受けていただろう。
そして全滅していた事は否めない。
アンナリーナほどの結界を張れる魔法職は他にいないし、暖をとるすべもない。
あの洞窟に閉じ込められた段階で終わりだった。
セトやイジが野営の時の見張りについてくれたことも大きかった。
「新しい従魔か。
どんな奴なんだろうな、会えるのを楽しみにしているよ」
「うふふ、絶対びっくりするよ」
翌日は、完全な休日を与えられ、早朝から市に向かったアンナリーナたちと入れ違いに、ダージェは招かざる客を迎えていた。




