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105『緊急避難』

「熊さん!

 すぐに濡れた衣服を脱がせて!」


 アンナリーナはまず、馬車を中心に十分な余裕を持って結界を張った。

 そしてテントを自分たちのと、エメラルダに売ったものと同じタイプのものを出した。そこに魔導ストーブを出し、以前【異世界買物】で買っていたパイプベッド、マットレス、二枚重ねマイヤー毛布を2枚、羊毛掛け布団を取り出した。


「熊さん、早くこっちに運んできて!」


 ボリスの冷え切った服を脱がすように指示し、下着姿の彼を毛布で包むようにしてベッドに寝かせる。

 もう一台、魔導ストーブを出して、それからぶどう酒を取り出し【加温】する。


「これを、ボリスさんを何とか起こして飲ませてあげて。

 熱いから気をつけてね!」


 陶器のマグカップと共に押し付けて、アンナリーナは湯たんぽを取り出した。


「【ウォーター】【加温】」


 煮えたつほどの湯を湯たんぽに注いで蓋を閉める。

 そしてバスタオルで包み、紐でぐるぐる巻きにする。

 それをボリスの足元に押し込んだ。


「あー、とりあえずこんなもんかな」


 アンナリーナが一息ついた時、ダージェがおずおずと声をかけてきた。


「リーナちゃん、俺は未だに何がどうなっていたのかわからないが……それでもボリスが危なかったというのはわかる。

 奴を助けてくれてありがとう」


「はい、当面の危機は過ぎ去ったけど……数日様子を見ないと全快とは言えません」


 ダージェは顔色を変えた。

 付き合いの長い、御者のボリスは最早家族と言ってもいい。


「そんなに悪いのか……」


 彼はこんな真冬に仕事を受けた事を、心底悔やんでいた。


「身体の熱が奪われる病気です。

 これが進んだものが凍死です」


 ダージェが息を呑む。


「大丈夫ですよ。

 でも、また寒さの厳しい中を行くので少し慎重にしましょう」


 ダージェにもテントの中に入るように言うと、アンナリーナは洞窟の入り口に向かった。


「【天候予測】」


 頭の中に浮かんだ文字はまるで前世の気象情報のようだ。


『北北東の風20m、最大風速25m強

 吹雪、最高気温0℃、最低気温マイナス20℃、現在の外気温マイナス10℃、現在所の気温5℃』


「便利だけど、知ってしまうと怖いものもあるわね」


『主人様、天候には勝てませんよ』


「そうだね。

 まあ、こんなふうにわかるのなら、もっと早くから使った方が良かったね」


 アンナリーナは踵を返し、皆の元に戻っていく。

 その顔つきは厳しかった。




「ボリスさん!

 目が覚めたんですね。よかった!!」


 アンナリーナがテントに戻ると、身を起こしたボリスが2杯目のぶどう酒を飲んでいるところだった。


「リーナちゃん、ありがとう。

 おまえさんが助けてくれたんだってな」


「私は対処の方法を知ってただけ。

 それよりもダージェさん、ちょっと」


 アンナリーナは外の状況を話してみせた。

 そしてボリスに聞いてみる。


「このあたりはいつもこんなに、天気が荒れるのですか?」


「ああ、だからこの一帯には人が住まないんだ」


「異常に気温が低いのですが、最寄りの村や町に影響は?」


 前世でも、極地に住む種族は先史時代からいたことがわかっている。

 それなりの装備と食料さえあれば生きていけるのだ。


「何年……いや、何十年に一度、すべてを凍りつかせる “ 冬 ”がやって来る事がある。

 人間が生きたまま凍ってしまう事もあると聞いた」


 マイナス50℃を下回る気温になる可能性があると言う事なのか。

 アンナリーナは洞窟の外、すでに闇が迫ってきている空を見つめた。


 とりあえず、結界はこの洞窟のホール状になっている部分すべてに広げた。

 チラリと探査した結果、脅威になるものはなさそうだ。

 そして馬たちの近くにも魔導ストーブを置いて、彼らが凍えないようにする。


「馬の世話もしなくちゃね。

 熊さんだけでは大変だから、イジを連れて来るよ。待ってて」


 アンナリーナは自分のテント経由でツリーハウスからイジを連れて来た。

 本来、馬たちは魔獣であるオーガに怯えるのだが、ここ数日の付き合いで、すでに身体を触らせるほどに慣れている。

 4頭の馬の世話を2人に任せ、足元の敷藁と、飼葉と水を用意してアンナリーナはダージェたちの元に戻った。


「さて、今夜の献立はどうしようかしら」


 身体を温めるために熱々の汁物は欠かせない。

 ここは保温効果のある、とろみのついたシチューが良いだろう。

【異世界買物】で買っていたコーンクリームシチューのルーを3箱取り出す。

 あらかじめ作り置いていたあっさりシチューにルーを割り入れ、ミルクで割る。

 そうすると、大きめ野菜とハムのコーンクリームシチューの出来上がり。

 バターをたっぷり練りこんだ捻りパンと、オーソドックスなポテトサラダ。

 かぼちゃの甘露煮や、茹でたて熱々のブロッコリーとカリフラワーとロマネスコの辛子マヨネーズドレッシング、など。

 野菜も身体を冷やさないよう、気をつけた。

 いつものテーブルに料理を広げ、火を絞った魔導コンロにシチューの鍋をかけて、食事が始まる。


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