90『ギィ辺境伯家』
期末考査が終わり、数日の中休みの後冬休みが始まる。
この学院は、元々貴族の子女の為に作られたもので自然、冬の社交シーズンの休みは長くなる。
新学期はギフト授与式の後になる。
そんななか、一部の女子生徒は溜息をついていた。
とうとうあの【薬師】の少女とお近づきになれなかった。
そう、今はもう誰もアンナリーナのことを平民と卑下する事はない。
入学式の後のあの一件で、結局のところ3人の生徒が自主退学していったのだが、特にリリス・ロドスの病気は気付かずにいれば自分たちも巻き込まれていただろう “ 事件 ”だった。
貴重な【薬師】と、出来ることなら学友になりたい。
だがその肝心なアンナリーナは、授業には滅多に姿を現さない。
すでに殆どの教科が飛び級扱いで、研究塔にいる方が多いだろう。
彼女は溜息をついて、帰宅の為の馬車に乗り込んだ。
「パーティ?!」
ギルドの依頼を終え、久々に帰ってきたテオドールと食卓を囲みながら、アンナリーナは今日ユングクヴィストに言われた事を愚痴っていた。
すでにアラーニェはドレスの用意に入っている。
アンナリーナはマナーやドレスコードに悩んでいた。
「それって強制……なんだよな?」
「うん、断れないっぽい」
「う〜ん、リーナの後見は辺境伯家だから、そっちに話を通した方が良さそうだな。
……辺境伯は確か、もうこちらに着いてらっしゃると思うが、会ってみるか?」
もうこうなれば仕方ないだろう。
「一応、面会希望を出しておこうか。
……パーティ、パーティねえ」
元よりアンナリーナとの面会を希望していた辺境伯は、嬉々として許可を出した。
面会日は翌日、せっかちにもほどがある。
冒険者ギルドで借りた馬車でテオドールと向かったのは、ギィ辺境伯の王都での館だ。
馬車止まりに着くと辺境伯家の従僕に丁寧に対応されて、今アンナリーナは辺境伯の私的な居間に通されていた。
従者が扉を開け、辺境伯の訪れを告げる。
サッと立ち上がったアンナリーナは優雅にカーテシーをし、挨拶をした。
「リーナ殿、どうか楽にしていただきたい。テオドールも」
辺境伯がソファーに腰掛けるのを待ち、2人も腰を下ろした。
「で? どうなされた」
詳細は昨日、手紙で送ってある。
これは形式だけのものである。
「実は魔法学院のユングクヴィスト様から、一緒にパーティに出るようお達しがありまして、でも私には細かいマナーやドレスコードまではわからない事が多く、後見人である辺境伯様にお縋りしたく参上致しました」
リーナはそうは言うが、先ほど見せたカーテシーは完璧であったし、髪や肌の手入れも行き届いている。
話し方も、その間の取り方も申し分ないだろう。
むしろ、魔の森の奥深くからやってきたという事でどのような山猿がやってくるかと戦々恐々としていたのだが、拍子抜けする。
「淑女の嗜みについては私より妻がよろしかろう。
彼女のサロンで……」
そこに、控えめだがはっきりとしたノックの音に続き、扉が大きく開け放たれ、1人の貴婦人が入室してきた。




