88『洞窟の骸骨』
何十年、いや何百年経っているのだろう……
「たったひとりで、こんなところにずっと……寂しかったでしょうね」
俯いた骸骨が頷いたように感じた。
「ひとりっきりで最期を迎えた?
それとも誰か看取る人がいたのかしら……?」
アンナリーナは傍に跪いた。
側に残る遺品は、その年月の長さを表すようにボロボロなものが多い。
たったひとつ、往時の姿を遺していたのはミスリル製の剣とその鞘だけだ。
あとの衣類はもう原型を留めず糸屑の塊のようになっているし、アイテムバッグだったらしきものもあるが、はっきり言って触れるのをためらう状態だ。
そんななかアンナリーナは、わずかに布を纏った腕の骨に触れる。
「安らかに眠っているあなたを起こしてしまったら……怒るかしら?
でも、お友だちになって欲しいな」
アンナリーナは、どうするつもりか?と目で問いかけてくるセトとイジに何も言わず、アイテムバッグから大きな布を取り出した。
「イジ、この人を連れて帰ります。
壊さないように、そっとこの布に横たえてあげて」
イジが、これ以上ないくらいに丁寧な手つきで布に移し、抱えやすいように包む。
アンナリーナは、骸骨を取り除いた場所から、何ひとつ漏らさないように遺品を取り上げた。
最後に剣を持ち、立ち上がる。
「ここに転移点を置いて、ツリーハウスに転移します」
「主人様、この骸骨さんをどうなさるおつもりですか?」
ナビが心配そうに聞いてくる。
だが半ば、答えを予想しているようだが。
「うん、今まで手をつけていなかった【死霊魔法】を使ってみようと思うの。倫理的に忌避されるかもしれない……本人にも嫌がられるかもしれないけど」
「わかりました。
私も出来る限りお手伝いします」
採取を途中で切り上げてきたので、午後いっぱい時間がある。
骸骨……何百年も前の人の遺骸を、アンナリーナは調薬室の奥の大テーブルに置いた。
そして書庫に向かう。
【死霊魔法】のスキルがあるので、漠然とだがスケルトンに命……人の手による仮初めの命だが、与え方は分かっている。
だがアンナリーナは万全を期し、加えてオプションもつけたいと思っていた。
書棚から【死霊魔法】について記された本を数冊抜き出し、机に向かう。
禁忌とされた【死霊魔法】について書かれた本は少ない。
その数少ないものを確かめるようにページをめくり、所々の呪文を書き写していった。
「やっぱり肉体を再生するのは難しいみたいね……
ん〜せっかく蘇るのだから飲食出来るようにしてあげたいし」
「元々【死霊魔法】は命失ったものを使役するための魔法です。
それらは意思を持たず、主人の意のままに動く傀儡に過ぎません」
「そんなのは嫌なのよ。
私はあの骸骨さんと、みんなと同じように接したい」
「主人様には、何かお考えがあるのですね?」
「そうだけどね」
すべてが上手くいくとは限らない。
これは賭けなのだ。
「うん、これでなんとかなるかもしれない。ナビ、やるよ」
もしもの時の為にイジだけを残して、あとの者はすべて室外へ。
そして鍵をかける。
結界も念入りにかけた。
座った姿勢のまま、横臥した骸骨からはわずかに残っていた衣類の残骸も取り払われ、汚れもきれいに払われていた。
「では、いくよ」
ゆっくりと唱えられていく呪文。
それと共に込められていく魔力は、ツリーハウス自体が震えるほどの濃さだった。
アンナリーナの額から汗が滴り落ちる。
永遠とも思われるような時が過ぎ去り、淡く光った後、骸骨……スケルトンが動きだした。




