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75『深い悲しみ』

 イジがクランに駆け込んだ少し前。


 アンナリーナに巻かれてしまって、仕方なくツリーハウスに戻り、しばらくして主人の気配を感じて飛び出すと……そこには茫然自失といった状態のアンナリーナが座り込んでいた。


「主人様!」


 様子のおかしいアンナリーナを抱き上げ、慌てて室内に入る。

 虚ろな目つきの、自らの主人の様子に皆が慌てた。

 そして、テオドールに頼ったのだ。




「これは……

 リーナ、しっかりしろ!」


 揺さぶるとガクガク震えるだけで、一言も話さないアンナリーナを見てテオドールは顔色を変えた。


「リーナ、リーナ!!」


「くま……さん?」


 蚊の鳴くような小さな声で囁いて、ようやくテオドールを認識したアンナリーナが次にとった行動は……


「くまさん……」


 いつもは健康的に輝いている目からポロポロと涙が零れ落ち、大声で泣き始めた。


「うわぁーーん」


 テオドールの服を握りしめ、やっと動き始めたアンナリーナを見て、従魔たちはホッとしたのだがそれも少しの間。


 アンナリーナが泣き止まない。

 さすがに、最初のような大泣きは影を潜めたが、グスグズと泣き続けてテオドールから離れない。

 彼はそのまま胸を貸すことにしたのだが。



 丸一日泣き続けているアンナリーナは衰弱してきていた。

 それでも、半ば意識が混濁している状態で泣いている。


「リーナ、そろそろ泣き止まないか?

 いくらなんでも、そろそろ拙いだろう」


 しゃくりあげながらも反応を示さないアンナリーナを抱きしめた。

 いくら勧めても水すら飲もうとしない彼女に、口移しで水を飲ませる。

 静かにすすり泣くアンナリーナは、胡座をかいた状態のテオドールに抱かれたまま、夜を明かした。

 この頃はテオドールも従魔たちも楽観視していたのだが、すぐにその思いを改める事になる。


 水分はテオドールのおかげでどうにかなっていたが、食事はまったく摂ろうとしない。

 元々脆弱なアンナリーナの身体が悲鳴をあげるのには、大した時間を要しなかった。


「リーナ、スープだけでも飲んでくれないか?」


 テオドールが近づけたスプーンに対してだけ、口を開ける。

 5日目になると、どうにか涙だけ流し続けるアンナリーナを、テオドールは飲食の世話、排泄や入浴まですべてを行なっていた。



 すすり泣くアンナリーナの背を撫で、優しく名を呼ぶ。

 2人で風呂に入り、隅々まで洗い清め、髪を乾かしてやる、

 髪を梳き、添い寝して献身的に世話をした。

 食事も、小さくカットした食材を、フォークで口許まで持っていくと食べるようになった。

 テオドールは、この自分の世話がなければ生きていけない、腕の中のアンナリーナが愛しくて、ドロドロに甘やかしている。


 卑怯だと思われるかもしれないが、彼はこのチャンスを逃すつもりはない。


「リーナ、俺はおまえを裏切らない」


 額にキスをして、涙で荒れた頬に薬を塗っていると、突然アンナリーナの目蓋が開いた。


「くまさん、ありがとう。

 本当、甘えたくなっちゃう」


 久々のまともな言葉。


「いっぱい甘えたらいい。

 リーナはこんなに小さいんだ……

 元々おまえは頑張りすぎなんだよ」


「うん、ごめんね」


 そしてこの後、アンナリーナは熱を出して寝込み、テオドールをさらに心配させた。


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