65『ギルドマスターとの対峙』
「私はアンナリーナ。
この度、魔法学院受験のためこの王都にやって来ました」
アンナリーナの事を【鑑定】で読み取ろうとしたデルスラーは何も読み取れない事にたじろぎ、一段上の【解析】をかけてみたのだがこれも跳ね返された。
「ギルドカードはこちらで出した方がいいですか?
それとも下に降りてからカウンターで?」
アンナリーナはカードに記された情報以外は与えないと言っている。
「いや、下では騒ぎになるだろうから、今ここで」
あっさりと手渡されたカードには、名前と年齢、そして職種が薬師だということと、従魔が2匹いる事が記されていた。
「今回は受験だけなので、この子しか連れていません」
先ほどと同じようにローブの前をくつろげ、顔を出したセトを取り出す。
「ギルドカードに登録しているように、ブラックリザードのセトです。
これで申請した事になるのでしょうか?」
先ほどの受付嬢が読み取り用の水晶玉を持って来ていて、いつものギルドのようにカードを通している。
「はい、これで結構です」
カードが戻され、アンナリーナはそれをアイテムバッグにしまった。
「本当に薬師殿なんだな」
しみじみといった面持ちでアンナリーナをジッと見ている彼は、見たところ60代くらいだろうが、まだまだ現役で通用しそうだ。
「それから、これも預かってきました」
新たにバッグから取り出された封筒を見て、デルスラーは背筋を伸ばした。
アンナリーナの手にあるのは、ギィ辺境伯家の公式の封筒。
その封筒を受け取って、封蝋を確認すると、それは祐筆役の押した印ではなく、辺境伯自身の印章指輪が使われている。
これは単なる命令書ではなく、辺境伯自身からの手紙だ。
ペーパーナイフで封を開け、手紙を読む。
そこには、この小さな薬師に出来る限りの便宜を図るよう指示されていた。
【指示】である。お願いではない。
彼はアンナリーナに視線を戻した。
「相わかった。
ギィ辺境伯閣下の仰ること、こちらに異存はない。
まずは今夜の宿か……
もう、決められたかな?」
入学試験まで、あと5日ある。
「まだです……
どこか、お薦めありますか?」
アンナリーナは若い。
普通ならここで比較的安価で治安が良い宿を薦めるだろう。
だが、彼女は薬師なのだ。
金に困っているようには見えない。
「金の小鳥亭、王都では中の上ランクの宿だ。
家族で経営していてこじんまりしているが、面倒見がいい」
「そこって子供います?」
「いや、主人夫婦はもう中年だし、息子は成人しているはずだ」
「できれば企業経営している宿が良かったんですけど……
まあ、そんなに長く泊まるわけではないし、はい。そこでお願いします」
デルスラーは瞠目する。
普通、このくらいの年齢の少女なら、自分と同年代の話し相手を望むはずだ。だが、目の前のこの少女はそれを拒絶した。
「ありがとうございました。
では、これから行ってみますね」
今アンナリーナは、やけにくつろぐテオドールの膝に乗せられ、困惑している。
ここはテオドールの部屋に残してきたテントの中、アンナリーナはハンネケイナを出発してからほとんど毎晩ここで過ごしてきた。
「ようやく着いたな。
これから試験まではどうするつもりだ?」
「明日からは町を見て回るつもり。
ふふ……一緒に来たい?」
テントからテントへと移動すれば可能である。
まだ設置していないが、転移点というすべもある。
「目立つから門の外に移動してきて、入都……という形にするとして……
ギルドカードとかに記録が残るのかしら?
う〜ん、熊さんがボディガードとして一緒にいてくれたらゆっくり見て回れるんだけどな」
テオドールの心がぐらりと傾いた瞬間だった。




