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48『遭難の顛末とロビンの治療』

【ゴブリン】から【ボブゴブリン】にレベルアップしたイジは、身長や体格だけでなく顔つきまでもが変わっていた。


 しばらく床に伏せたまま動かなかったイジが、顔をあげると別人のようになっている。


「おお……すっかり精悍な顔つきになっちゃって、かっこいいよ。

 これはますます研鑽して、立派な剣士になって欲しい」


「ご主人様のために、これからも精進していきます」


 アンナリーナの前に跪き、頭を垂れた。




 早朝、まだ夜も明けきらぬ中アンナリーナはロビンの部屋に向かった。


 スープに混ぜた眠り薬はよく効いたようだ。

 規則正しい寝息を耳にして、アンナリーナはロビンの体を【解析】した。


『疲労、軽度脱水症、炎症、白血球増加、打撲、裂傷』


「あの木の上で、治癒魔法をかけ続けていたんだね。よくがんばったね」


 炎症に効く薬草を選んで刻む。

 そのくらいは宿の部屋でも出来る事だ。

 目覚めたら飲ませる薬や薬湯を用意しているとノックの音がする。

 そう、まずは兵士からの事情聴取があるのだ。



 アンナリーナは兵士たちとその場を共にしなかった。

 自室に戻り、ロビンのための薬を調薬する。

 おそらく2〜3日、薬やポーションを飲めば完治するだろう。

 自身の治癒魔法もある。

 そうして、余った時間をポーション作りに充てていたところ、ノックの音に気づいた。


「薬師殿、よろしいか?」


 兵士長がわざわざ説明のために訪れてくれた。

 ロビンから聞いた話は、やはり思った通りだ。


「治癒師殿が言うには、怪我人を抱えていることもあり、第9階層に降りるのは反対したそうだが、結果的にはリーダーが押し切ったらしい。

 それからは……魔獣が、魔狼の群れに襲われて、戦闘力が低い治癒師殿はあの木に登り、あとは全滅したそうだ。

 彼が意識を失う前、2日間魔狼はあの場所から動かなかったそうだ」


「そう……

 あの、治癒師さんとはお話できるかしら?」


「ああ、重ね重ね迷惑をかける。

 今回の薬代はこちらに回してもらって構わないので、よろしく頼む」


 この言葉にアンナリーナはびっくりする。

 今回は完全に持ち出しで、損を覚悟していた。ただ恩を売って、ジャマーのところのポーションが売りやすくなれば……くらいに思っていたのだが。


「どうしてそこまで優遇するんです?

 ダンジョンにもぐった冒険者の、怪我人のケアなんて、普通しないでしょう?」


「普通のダンジョンならな。

 ここは出来たばかりのダンジョンで、まだ中がどうなっているかわからない。今は領主がギルドに依頼して探索している状況なんだ。

 だから、今回は捜索に出たし……やはり治癒師は貴重なんだ」


 結局そうなのだ。

 ロビンはかなり能力の低い治癒師なのだが、これだけの優遇を受ける。

 これが、もし自分が治癒魔法各種を使える事が知れたら恐ろしいことになる。

 背中を駆け上がった寒気に身を震わせ、アンナリーナは兵士長を送り出した。

 次はロビンの元に向かう。




「ロビンさん、お加減はいかが?」


 アンナリーナはトレーにパン粥を乗せて差し出した。

 ミルクにちぎったパンを入れてくたくたになるまで煮込んだ粥。

 味付けは塩だけだが、仕上げに生クリームを入れて旨みを増してある。

 デザートに桃のコンポートを付けて、食欲などを観察していた。


「ご馳走さまです。美味しかった……」


「よければ他にもあるけど?」


 一度にたくさん食べるのは、空っぽだった胃に悪いと、かぶりを振る。

 アンナリーナは数種類の薬と薬湯を差し出した。




「あの、ちょっと聞きたい事があるんだけど」


「僕に答えられる事なら何でも」


 ロビンがにっこりと笑う。


「えーっと、ご存知の通り、私は薬師なんですけど、その……この仕事をしていて色々わからない事があるわけなのですよ」


「具体的には?」


「私は人里離れた森の中で、師匠に教わって薬師になりました。

 でも最近、その師匠が亡くなって、自分があまりにも物事を知らない事に気づいたのです。

 一番の疑問は」


 そこでアンナリーナは、ずい、と身を乗り出した。


「患者さんの体力値より値の大きい回復薬やポーションを使って、なぜ全快しないのか?

 体力値と病気は別物なのか、病気の場合個別の薬で治療しないと回復が認められないのはなぜなのか?

 今のところはこのくらいです」


 ロビンが溜息を吐いた。


「難しいですね。

 僕は、体力値の回復と怪我の治療は出来ますが、もともと病気の治療は治癒師の仕事ではないのです。

 学院でも、僕のいたレベルのクラスではその答えはありませんでしたね」


「え? 学院?

 治癒師の学校があるの?」


「ええ、大体どこの国でも王都に魔法学院がありますよ」


 この時、アンナリーナの次の目標が決まった。


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