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11『アンナリーナの紅茶』

「あ〜 薬師だもんな、鑑定持ちか。

 俺に触れたから “ 読み込まされた ”んだな。変に気を遣わせて悪いな。

 これは俺の質なんだわ」


 真っ青になっているアンナリーナの、頭にポンポンと手をやって、テオドールは笑った。


「まあ、とりあえず座れや」


 と、言ったテオドールの手でひょいと持ち上げられ膝に乗せられる。

 アンナリーナが唖然としていると、慌てたエメラルダに抱き寄せられた。


「テオドール! 年頃の女の子に何するのよ!」


「いいじゃないか、少しぐらい……

 ケチ」


 そう言って、目の前にドンと置かれたものは見るからに酒で、最早アンナリーナは涙目だ。

 対してエメラルダはこの幸運に胸躍らせていた。

 多少、魔力の質が変わったとはいえ、この至近距離での接触でイってしまいそうになる。


「テオドール、ふざけるのはやめにして下さい。

 リーナさん、大丈夫です。

 この熊は後で私が締めておきますから」


 酒場の従業員が慣れない手つきで茶器を運んでくる。

 気持ちを落ち着けるためか茶器に手を伸ばしたアンナリーナがポットに触る。

 少しぬるいので【加温】し、ティーポットとカップを温め始めた。

 そして瓶に入った茶葉を嗅いでみると、かび臭い。


「……プーアル茶になってる」


 アンナリーナはバッグからいつも飲んでいる薬草をブレンドした茶葉を取り出し、湯を捨てたティーポットに茶さじで人数分、入れる。


「【ウォーター】【加温】」


 空気と魔力をたっぷりと含んだ、沸騰した湯が指先から注がれ、ポットの中で茶葉が踊る。

 蒸らしを待つ間にミルクや砂糖を出す。ついでに茶菓子として、最近大量に作ったラングドシャを添えてみた。


 カップを温めていた湯を捨て、4つのカップに均等に注ぎ、ソーサーにのせ、スプーンを添えて各自の元にサーブする。

 その一挙手一投足を見つめていたエメラルダは、その隙のない、完璧な作法に舌を巻く。

 末端に近いが、貴族の出身であるエメラルダが、である。


 実はアンナリーナ、前世で紅茶教室に通っていた事があった。

 男性の影もない、時間だけは持て余していた彼女は、まだ20代の頃は頻繁にカルチャースクールなどに通っていた。

 その時蓄積した知識は今、充分に役に立っている。


 対して、茶を淹れてもらった男たち……特にテオドールは砂糖に魅入って動かない。

 今回はグラニュー糖を出してみたのだが、これが珍しかったらしい。

 シュガーポットから何杯もスプーンですくってカップに投入する姿に、アンナリーナは口角を上げた。


「もう、なんて恥ずかしい奴!」


 エメラルダが怒るなか、ちょうど喉が渇いていたアンナリーナは、淑やかにカップを持ち上げる。

 そのまま紅茶を口にして悦に入った。


『うんうん、今日もいい感じ。

 このブレンド茶、気に入ってくれるかな?』


 うふふ……と笑う。



 魔法職2人は紅茶を一口含んだ途端、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。

 この紅茶自体も大変に美味しいものだ。ブレンドされた薬草の配分も申し分なく、紅茶を引き立てている。

 さらにその液体に溶け込んだ魔力は半端な量ではないのだ。

 頭の先から痺れていくような、アンナリーナの魔力を取り込んだ2人は身の内に循環するそれに震えさえ走る。


「リーナちゃん、このお茶……」


「気に入っていただけましたか?

 このお茶は疲れが取れるんですよ」


 にこやかに微笑むアンナリーナの前で、鑑定持ちのアーネストがこっそり自分を鑑定して……思わず立ち上がって椅子を倒してしまう。


「これっ、このお茶はっ」


「お茶じゃなくて、お湯の方です。

 たっぷり魔力を練りこんでありますから……何かありました?」


 アーネストは黙り込み、再び席に着いた。

 これは、こんな場所で話す話題ではない。


「どこか、ゆっくりとお話が出来るところに移った方が良いでしょう」


 アーネストがテオドールにチラリと目配せする。すぐに頷き返された。


「では、私の泊まっている宿に来ますか? 緑の牧場亭というところですけど」


「サムとアンのところか!

 あそこなら多少の融通は利く。

 今日の晩飯はあそこで豪勢に行こうぜ!」


 テオドールがすっかりその気になっていた。


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