10『2人の魔法職と熊男』
ドミニクスは一目で、ミルシュカがらみのトラブルが起きたことを理解した。
「私はあなたに、リーナさんに接触しないように言いましたよね?
あの方の【専任】は私だとも」
普段は温厚な鑑定士のドミニクスは、実は怒らせるととても怖い。
この、ギルドのNo.3にはギルドマスターやサブギルドマスターも逆らえないほど、手厳しい相手なのだ。
そのドミニクスがミルシュカを連れて奥に入っていく。
その最中、チラリとアンナリーナに向けた目は一瞬柔らかく笑んで、ミルシュカを引っ立てていった。
そして、それと同時に周りを囲むようにしていた冒険者たちが引いていく。
庇われたままだったアンナリーナが我に返った。
「あのっ、ありがとうございます」
ペコリと礼をしたアンナリーナから濃厚な魔力が溢れ出る。
純粋な好意からの潤沢な魔力は、2人の魔法職を包み込み、うっとりとさせる。
「腕は大丈夫? 怪我してない?」
「はい、すぐに払ったから……どこも痛くないです」
元々、薄い防御を纏っている。
アンナリーナを素手で傷つけるのは、屈強な男でも苦労するだろう。
「でもびっくりしたでしょう?
少し休憩していかない?」
同じ女性だからだろう。
エメラルダは気安く声をかけているが、アーネストの方はアンナリーナを前にして硬直してしまっている。
彼は先ほどの、好意に満ちた魔力に全身を包まれて、身も心も囚われてしまったのだ。
「えっと……はい」
戸惑いと躊躇いに見開かれた目。
それはいつにも増して、虹彩の金が光り輝いている。
やられた、と思った。
女同士なのだからそういう気持ちを持つこと自体、不毛だ。
だがエメラルダは、この潤沢な魔力を持つ少女に心を奪われてしまった。
……そうなると、先程から固まったままの、目の前の男は恋敵にしかならない。
「あの、私はエメラルダというの。
あなたのお名前、聞いていいかしら」
「す、すみません。
助けていただいたのに、名乗りもせずに。
私、リーナと言います」
もう一度、ペコリと頭を下げた。
「こっちの、今は無口なのはアーネスト、私たちは【疾風の凶刃】というクランに所属しているの」
紹介という形で一応、恋敵に塩を贈っておく。
「あの、アーネストさん?
先ほどは庇っていただいて、本当にありがとうございました」
突然、正気に返ったアーネストが耳を赤らめる。
「いや、大した事ではないですよ。
あのミルシュカはタチが悪いからこれからも気をつけた方がいい」
アンナリーナにとっては、貴重な情報を教えてくれた恩人だ。
自分が物知らずという自覚はあるので、この機会に情報を取り入れる事にした。
「はい、気をつけます」
「むさ苦しいけど、ここで休憩しましょう……それとも何処か行く?」
アンナリーナは首をこてんと傾げた。
「私、他の所って知らないんです。
ここには昨日着いたばかりですし」
片方の頬に手をやる仕草。先ほどの首を傾げた事といい、あまりの可愛さに2人は内心で悶え狂っている。
「おい、むさ苦しいのは下がらせたぞ。こっち来いよ」
熊だ、熊!
一瞬、アンナリーナは森熊と間違えて殺気を飛ばしてしまった。
それほど熊を思い出させる人間だ。
「リーナちゃんが怖がるから、あんたは近づかないで」
「つれないことを言わないでくれよ〜
俺は【疾風の凶刃】の第1、第2パーティのリーダーをやってるテオドールって言うんだ。熊じゃないからな」
「あの、リーナです。その、ごめんなさい」
アンナリーナの方から右手を差し出した。
その握手のために出された手は、びっくりするほど小さく、テオドールは力加減に苦労する。
だがアンナリーナの方は触れる事によって意図せずに流れ込んできた彼のステータスにびっくりした。
『体力値32684……
今まで知り合った人たちの中でダントツだわ』
そしてよく考えずに言葉がついて出た。
「どうやって回復してるんですか?」
そして、アンナリーナを含む4人がギョッとする。




