5『やはりアンナリーナの(鍋買い)無双』
結局、ドミニクスにギルドカードの隠蔽の仕方を教えてもらい、登録料の支払いも割り込みをさせてもらってギルドを後にした。
明日の、朝の喧騒が終わった時分にギルドに来るように約束させられ、売り物を持って来るように言われている。
アンナリーナは外に出てすぐに、自身に緩く結界を張り、街中を歩き出した。
さすがに領都。
今までの村とは違う。
今いるのは所謂メインストリートであって、道の両側にはびっしりと店が並んでいる。
お登りさんよろしく、あまりキョロキョロすると、少女なのも相まって犯罪者に目をつけられてしまう。
アンナリーナは目だけを動かして店定めしていた。
冒険者ギルドに近い所では武器屋や防具屋、冒険者がよく使う雑貨などを扱った店が固まっている。
物珍しそうに店を覗くアンナリーナの姿は好奇心旺盛な子供の姿に他ならず、周りの人々の微笑みを誘っていた。
そして食料品の店が集まる一画で足が止まる。
アンナリーナはそこにあった金物屋に突進した。
「鍋!!」
モロッタイヤ村で調達した鍋のいくつかがフランクやマチルダに譲り渡されている。
【異世界買物】でいくらでも手に入るのだが、あちらの製品は人目のある所ではちと、使いづらい。
もう少し買い足したいと思っていたところだった。
金物屋はアンナリーナにとってパラダイスだ。
そして、さすがは領都。モロッタイヤ村では手に入れられなかった特大の寸胴鍋が並んでいる。
そして目に付いたのは打ち出し鍋だ。
同じ手のものなのか、使いやすそうな中華鍋もある。
これは買いだ!
「こんにちはー! すみません!!」
モロッタイヤ村の鍛冶屋では難しかった片手鍋も、ここでは各種揃っていた。
「はいはい、おや? お嬢ちゃん、お使いかい?」
白い、サンタのような顎髭を蓄えた、柔和な老人が近づいてくる。
「こんにちは。
ここのお鍋、素晴らしいですね!
私、ぜひ買わせていただきたいです」
飛びつかんばかりの勢いで食いついてきた少女に、店主はタジタジだ。
「特にこの打ち出し鍋!
エクセレント!です」
目をキラキラと輝かせ、アンナリーナは1つのソースパンを取り上げた。
「このソースパンでカスタードクリームを作ったら、きっと今までよりもずっと美味しく出来ると思いますっ!
この、均等に打ち出された鍋の熱伝導率が……」
ハッと気づいたアンナリーナが口を閉じる。
店主は呆気にとられて、声をかけるのも忘れていた。
「お嬢さん、その鍋を気に入ってくれてありがとう。でもそれは少々、お高いんだよ」
にこやかに、まるで孫に言い聞かせるように、店主は気を遣って言った。
だが。
「問題ありません!」
再びアンナリーナの、鍋買い無双が始まった。
野営の焚き火に掛けても惜しくない、頑丈で安価な鍋と、打ち出しを施された鍋……見境ないアンナリーナはすべての種類を購入した。
途中、こんなに買ってどうやって持って帰るつもりなのか尋ねられて、チラリとアイテムバッグを見せると、店主はそれ以上何も言わなくなった。
「お爺さん、これからもちょくちょくお邪魔させていただきます。
今日はどうもありがとうございました」
開店以来最高の売り上げを達成させてくれた小さな薬師は、特上の笑みを残して去っていった。
「こんにちは」
金物屋で道順を聞いてきたので、迷う事なく着いた宿屋【緑の牧場亭】で、今アンナリーナはカウンターから頭だけを出して挨拶していた。
「中央門の兵士さんから紹介していただきました。
お部屋は空いていますか?」
夕食の支度もほぼ終わり、混雑の前の休憩を兼ねて受付カウンターに座っていた、この宿の主人で厨房担当であるサムと女将であるアンは、初めどこから声がしたのか気づかなかった。
「あの、こんにちはー」
カウンターから頭だけが突き出ていて、女将などは一瞬仰け反りかけたのだが。
「お……お、いらっしゃい。
誰かお連れと一緒かい?」
最早慣れた言葉に笑みを返して、アンナリーナは1人だと言った。
「あの、従魔も一緒なんです。
よろしいですか?」
開いたローブからセトとアマルが顔を覗かせる。
従魔というよりペットな魔獣たちに女将などは頬を緩めた。
「そのチビさんたちなら部屋に連れて行っても大丈夫だな。
ただ、宿賃は取らして貰うが?」
「はい、おいくらですか?」
「宿賃は1人、朝夕の食事付きで銀貨7枚、チビさんたちは2匹で銀貨5枚でいい」
「では、とりあえず10日で」
まったくさりげなく、黄色のアイテムバッグから金貨を12枚取り出しカウンターに並べる。
渡された宿帳に流暢な文字でリーナと書き入れ、鍵を受け取った。
そして女将の案内で階段を上がっていく。




