4『ドミニクスとの遣り取り』
規定の瓶に入れられた体力回復薬が、コトリと机の上に置かれた。
回復値100と書かれたそれは、この地ではあり得ないものだった。
「リーナ殿、これは?」
「普通の回復薬ですよ?」
「普通のって、この数値!
現在、このハンネケイナで手に入る回復薬の回復値は最大でも80、平均したら60ほどなのに!」
「むしろ私は、どうしてそんなに低い数値になるか知りたいですよ」
回復薬は魔法の使えなかったアンナリーナでも調薬出来たものだ。
そのレシピも作りかたも特別なものはない。ただていねいに仕上げていくだけなのだ。
「作り方に問題があるのかもしれませんね」
だが、首を突っ込むつもりはない。
師匠が違うと伝えられるものも違うのである。
「それでは、今日はこれで失礼します。あの、薬とか回復薬はここで買い取って下さるのでしょうか?
それとも商業ギルドに行った方が?」
「いえ、リーナ殿の提供して下さる品はすべて当ギルドで買い取らせて頂きます。何かわからない事がありますか?」
これは少し考えた方が良さそうだ。
アンナリーナは、例えば砂糖とかの食品や衣料品なども販売しようとしていたのだが、あまり一度に欲張らない方が良いようだ。
「では会計に寄って支払いを済ませますね。お世話になりました」
ていねいに礼をして、踵を返したアンナリーナを、ドミニクスが慌てて呼び止めた。
「あのっ、この回復薬の支払いと、それから何か売ってもらえないのでしょうか?」
「その回復薬はサンプルとして差し上げます。
ところでそれの相場はいくらぐらいなのでしょうか?」
実はアンナリーナ、金額の方はまったく疎い。
「この回復値なら銀貨2枚でも売れるでしょう。リーナさんへの支払いは最低銀貨1枚と銅貨5枚ですね」
以前モロッタイヤ村で調べた相場よりもずいぶんと上がっている。
「あの〜 冒険者の皆さんの体力値ってかなり高いですよね?
回復値100って焼け石に水だと思うんですけど」
「だから一度に数本使うんですよ。
10本ぐらいは普通に飲むんですよ」
びっくりである。
ラノベでは飲む本数に制限があったり、飲む間隔をあけたりしたが、この世界はそのような決まりはないようだ。
「お腹がタプタプになりそう」
珍しくドミニクスが大声で笑っていた。
冒険者ギルドは夕刻を迎え、アンナリーナが来た時とは比べものにならないほどの喧騒に包まれていた。
そこに鑑定士ドミニクスと、子供にしか見えない少女の2人組は嫌でも目を引いた。
この、領都ハンネケイナのギルドに所属する、トップクラスのクラン【疾風の凶刃】のメインの2パーティが、ここにいたのは本当に偶然からだった。
たまたま捉えた魔獣が亜種で、その素材が高く売れそうだったので立ち寄ったのだが、その2パーティのいずれも魔法職の男女2人は、うんざりとした態度を隠そうともしなかった。
その2人がホールに流れ込んできた濃い魔力に気づいて同時に振り返る。
ちょうど、鑑定室のドアを開けてドミニクスが出てくるところだったのだが、彼らはその前を歩く少女に目を奪われた。
フードを外している少女の髪。
栗色と黄金色の混ざった髪からは、上位の魔法職しか感じることのできない、少女の魔力が溢れて見える。
その目も、平凡な茶色の瞳に見えるが虹彩に散りばめられた金粉が魔力の高さを表している。
顔つきは平凡だが、溢れる知性はその貌を平凡に見せることはない。
「ちょっと、アーネスト。あの子……」
「気づいたかい?エメラルダ」
2人はアンナリーナから目が離せなかった。




