79『ダンジョン化と別れ』
翌日はがっつり……無断外出のお小言は懲りたので、1日ツリーハウスで【調合】【調薬】【料理】をして過ごした。
そしてまた翌日、待っていた報せが届けられた。
「デラガルサの鉱山で騒動が起きてる。今まで出現したこともない魔獣の姿が坑道で確認されたそうだ。
怪我人だけでなく……死者も出ている」
洞窟の中の広間のような一室に、乗り合い馬車に乗っていた測量士のグスタフ、元鉱夫のキンキとジンガ、マチルダと、キャサリンとロバート夫妻が集っていた。
「キンキさん、ジンガさん、あなたたちがいた時は、そんな兆しはあった?」
「それがまったくなかったんだよ。
確かに坑道の一つが完全に枯れて、もう一つも発掘量が先細って来てたがな」
「グスタフさんは新しい坑道を測量したんですよね?」
「そちらは何も問題なかったが?
本当にデラガルサの坑道で魔獣が出たのですか?」
アンナリーナとジャマーが目配せを交し合った。
どうやら彼らは、ただ単に幸運だっただけのようだ。
アンナリーナの遠隔探査では今、デラガルサ鉱山は魔獣の印で真っ赤なのだ。
「どうやら間違いないようだな」
今度の目配せではザルバが動いた。
ゲルトを伴って部屋を出ていくのを横目で追った。
「キャサリンさんとロバートさんのお家は商家なんでしょう?
そもそも、今回はどうしてデラガルサから領都に向かう事になったんです?」
「今回は父に言われて商談に来たの。
でも欲しかった質の鉄鉱石が取れなくなってしまっていてね……
この鉱山では廃坑が増えているって噂があったのだけど、本当だったようね」
色々な話を聞いてみて察するに、ずいぶん前からダンジョン化の兆しはあったようだ。
「こちらのご婦人も商家の方のようだが?」
「私のところはもう何年も前に主人をなくして、廃業致しました。
慣れたデラガルサに骨を埋めるつもりでしたが、段々と寂れていくのをみているのが辛くて。
それでこの度、元々の実家のある領都に移ろうと思ったのです」
それだけではない何かをアンナリーナは感じていたが、今はそっとしておくべきだろう。
アンナリーナはその場を早々に辞して、ツリーハウスに戻っていった。
その夜、グスタフとキャサリンたちの実家から手紙が届き、彼らの身柄の引き渡しが決まったと知らされた。
早速、明朝出立するようだ。
短い間だったがすっかり気心が知れたキャサリンとは何だかいつの日かまた会えるような気がする。
餞別にローヤルゼリーの飴を贈るとものすごく感激されてしまった。
高価な砂糖と希少なローヤルゼリーという取り合わせはあり得ないほど贅沢なのだが、アンナリーナには理解出来ない。
「リーナさんは少し常識を知った方がいいわよ?」
キャサリンは笑いながらそう言い置いて去っていった。
「その、色々ありがとう」
グスタフは照れくさげに笑いながら右手を差し出した。
「もし王都に来ることがあれば、ぜひ家を訪ねて欲しい……まあ、貴族には近寄りたくないかもしれないけど」
彼らを送っていくのはザルバ達とはまた違う乗り合い馬車の連中だ。
アンナリーナは3人を見送ってジャマーの元に戻った。
それから5日間、ダンジョン探索に必要と思われる、あらゆる薬とポーション、魔獣よけの香などを量産し、ジャマーに引き渡した。
特に香は、先日のプラチナムアダーの毒と精液以外の体液を使って作った。
そして保存食の作り方も伝授する。
それは見た目は普通のクッキーに見えるが、高カロリーの生クリームと蜂蜜を使った、栄養食である。
これは、食べるときに一緒に水分を摂れば腹のなかで膨らんで満腹感が得られる優れものであった。
ちなみにオリジナルには回復薬も入っている。
「打ち上げ? 何だそれは?」
ザルバが怪訝な表情で問い返してくる。
「ほら、前に約束したでしょう?
領都に着いたら飲み会しようって。
もうすぐ私もここから旅立つから、その前に、ね?」
アンナリーナの美味い食事と酒。
思わず喉が鳴る。
「悪いけど私たち4人だけね?
ここの人たち全部とかあり得ないから」
アンナリーナが一人で料理するのだ。
それはわかる。
だが。
「なあ嬢ちゃん、マチルダさんやあの2人は呼ばなくていいのか?」
最初の約束のことしか頭になかったアンナリーナはあの3人のことをすっかり忘れていた。
「じゃあ7人で。
ザルバさん、どこか場所を借りてくれる?」




