王子3
困った。
アリスが傍から離れない。
そのせいで民衆達の生の声が聞けなくなってしまった。かといって最近情緒不安定に陥っているアリスの傍を離れるのは不安に感じている。妃教育は漸く『王族』としての教育課程に入ったと聞いた。
「覚えるだけなら後二年ほどで修了するでしょう」
王妃様の口から聞いた時は驚きと喜びでいっぱいだった。
これで結婚の見通しが立った!
その日はアリスと共に手を叩いて喜び合った。
「どういうことですか?父上?」
「なに、お前もそろそろ王族として辺境の地に視察をしてもいい頃だと思ってな」
「辺境……地方に行けというのですか?」
「ああ。アリス嬢の妃教育の修了の目途が立ったのだ。各国にお披露目をする前に自国に周知させておかなければならない」
「それはそうですが」
「お前は王都で生まれ育った。地方に赴くことが今までなかったが王になる者は定期的に地方視察をする事は公務の一環でもある」
「存じませんでした」
「今まではキャサリン殿下が出向いておられたからな。これからはお前がせねばならない。なに、そんなに難しく考える必要はない。お前が市井に忍んで学んでいるのを公に行うようなものだ」
「ならば!アリスも連れて行ってもよろしいですか」
「なっ!?何を言っている!お前のための公務だぞ!」
「父上!こういう事は、僕だけでなく婚約者のアリスも一緒に行った方が地方の者達も喜びますし、未来の王妃である事を周知できます!」
我ながらいいアイディアだ!
キャサリンが先に地方公務を行っているんだ。僕だけが行った処で大したインパクトにもならない。だけど、アリスが一緒ならまた別だ。僕達の仲睦まじい姿を見たら民衆も応援してくれるだろう!
「お、お前は!」
何故か絶句する父上が苦虫を嚙み潰したような顔で、口を開きかけた時。
パン!!
ビクつくほど甲高い音が謁見の場に響いた。
音の鳴った方を見れば、そこには王妃様がいた。
王妃様をよく見ると歪な形の扇子を手にしていた。どうやら、王妃様が扇子で何処かを叩いたようだった。
「言い争う声が外にまで漏れておりましたよ。みっともないまねは御止めください」
流石に王妃様に言われると僕も父上も口をつぐむしかない。
「陛下、エドワード殿下が婚約者を供につけたいと望むのならそのようになさったら如何ですか?」
「王妃!」
「視察に同行してもアリス嬢の結果は変わりません」
まさか王妃様から後押しを受ける事になるなど思ってもいなかった。
「よろしいのですか?」
「エドワード殿下はそうした方がいいと判断なさったのでしょう?ならそうなさいませ。成人した王子の動向を何時までも咎めてるばかりではいけませんものね」
王妃様の鶴の一声で僕達の視察は決まった。
この時、僕は父上が一度も名前を呼ばなかった事も王妃様の微笑みの意味も何も理解していなかった。何も知らないままアリスと共に意気揚々と地方視察に向かったのである。




