金の成る街④
武器屋に帰り、椅子に座らせて水を飲ませることで、絶望しているカガリさんは口がきけるまでには回復した。
「もう……、おしまいだ……。」
「これは何が起きてるんですか?あいつらはなんなんですか?」
「カガリさん。教えてください。私達も少しはお力になれるかもしれません。」
「わかりました……。お話します……。」
そう言うとカガリさんはこの街のこと、カガリさんの生い立ちについて話してくれた。
私は、この街リアパークで生まれ育ちました。
小さな頃は、本当に小さな村で皆平和に暮らしていたんです。
親の農業を手伝いながら、剣の稽古に励みました。
「あ、カガリ!またチャンバラごっこしてるの?」
「チャンバラじゃないよ!剣の稽古だよ!」
この子は、リネ。
後の私の妻となる、隣の家の娘です。
リネとは赤ちゃんの頃からずっと一緒でしたし、この頃から私たちは結婚するとお互いに思っていました。
そして青年になり私の剣術も磨かれてきた頃に、センドーシュとナタ大尉はこの街にやって来たんです。
センドーシュは、自らが【富の神】である事を告げ、道端に落ちているゴミを金貨に変えては村人に手渡し、村人たちの信頼を得ていきました。
ナタ大尉もその頃からの付き合いで、剣術の稽古をつけてくれていました。
そして、この街はセンドーシュの生み出す金でここまで大きく成長していったんです。
その頃には、センドーシュが街の長となりこの街を統べる様になっていました。
初めの頃は、様々な娯楽が街に増えていき、街人は救世主の様に扱っていました。
センドーシュが街の長になった時、近衛兵を募集して街と自身の警備を固める通達が来たんです。
街でも剣術で抜きん出ていた私は、近衛兵の中尉に抜擢されました。
その時はセンドーシュに悪いイメージは無かったので喜びました。
この日のために剣術の鍛錬をしてきたんだとまで思った程です。
それから数年は平和な日々が訪れました。
リネとも結婚し、幸せな家庭を築いていました。
センドーシュは、ゴミを金貨に変えて街を発展させていきましたが、ある時センドーシュは変わってしまったんです。
「カガリさん。ゴミはこれで全部ですか?」
「はい。センドーシュ様。こちらで全てになります。」
「足りないですね。全然足りない。こんなものじゃ私は満足できません。ゴミ……ゴミ……。そうだ!!」
そして、センドーシュは悪魔的な考えを思いついてしまったんです。
「罪人をここに連れてきなさい。」
「ざ、罪人をですか?」
「そうです。彼らはいわば、人間のゴミです。処分してしまってもさほど影響は出ないでしょう。」
「いや、しかし……。」
「早くしなさい!!」
こうして、私は悪魔の所業を目の当たりにしてしまったのです。
「や、やめてください!センドーシュ様!」
「あなたは、人を殺めましたね。立派な罪人です。人間のゴミですよ。」
「ひっ、お許しください!!」
「許しません!【神力展開:ミダスの触診】!!」
そのときのセンドーシュの顔は悪魔にでも憑りつかれたかのような満面の笑みでした。
人間は、ゴミを金貨に変える時とは比べものにならない量の金貨に変化しました。
その快楽が忘れられなかったのか、次々に街の罪人を金貨に変えていき、しまいには街の罪人は一人もいなくなってしまいました。
そして、センドーシュは罪人を増やすために街にいくつものルールを定めました。
そこには、夜9時以降の子供の外出も含まれていました。
街の人々も最初はルールに反発していましたが、それに比例してセンドーシュが街人に配る金貨の数は増えていき、懐柔されてしまいました。
そして、事件が起こったんです。
リカが産まれて、順風満帆だった私の人生はそこで狂ってしまったです。
私の妻リネは、出産してすぐにでも外で働きに行きたいと言って聞きませんでした。
近衛兵の給料だけで十分暮らせていけるのですが、信念の強いリネはセンドーシュに貰った金ではなく自分たちで稼いだお金で子供を育てたいと言っていました。
そして、街の飲食店で働いていた時ルールを破ってしまったのです。
センドーシュは街を大きくしようと、近隣の街の街長を招いてパーティーをしていたときに、うっかり招待客に水をこぼしてしまったんです。
そのことがセンドーシュの面を汚したとみなされて、罪人としてセンドーシュの城へと連れていかれました。
そして、
私の目の前で、妻は金貨に変えられてしまったんです。
あのときのリネの助けを求める声は、一生忘れることはできません。
私は、そのあと近衛兵を辞め武器屋としてリカと一緒に暮らしているんです。
武器屋なら、冒険者や旅人が高確率で訪れる。
少しでもセンドーシュの思惑通りにならないよう、街を出ることを勧め、近衛兵しか知らない秘密の抜け道を使って脱出の手伝いをしていたんです。
しかしそれも、バレていたのでしょう。
余計なことをしなければ、リカまで失わずにすんだかもしれないのに……。
カガリさんは、そう言って大粒の涙を流していた。
この街に、そんな過去があったなんて。
でも、しなきゃいけないことはわかった。
「カガリさん。センドーシュのところに行きましょう!リカちゃんを助けに行くんです!」
「無駄ですよ……。センドーシュのところに行くには、ナタ大尉を倒さなければいけない。彼は強い……。」
「諦めないでください!!」
リーリィが大声で叫ぶ。
リーリィの怒鳴り声は初めて聞いた気がする。
「リカさんを諦めるんですか?きっと今もリカさんはカガリさんを想って泣いています。きっと助けに来てくれるって信じてます!」
「リーリィ。」
「あなた自信が諦めるのは勝手です。でも、リカさんを。リカさんの信じる気持ちを踏みにじることは、【幸運の神】が許しません!」
「え……。」
この前の村で、神であることを知られてしまって危ない思いをしたのに。
人を勇気づける為に自分から神だと名乗るなんて。
この子は本当に優しい立派な子だ。
「そういうことです!俺達も一緒に行きます!」
「い、いいのかい?」
「当たり前じゃないですか!」
「ガントレットのお代。まだ払ってないしね。」
「卜部さん……。リーリィさん……。」
「よっしゃ!行くぞ!!待ってろよセンドーシュ!!」
こうして俺達は、センドーシュの城へと向かうことにした。




