表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/31

第4章 光に潜む闇(1)

 帝都を襲う地震の規模は前にも増して大きくなっている。

 〈裁きの門〉が開かれ、エリスは外へ連れ去られた。〈ヨムルンガルド結界〉の『動揺』が地震を起こしていることは間違いない。早急に対策を練らねばならなかった。

 帝都で暴れまわる妖物たちの数も先月、例年にくらべ異常に多い。すべての厄災は因果の糸で結ばれている。

 異常な事態に帝都から逃げ出す者も増えたが、他の都市で同様の事件が起きた場合を想定すれば、帝都から逃げ出す者の数は少なすぎる。これも魔導に魅入られた帝都の魔性か?

 ヴァルハラ宮殿の会議室で今日も女帝は頭を抱えていた。この会議室に連日、入りびたりだ。

「ズィーベン、今日は明るいニュースが聞きたいかなァ」

 悪いニュースはもうたくさんだ。

「アインが全面的に指揮にあたる機動警察との連携もあって、被害は予想より抑えられてございます」

「びみょー。それっていいニュースなのかなァ?」

「しかしながら、予想に反して帝都を逃げ出さない住民が多いので、そのあたりが心配かと」

「ぶっちゃけ人間なんてどーでもいいんだけど、守ってあげないと女帝の顔が立たないからねー」

 今もワルキューレのメンバーは帝都を飛び回って、事態の収拾と妖物狩りに追われている。

 元々帝都に巣食っていた妖物も凶暴化して手を焼くが、より脅威となるのは『向こう側』の存在たちだ。

 〈ヨムルンガルド結界〉などの余波を受けて、各地で発生してしまっている〈ゆらめき〉から、『こちら側』に流れ込んでくる脅威。小さな〈ゆらめき〉のため、強大な存在は『こちら側』に出ることはできないが、それでも『こちら側』で『育つ』場合もある。

 帝都の街を徘徊する銀色の野犬は『向こう側』の存在だと認定されている。発見されて野犬はすべて生まれたての仔狗だ。フェンリル大狼の末裔である。仔狗が狩られずに育てば大変なことになってしまう。

 現状で白銀の野犬よりも猛威を振るっているのは、地下から這い出てきた大海龍の幼生だ。都民の間でも噂になっている、帝都大下水道に棲むと云われるリヴァイアサンの幼生である。

 女帝は難しい顔をして、視線だけをズィーベンに送った。

「なんかいいアイディア頂戴」

「もっとも良い手は結界の強化でございます」

「『メシア』を〈裁きの門〉の奥に送り込むとか?」

 セーフィエルの血族であり、エリスの子供――慧夢。

 ズィーベンが問題を口にする。

「しかし、『メシア』は絶対に拒否をするでしょう。加えて、彼は人間との混血でございます」

「混血が純血に劣るとも限らないでしょ? 問題はそこじゃなくてさ、属性転換しているとこだよ」

「確かに光属性の『メシア』では負荷が大きく、〈闇〉の力に侵されてしまうでしょう」

「それにさ、躰は光でも、心は闇のままだよ。あっという間に〈闇の子〉に誘惑されるよ、きっと、たぶん、なんとなくだけどさ」

 帝都政府に反感を持っている慧夢が、自らの意志で人柱になるとは考えづらい。なったとしても危険な賭けなのだ。

「ところでさ、『メシア』はどうしてるの?」

 と、女帝が尋ねた。

「呪架とエリスを取り逃がしてから、夢殿の地下に塞ぎこんでしまっております」

「『メシア』はエリスが自分の母だと気付いたかな?」

「それはわかりませんが、気付いたとなれば衝撃を受けているでしょう」

「それが引きこもった理由かな。だって彼、母親はどこかで幸せに暮らしてると思ってたんでしょ?」

「はい。母も妹も平凡で幸せな暮らしをしていると、聞かされていたようでございますから」

 双子の兄妹は生まれてすぐに別々の場所で育てられた。兄の慧夢は愁斗の手で、妹の紫苑はエリスの手で、一切の交流もなく育てられたのだ。

 女帝はため息をついた。

「双子同士で戦うなんて皮肉だよねー」

 それは慧夢と呪架のことを言っているのか、それとも……?

 突然、地震が夢殿を襲った。

 また〈ヨムルンガルド結界〉が揺れている。

 地震の揺れが治まったところで女帝が愚痴を溢す。

「また不意打ちだよ。地震予知くらいできないの?」

「〈ヨムルンガルド結界〉が起こす地震は、通常の地震よりも予知が難しいと思われます」

「エリスをさっさと見つけて地震を抑えないとね。そのエリスがどこにいることやら」

「〈箒星〉がセーフィエルの本拠地である可能性は高いのでございますが、防護フィールドを破壊する術がまだ見つかっておりません」

 魔導具や魔導兵器に関する技術と知識でセーフィエルは他を凌駕している。

「ゼクスは未だに師匠を越えられないのかァ」

 女帝は呟いた。

 ワルキューレの科学顧問であるゼクスの師はセーフィエルなのだ。

 ぽんと女帝は手を叩いた。

「そうだ、アタシの戦闘用の義体は準備できてる?」

「はい、すでにゼクスから整備が終わったと連絡を受けております」

「じゃあ、ゼクスの研究所に行こうかな。彼女と顔を合わせるの一年ぶりじゃない?」

「正確には一年と八ヶ月ぶりでございます」

 同じ夢殿内にいても、引きこもりの科学者ゼクスとは顔を合わせる機会があまりない。女帝とゼクスが顔を合わせるのは義体を交換するときくらいだ。

 戦闘用の義体に女帝を乗り換える。それは女帝自ら出陣することを意味していた。

「アタシが帝都から離れると霊的バランスが崩れて大変だけど、そこら辺はみんなに頑張ってもらうとして、夢殿の管理は誰がいいと思う?」

 女帝に尋ねられズィーベンは難しい顔をした。

「アハトが良いのですが……」

「まだ帰って来てないもんねー」

「ですからフィアを夢殿に戻し、わたくしの代わりを務めさせましょう」

 女帝の傍には常にズィーベンが仕えている。帝都の外に出るときもそれは変わらない。

 どこに女帝は出かける気なのか?

 ズィーベンは聞かずともわかっている。

 死都東京だ。

「アタシら帝都の外に出るの久しぶりだね、ワクワクしちゃう」

 呑気な顔で女帝はニッコリ笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ