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ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション  作者: 花黒子


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7/21

『大墓地緑化計画』と未来の計画


「これじゃあ冒険者じゃなく、農家じゃないですか!」

 そう言いながらもレッコは笑っていた。


 アイテムボックスにある素材を売って得た有り余る金を使い、俺たちは全身、ジーンズ生地のツナギを着て、麦わら帽子にジョウロとスコップを手に、骨粉の袋を腰に下げている。


「薬草の種も売っていたね」

「買い占めました。これで、追随してくるバカな視聴者はいないかと思います」

「うわぁ~、慣れるまで、どれくらい時間かかると思います?」

 これからの数時間を考えて、カチワリくんがレッコに聞いていた。


「どうせクサカさんは終わるまで止めないんだから、我々はアーカイブを残すことに専念した方がいいよ」

「そう言う考え方もあるのかぁ」

「飽きたらやめていいからね。ちょこちょこ休憩は取るように」

「「了解です」」

「じゃ、行こうか」


 たった3人なのに、なぜか100人くらいいるような気分になった。仲間とは良いものだ。

 カチワリくんの剣術スキルのお陰で、ボスは紙切れのように切られ、どんどん階層を進み、最速で5階層まで来た。


 あとは、墓地を拠点に、落とし穴を掘って薬草を育てる作業を開始した。

 たぶん、カチワリくんが本気で攻略を目指せば、一瞬で5階層など通り過ぎていただろう。

 それでは、他のプレイヤーたちと同じだ。その先に、ミッションは見つからない。

 今できることを、最大限でやることが、重要な気がする。


 レッコが眠り薬で棺の中のドラウグルを眠らせている中、俺たちは次々と土を撒いて種を植え、水と骨粉を撒いていった。もちろん、床だけでなく、壁や天井などに種を植えられそうなところがあれば、植えていく。

 育てられるなら、できる限り骨粉を与えて、成長させる。

 アロエに似た薬草は葉肉が厚く、出てきたドラウグルを足止めしていく。さらに回復の効果がアンデッド系のモンスターに効くので、進もうとすれば体力を奪っていった。


 モンスターを討伐しているからか、かなり早めに「園芸家」のスキルを取得。やはりダンジョンの中だとスキルの経験値はたくさん入る。


 俺たちが薬草を育てている間に、レッコは次の部屋に入り、眠り薬を撒いていた。段取りがよく、全体を見られる人材は貴重だ。

 

「なんでですかね?」

 そんなレッコから疑問が飛んできた。

 作業に慣れてきたのかもしれない。


「なにが?」

「いや、魔法使いがいるのに、どうして薬師なんだと思います? 普通、僧侶でいいじゃないですか?」

「確かに、回復役で薬師とか錬金術師って珍しいよな」

「そうですか?」

 カチワリくんは、そうでもないらしい。


「おじさんの世代としては、勇者がいて、戦士がいて、魔法使いや僧侶がいるのがパーティーだと思ってるんだけど、若い世代は、タンカーとかバッファーとかがいるんだろ?」

「そうですね。バフ、デバフを考えると錬金術師って必要なんじゃないかと思っちゃいますね」

「必要なんだけど、あの冒険者ギルドの創設者の中にヒーラーがいないんじゃないか?」

「言われてみると、確かに……、もしかして魔法使いだと思っていたのは僧侶の魔法なんじゃ……」

「だとしたら、あまりにも剣士に火力を頼りすぎていると思うんだよね」

 レッコの意見は正しい。パーティーとして歪だ。ダンジョンのモンスターに対応しようという気がないんじゃないかと思えるほどに。


「やっぱり別の設定が絡んでいるよな」

「このゲームだと、氷河期か地熱がなにかヒントになっているような気がしますよね?」

「温度差、気温、発電、なんでしょうね?」

「発電なんてできるの?」

 レッコが聞いていた。

「一応、街灯やインフラは地熱発電ですよね?」

「ということは、エンジニアみたいな職業もあるの?」

「いや、聞いたことがないですよ。できるのかな?」

「文明レベル的には出来るのかい?」

「一応、銃火器については武器屋でも売ってますよ」

「じゃあ、爆弾魔的なプレイも可能ってこと?」

「可能ではありますけど、フィールドへの効果が薄いって聞きましたけど……?」

 カチワリくんがレッコの方を見た。


「爆弾もあるにはあります。採掘の時に楽になるんで。でも、戦闘で使うと仲間にも被弾してしまって、迷惑なんですよね」

 レッコは経験があるらしい。


「でも、それだけスキルがあるってことは、あの創設者たちの絵を職業だと判断するって難しくないか?」


 そんな会話をしていたら、いつの間にかほぼすべての部屋を薬草まみれにしていた。「園芸家」だけでなく、「僧兵」というスキルまで発生していた。


「あとはボス部屋だけですね」

「うわっ、もうこんな時間」


 深夜を回っていた。


「行きますか?」

「うん、とりあえずカチワリくんが倒しちゃって」

「ボス部屋でも薬草を育てるんですか?」

「もちろん」


 ボス部屋に入ると、大きなガシャドクロが鎮座していて、俺たちを見てゆっくりと立ち上がった。

 その間に、俺たちは、土を撒いて種を植えていく。わざわざ変身シーンを見るような優しさはない。


 グォオオアアアア!


 ガシャドクロが叫んで少しだけ身体が固まった。レッコがくれた薬を飲むと、すぐに解けた。


「興奮剤です。雄叫びで移動不能になるのを防ぐんで、部屋に入る前に飲むんですけど、忘れてました」

「大丈夫だよ」


 グアアアアッ!



 ガシャドクロが薬草を踏み、葉肉を折った。

 さすがにボスには無理かと思ったが、骨が溶け始めている。カルシウムが溶けて固まると骨としての動きが取れなくなり、尻もちをついていた。


 その機を逃さず、カチワリくんが頭蓋骨を『不死者キラー』のスキルを使って一刀両断。紫色の煙が立ち上って、5階層をクリアした。


「なんかボス戦をしている気にならないですね」

「作業の延長だよね。ちょっと大きな害獣が出たくらいの」

「農家おじさんでもクリアできるんだな」


 6階層はジャングルということだが、俺たちは一旦、次の予定を決めて、現実に戻ることにした。


 やはり、一仕事し終えた後のような気分になり、ビールが美味かった。


 風呂上がりにパソコンを開くとレッコからメールが来ていた。

 どうやら配信していたら、投げ銭を貰ったらしい。俺は大して活躍はしてないので、「カチワリくんと分けていいよ」と返したら、カチワリくんも貰っていたらしい。

「二人で分けて」と返したが、運用資金にしたいという。


「あんまり稼ぐと、批判が来るんだよな」

「あと失業保険が……」

「ああ、そうか」

「なんか、クサカさんのわな猟免許みたいに、現実とリンクできないですかね?」

「別にいい大人を気取るわけじゃないけど、植林のイベントとか行ってみる?」

「行っていいんですかね? 激烈もやしっ子ですけど……」

「いいんじゃない。若い人は割と受け入れられるよ。住むってなると、いろいろ責任も出てくるから大変だろうけどね」

「カジュアルなボランティアってことですか?」

「そうそう。ああ、こういうコミュニティもあるんだなって思うよ。ただ、金だけ持っていく実体がない団体とかもあるから気をつけてね。騙されたりもするからさ」

「ええ! ちゃんとしたところを探すのだけでも大変そう。うわぁ、大学生だけ向けとか親子向けかぁ」

 どうやら二人とも検索しながら話しているらしい。


「ちょっと遠いけど、植樹イベントがあるよ。行く?」

 俺も検索してURLを送った。特別、宗教色がなく、皆伐をした山の植樹を手伝い、とある。


「これにしましょうよ」

「おやつはいくらまでにしますか?」


 結局、3人で大人の遠足がてら県外の植樹イベントに行った。

 レッコは本当に肌が白い美人さんだったし、カチワリくんは普通のメガネ大学生だった。

 俺は剥げてないだけで、まんまクサカさんだと言われた。


 日頃、あまり運動をしていないという二人はキツそうだったが、草刈りをしている自分は山の方で涼しかった。

 なにより教えてくれる人たちが深刻な問題を目の前にしていても明るく淡々と植樹していた。太陽光発電事業のために買われたり、どうやって維持していくのか、管理には難しい問題が多い。お金も自然もどうにか回せないか、考えてしまう。


 遅めの昼ご飯を、道の駅で食べながら、二人はこの先どうするか話していた。


「おっさんの俺が何をやってもいいと思ってるんだから、犯罪じゃなければ何でもやってみるといいよ」

「何をやっても批判されるじゃないですか。植林しても偽善とか言われるし……」

 カチワリくんは、早速、画像を上げて批判を受けたらしい。

「偽善でいいから、お前もやれよって返信すればいいんじゃないか」

「せっかく視聴者から貰ったお金なんだから、好きに使っていいのよ。それより、ここ最近、日に日に登録者が増えてるんですけど、クサカさんも配信してくださいよ」

 レッコは商売になると、失業保険がもらえなくなってしまうというジレンマがある。ひと月の生活費を賄えるくらいもらえないと本当に厳しい。

 レッコが投げ銭を貰って配信の最後にお礼を言っているのを聞いていた。


「え~、俺は面倒くさいよ。アナリティクスとか見ちゃうと、改善したくなっちゃうだろう」

「改善してくださいよ」

「そういう競争とか好きじゃないんだよ。大手の人に見つかってコラボとかしないといけなくなっちゃったら、いよいよ面倒くさいよ」

「断ればいいじゃないですか」

「断ると、あることないこと噂が広がるからな」

 会社の不倫がくだらなすぎて、仕事を辞めたレッコの愛人説が飛び交うことは絶対に止めたいところだ。


「視聴者が増えたら、イベントみたいなことはしてみたいですけどね」

 カチワリくんは自由だな。

「会場を押さえるのだけでも、どれだけ大変か知らないでしょ」


 レッコがそう言って、思い出したことがある。

 俺の住んでいる町に、経営難で潰れた映画館が丸々残っているのだ。確か市が買い取ってイベントスペースになっているはずだが、実態はどうなっているかわからない。


「皮算用だな。二人のファンが増えたら、また考えよう。大して人気もないのに、考えてもしょうがない」

「確かに、浮かれてました」

「生配信が流行っているのも今だけですよね」


 俺は二人を駅まで送っていった。


 翌々日、俺たちは相変わらず『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』で会っていた。


「今日は6階層ですよ。ジャングル、燃やしますか?」

「犯罪だよ。それは」

「じゃあ、ジャングルの草を全部刈ってみます?」

「大変だよ。それは」

「じゃあ、どうするんですか?」

「どうって言われても……、どうしようか」


 俺たちは、再びミッションを探すことにした。


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