繰り返されるミッション
気候が変わる要因をネットで探し続けていた。この時点ですでにスキルゲーというよりも環境シミュレーションゲームと化している。
普段調べ物を仕事にしているような自分でも、人の職業について調べることはあっても、気候そのものを調べる機会は少ない。大人になって知識を身につけるのは面白い。
しかもそれがゲームとしてすぐに反映される。
現実では、どれくらいの影響があるかなんて感じながら生きていない。
ヒマラヤ山脈があるから、日本は砂漠にならずに済んでいるんだと言われても、ピンとこないけど、魔法で石の壁を積み上げて、雲の流れに竿を指すような塔を作って雲が勢いよく流れていく様を見せられると、風って大事だと実感する。
さらに、雲を晴らすという目的で、人工降雨の技術を調べていくと、いろんな国が実験していることがわかった。
ヨウ化銀や液体窒素を散布することで氷晶を発達させて、雪や雨を降らせたり、ドローンでレーザー光線を当てて帯電し、小さな水滴が集まっていき雨として降ってくるなど、砂漠が多い国ではよく行われている。
問題は他の地域で雨が降らなくなったり、大雨に見舞われることがあることだ。
なんとなくこういう話し合いから、レッコの会社は災害に見舞われた地域の特産物を紹介するリンクも張っておくことになった。創業当時から環境意識が強い企業を目指すのは、ハードルが高いかもしれないが、悪いことをしているわけではなく偽善と言われても関わろうとすることに希望があるんじゃないかと視聴者には説明していた。
とにかく、俺たちはポットボトムの上空に立ち込めている雲を晴らすことにした。体力的に移動範囲が限られていて、ビバークを繰り返しても行ける先には限界があった。
風は西から東へ吹いているので、西側で実験しないと効果がわからない。
風魔法、水魔法、火魔法を雲に放ち、雪が降るか試していく。土魔法で壁を作り、雪を積み上げて雪山を作ったりもした。
いずれも効果は少しはあるものの、決め手にはならない。
これも1万回チャレンジをしてみたが、魔法の範囲と威力が上がるだけで、持続的ではない。自然の暴風雪には敵わなかった。
その中で効果が最も高かったのは、ポットボトムからの熱気だ。
俺たちが第一章をクリアしたことで、多くの冒険者たちが戻ってきた。
料理をして錬金術を繰り返し、鍛冶場がいくつも建てられて、火が灯っていった結果、熱気が生まれている。この熱気が上昇気流となって雲を押し上げていく。
「プレイヤーたちの熱気がそのままこの世界に反映されていくんだ」
町の東側で豪雪が降った翌日、ずっと曇っていた空に晴れ間が見えた。
崖から雪解け水が流れ始め、氷ではない滝が出来上がっていく。町の中で囀っていた小鳥が、崖の上まで飛んできた。
日差しが雪を溶かし、緑を育て、埋もれていた鉱山が現れた。
オリハルコンと呼ばれる固い鉱石を採掘し、刀として鍛え上げれば、101階層の砂ドラゴンは難なく倒せる。
倒したドラゴンの腐肉に種を蒔き、植物を育てていく。
「この『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』って、これが繰り返されていくんじゃないですか」
「ダンジョンでシミュレーションして、外の環境に影響を与えていくっていうことですよね」
「たぶん、氷河期の世界を徐々に温暖化させるのが本来のこのゲームのミッションなんだろうな」
徐々に、崖を登るプレイヤーたちが増えていた。
ゲームの楽しみ方は人それぞれだ。王道を行く人もいれば、裏道を探す人もいる。制作者が全く考えていなかったサードドアを探す人もいる。
偏屈なゲームほど、制作者のこだわりが多いもので、遊び方が迷子になるプレイヤーは多い。俺が子どもの頃はパッケージに暗号が隠されているゲームや、5分放置しないと地図が浮かび上がってこないゲームまであった。
親切じゃないゲームはいくらでもあったし、プレイヤーの知恵を試すようなミニゲームが豊富なゲームは世界的にヒットしている。制作者との知恵比べ。ゲームの楽しみ方の一つだ。
ヒントは現実に隠されていることがあるし、ゲームを楽しんでいれば現実と向き合うこともある。
俺はブログとメルマガを書き、レッコとカチワリくんはゲーム配信と、別のゲームの紹介やゲームに沿った企画を動画にし始めた。手探りだけど、なるべく実地研修をすることにしている。
実際に猪を捕まえたり、草を刈ったりしているうちに便利屋と思われて、現地の人にこき使われそうになることもあるが、「会社を通してくれ」というと、ちゃんと自治体からの依頼になっていく。それだけでも会社を作った意味はある。
「そろそろ配信しますか」
「そうだね」
「やりましょう」
配信の主軸はやっぱり『ダンジョン・ウィズ・ア・ミッション』だ。
「きょうはとちおとめの収穫を手伝ってきました~!」
「ということは、キイチゴ収穫祭ですか!?」
「うんまっ!」




