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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第二章 WORLD
49/69

49 戦術

 アスカら一行は、声を出さないように猿ぐつわをされ、作戦の場に同行させられた。

 発見されたらしい巣まで道を、上半身簀巻きのまま列になって繋がれて並んで歩いている。


 虜囚として帝都に連行するために縛って放置する訳に行かず、かと言って作戦を中断してまで連行する程の驚異かといえばそうとも言えない。

 現場の判断を尊重した妥協案といったところだろう。


 作戦とは最小構成でのヒュドラ退治。


 ヒュドラとは大陸湿地帯に広く生息する多頭竜の一種で、知能はさほどでもないが高い生命力と特殊な状態異常を持つ難敵である。


 今までの口伝や記録から、産卵期に沼の水を毒に変え、口から石化の息を吐き爪から毒を出し、非常に高い肉体再生能力を持つとされている。その結果ヒュドラ討伐には百名程度の討伐隊が編成されるのが定石となっており、帝都南部に広大な湿地帯を抱えるハラ帝国にとって長年の悩みの一つとなっていた。


 勇者が国軍の主戦力となった今、魔獣に対する戦法も大きく変わりつつある。


 最小構成の戦力で効率よく魔獣を倒す。その方法を幾つも生み出し、兵力こそ僅か三小隊ではあるが対魔団と呼ばれる皇帝直属の軍団の長になった人物がいる。


 その人物が今回アスカらを連れたまま作戦を遂行しようとしている男、ブレディであった。


 過去の口伝から魔獣の能力を正確に推測し、思考実験を繰り返して戦術を研鑽、幾つかのパターンに分類した後自らの軍団に細部まで徹底して拘った疑似戦闘を繰り返させる。

 その徹底された訓練は他の軍団から見てお遊戯のようでもあり、軍団長の格が四大将軍から一段落ちる事もあって、対魔団を嘲笑する者もいた。


 かつてはブレディが出した提案書を実証実験する為の試験小隊だったのが、皇帝直属の対魔獣戦術研究団として正式編成された事実が、彼が帝国にもたらした成果の大きさを物語っていた。


「小隊長。巣は空だったもようです。これから散開索敵に移行します」


「巣の大きさから大型のヒュドラも考えられます。索敵は十分注意するよう徹底して下さい」


 指示を受けた者達が二人一組となって四方へと散って行く。


 その場に残ったブレディとロブスキーを含む四人の帝国兵は周囲を警戒しつつ、うち一人が少し離れた場所からアスカらを見張っていた。


 苔生した倒木を背に座らされたアスカら一行。


 アスカとドローンは興味深そうにキョロキョロし、ミズリは鋭い目で周囲を探り、隙きを伺っている。そしてミア。


 怪我を負っている肉体が休息を欲したかもしれない。戦闘に不慣れな者が極度の緊張から開放されたと感じたからかも知れない。……とは言え。


(すごいねー)

(図太いでやんすね)

(大物じゃな)


 ミアは、うつらうつらと居眠りを始めていた。


 引き気味にミアを見るみる一行。

 その尻に微かな振動が伝わり、次第に足元の水たまりに波紋が出来始める。


「誘引中!9時から90秒後!」


 報告を受けたブレディが額に指を当てて目を瞑ると、その額から緑の光が直線的な尾を引いて四方八方へと飛んでいった。


「その少しだけ開けた場所で迎え撃つ。訓練通りに。風上は譲るなよ」


「「ハッ!」」


 地面を伝わる振動が大きくなり、藪の葉が微かに揺れるようになった頃には散開した隊は集結し、11名の小隊が落ち着いた様子で木が揺れ枝が折れる音のする方向を向いていた。


 そして最後の一人。ヒュドラに追われる12人目が合流する。


「15秒!」


 合流した兵は要点だけを短く告げ、仲間の列を抜けてから担いでいた弓を構えた。


 小隊の迎撃の布陣はこうだった。


 ヒュドラが迫る正面に剣と大きな盾を持った兵が三かける二列で六名。法術士と弓兵がペアとなって列の左右やや後方に二組四名。少し離れた後方の枝に周囲を警戒する弓兵が一名。そして盾兵の影、大剣を肩に担いで身を低くするブレディの姿がそこにあった。


 藪が葉を散らして割れ、振動の主が現れる。


 長い首の先にある5つの頭までの全高3メートル、束ねたように円形に5本の首が生える広い肩は全幅3メートル、首の動きに連動してバランスを取るようにうねる長い尾を含む全長は6メートル。


 突然現れた沢山の人に驚いたか、ヒュドラは5つの頭を巡らせて周囲を睨み、警戒して喉を鳴らす。


 苔生した岩の色をした見上げる程の巨体。時に鋭い動きを見せて個別に動く5つの頭。5本の首から響く威圧的な低音。


 ヒュドラを知らぬ者はその威容に、知る者は伝え聞くその凶暴さに、共に心身から震え上がるであろう魔獣ヒュドラがそこに居た。


「ライン!」


 ブレディの声で剣と盾を持つ全身鎧の兵が、横一列になって距離を詰め剣を振るう。

 ある剣は頭の鼻先に小さな傷を負わせ、ある剣は急に角度を変えた首に弾かれた。


 ヒュドラの攻撃をその大きな盾で当人は防ぎ、隣の兵が伸ばされた首目掛けて剣を振り下ろす。

 ターゲットが変わる都度、兵は役割を入れ替え、盾を持つ兵が押し倒されれば、すかさず弓弦が響いて矢が襲い掛かる。

 全体がヒュドラの動きに追従し、だが隊列は崩さず、そしてブレディの命令通りに決して風上を譲らない。


 その動きは、小隊という集団がまるで一匹の生き物であるかのような統率と連携だった。


(見事な集団戦術じゃな……。恐ろしい程の練度じゃ)


 ミズリは倒木の影から頭を出して戦況を観察し、感嘆の声を漏らした。


 両隣りに同じ様に頭を出すアスカとドローンも、興味津々といった顔で帝国兵の戦いぶりを見つめている。


 ずっとソロだったアスカはパーティ戦術に関して決して詳しくは無かったが、ドローンと出会った初めの洞窟でのパーティ経験から推測するに、王国勇者のパーティでの戦い方と帝国勇者の小隊での戦い方は、用兵思想がそもそも違うのでは無いかと思えていた。


 王国勇者パーティが訓練した個の集合であるとすれば、帝国勇者の小隊は集団で機能する事を前提に訓練されている。


 双方に優劣があるだろうが、帝国勇者のように集団での立ち回りが決まっていれば、詳細な敵の情報さえあれば初見であっても後手を踏むことがないのではないか。

 そしてこれだけの統率と連携を見るに、魔獣の特徴や生態の情報をかなりの質と量で持っているのではないか。


 アスカの好奇心が、その首を伸ばし始める。目線の先のヒュドラのように……。


読んで頂き有難うございます。

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