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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第二章 WORLD
48/69

48 帝国兵

 じりっ。


 半歩だけ下がって、左拳を前に藪から出てきた甲冑の男を観察するミズリ。


 この森に最適化された迷彩が施された全身甲冑。手には片手で扱うには如何にも重そうな両刃直刀の分厚い長剣を握り、背中には上半身を覆う大きさの平面な長方形の盾を背負っている。


 巨漢にも関わらずその足の運びは繊細で、泥濘んだ泥中にあっても淀みなく、一部の隙も見い出せなかった。


(中々の強者じゃな……勇者ならば見立てを上回ってくるか)


 ミズリは周囲の気配を探り、敵の数を9とカウントした。


(包囲された状態。敵の強さは上振れる可能性大。こっちは……ドローンは結構やる、あの酒場の勇者共くらいなら問題無い程には強い。アスカちゃんはレベルアップして一次変化した……とは言っても、元があの弱さじゃからのう……問題は……)


 ミズリが危惧するのは、これまで一切の戦闘経験がないであろうミアだった。


 戦闘力が低くとも経験があれば生き残る術を知っている。案内人や荷を運ぶ者がそうである。彼らは戦闘が始まると注意を引かない様に身を隠し、驚異をやり過ごす方法を身に着けている。経験によって。


 戦力としてプラスにならないどころかマイナスとなるであろうミアを庇いつつ、アスカをフォローしながら戦わなければならない。


 コキッ。


 ミズリは構えた両拳の指を小さく鳴らした。



(ほう)


 ミズリの正面に立つ巨漢の男ロブスキーは、ヘルムの中で感嘆の声を漏らす。


 老人のように深い皺が刻まれた顔、禿げ上がり黒光りする頭。それら加齢のサインを否定するかのような、はちきれんばかりの筋肉と、隙の無い構え。

 在野にも強者は居ると聞いてはいたが、これ程の者が国の師範職にも付かずに居るとは。


(あっちは……よく分からんな……)


 何やら水晶珠を覗き込んで騒いでいる従魔らしい黒い魔獣と色の白い男。

 隙だらけのようでもあり、こっちを見ているようでもあり……。


(そしてあの女……ビア王国文官の服装か?)


 ロブスキーは索敵待機中に発見されたこの謎の集団を、どうするべきか考えあぐねいていた。


(小隊長が戻るまであまり決定的な事はしたくないが……あの素人くさい女の隙は罠か……いや、違うな。ならば主導権は取る)


「ラシルとの契約によって繋がれ。法は物、術は操作……捕縛蔓」


 ロブスキーが法術を唱えると、ビア王国文官の服を着た女の足元と頭上から蔓が伸び、見る間に簀巻きにしてゆく。


「や!」

「「しまった!」」


 短く声を漏らすミアと、そのミアに手を伸ばすアスカ達。


「おっと御老人。この場違いな女を絞り潰すのは簡単だぞ。大人しく従って貰おう」


 ミズリとロブスキーの間の空気は張り詰めたが、ミズリが構えを解くことでその場はひとまず収まった。



「何故ここに人が?」


「ブレディ小隊長、報告します」


 上半身をローブでぐるぐる巻きに縛られ、地面にうつ伏せに転がされているアスカ、ドローン、ミズリ、ミアの一行。

 彼らは、小隊長と呼ばれた男ブレディの帰還を迎えた。


 そのブレディ小隊長の容姿は、黒い肌に焦げ茶の髪をオールバックにして丸眼鏡を掛けている。眉はややハの字で、パット見困った表情にも見える。

 知的な茶の瞳は、兵士と言うよりも学者を思わせ、何とも言えぬ存在感を放っていた。


 柔らかい物腰が、印象を後押しする。


「密輸業者ですか?」


「いえ、女の格好はビア王国文官のものです」


「……確認できませんね」


「すいません。万全を期したく……」


 一行に巻かれたロープは明らかに過剰であり、どんな服装なのかの確認も出来ない程だった。


「従魔まで……国境の不可侵法術に感知されずにどうやってここまで侵入したか知りませんが、あなた達は越境と侵入の二つの違反をしています。連行しますが無駄な抵抗をしなければ、過剰な加害はしません。理解の上、大人しくしてくれますか?」


 そう言いながら小隊長は、眼鏡の縁に指をやり、一行を測るように観察する。


 丸眼鏡の内側にだけ、薄く光の文字が浮かび上がる。


(この老人は中々やりそうだが、勇者なのは白いコイツだけか……まだレベルは30代といった所か。随分と遅い成長だが、不適合で逃げ出して来たのか? 抵抗の意思は無さそうだな)


 小隊長は話題を切り替えた。


「対象の巣を発見しましたよ。作戦開始です」


「良いのですか? コイツらに情報を与える事になりますが」


 巨漢の男ロブスキーが、念を押すように言う。


「数日中にも侵攻作戦は発動され、全ての国家の全ての勇者が魔王領への侵入を開始します。もう情報を活かすだけの時間はありませんよ」


 問題ない。ブレディ小隊長がそう言った時。


「まだ掛かるよー」


 アスカの緊張感に欠ける声が耳に届く。


「世界はお前の遅い成長を待ってはくれないさ。副長、打ち合わせだ」


 その言葉を聞いた副小隊長ロブスキーは、短く指笛を鳴らし人を集めた。


 最終確認のミーティングが始まる。

 集まったのは12人。


 副小隊長を含む盾を背負う全身甲冑が7人、軽装の弓兵が2人、先に車輪の付いた杖を持つ法術士が2人、そして大剣と呼ぶに相応しい剣を持つのが小隊長。


 アスカは目撃する事になる。


 王国とは違う、帝国の勇者の戦いぶりを。


章分けしてみました。今後とも宜しくお願いします。

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