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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
47/69

47 変化

 勇者のレベルは経験を得る事で上昇し、肉体的強靭さと精神的不屈さを高めるとされている。


 高レベルの勇者が戦闘単位として優れているのは、単に心身の強さだけに拠るものでは無い。レベルの上昇に伴って魂が持つ元の世界の資質が目覚め、より特徴的で圧倒的な強さを持つ肉体や、この世界で解明されていな法則を発露するからである。


 輪廻転生の度に会得し続けた貴重な経験。その経験は内精神界の奥にある棚に保管されている。時に魂は輪廻の際、経験の棚からそれを手にしたまま生まれる事もあり、ある者はそれを『天武の才』と呼ぶ。


 高レベル勇者における第一次から始まる変化は、正に『世界を越えた天武の才』の発露と呼べるものであった。


 そしてその変化した肉体は、元の世界でどのような生物だったのかを推し量る材料でもあった。



「肉食獣の手じゃな」


「この大きさだと……あっしを越えそうでやんすね」


 四本の大きな鉤爪は鈍い光を発しており、先に行くほど細く鋭く手のひら側に湾曲していた。手のひらは顔を覆い隠せる程に大きく、鉤爪の長さは約50センチ。直立姿勢だと爪が床に届きそうである。


「ミスリルの輝きに似てるわ。エーテルの通っていない金属防具ぐらいなら簡単に切り裂けそうね……」


 他の勇者で一次変化を見ているせいかミアは冷静で、異形の右腕を恐れるふうは無かった。


「これでもう鋼の剣に用は無くなったわね。まったくあんなに鋼の剣ばっかり買ってさ、更新じゃなきゃバックが入ら……ああああああああ!!!」


 突然頭を抱えて叫びだすミア。


「ど、どうした!?」


「もしかしてもしかしなくてもコイツもう武器買わないんじゃ!? 更に更にデッカイ獣に二次変化するなら防具も買わないんじゃ!? バックがイチコインも入らない! ただでさえ専属になってバック対象が一人だけなのにいいいいいい! 債務超過で金欠で不憫だわあああ」


 突っぷして床をばんばん叩くミアと、呆れる三人。


 声を掛けようとドローンが手を伸ばしたその時。むくりと頭を上げたミアは決意を固めた表情をしていた。

 キッとアスカを睨み、左手を腰に当てて右手でアスカを指差す。


「こうしましょう! めー案です! ここは一つ、私を加えて頂いて衣・食・住に掛かるお金をパーティ維持費としてアスカが持つのです!」


ポク  「……」←アスカ

ポク  「……」←ドローン

ポク  「……」←ミズリ


チーン 「「「はぁ?」」」←全員


 どこからか効果音が聞こえてきそうな間があって、三人はミアの主張に異を唱えた。


 「その宝石を売るでやんす」とか、「いやよそんなの」とかやっているドローンとミアをよそに、ミズリがアスカの眼前に立つ。


「そうじゃ忘れる所じゃった。アスカちゃんよ、儂は教会を脱会し正式に自由の身になった。改めてお主のパーティに入れて貰えるじゃろうか」


 ミズリはそう言って右手を差し出す。


「神官ちゃん……。いや、ミズリさん。王都ではありがとうございます。ドローンも世話になっちゃって。こちらこそよろしくお願いします」


 アスカは異形の右手を慎重に差し出す。


 鉤爪に触れぬよう、指部分をしっかりと握るミズリ。パーティへの参加意思と迎入れる意思を持つ者同士が握手を交わす事で、パーティへの参加は承認される。


「あ! あたしも!」


 アスカとミズリの様子を見たミアが、ドローンを押しのけてガシッと右手の別の指を掴む。


「あ」


 ミアの試みは成功し、ミズリと共にミアも同時にパーティメンバーとして承認されてしまい、そして……。


「うわぁ……ミアさん……凄い物欲でやんすねぇ……」


「ドレス、宝石、広い屋敷……いやいや、欲が過ぎるじゃろ」


「うわー。借金のストレスが流れ込んでくるねー」


「いやああああああ!!」


 奢ってもらう方便としかパーティの事を考えて居なかったミアは、パーティを組むと感情が共有される事を知らなかった。


 ベットで布団を被るミアをほっといて、今度はドローンが思い出したとばかりに手を打つ。


「そう言えば旦那。師匠って?」


「そうじゃ師匠とは?」


「何かお土産くれるって言うから、強くしてって言ったら師匠が出来たんだよねー」


「「……」」


 目をパチクリさせる二人。


「それで解ると?」


「ワカランでやんす」


 断念したアスカは、一人になって生配信を始めてからの経緯を、ダイジェスト版で語った。


「生配信で異世界と協力でやんすか!」


「初見で弱点が解るとか、無敵じゃのお!」


「二人は居ないの? ってコメントもあったよー」


「「おおおおお」」


「どこに食い付いてんのよ! 普通師匠が四天王で、ええええええ! でしょうが!」


 ズレた所で盛り上がるドローンとミズリに、布団を払い除けたミアが盛大にツッコむ。


「……それでドローンの所に飛んだみたいに帰ろうと思ったんだけど、飛べなくてさ。んで今朝復活したから、急いで様子を見に行ったら、岩に書き置きが刻まれてたよ。『エーテル震が気になるなからあの方と合流する。続きは次の満月に』って」


 ズーの言うエーテル震とは、王都アビリにて北の森の結界に穴を開けた、アルゴス、セト、ナンダガ等の同時攻撃で生じた衝撃波に類する物だった。

 世界を巡るエーテルは、流れの強さや振動の変化で一定以上の感性を持つ者にとっては、異変を知るサインとなる。


「岩に文字って……」


 盛り上がる、アスカ、ドローン、ミズリの三人と、確認するかのように抑えたミアの声。


「魔獣の文字って異世界のデモティックに似てるんだよねー」


「岩に文字って、まさか沼のそばじゃないでしょうね?」


 口を止めてミアを見るアスカ。


「物知りだねー」


「やっぱりアンタかいーーー!」


 キラーンと笑うアスカに、プンスカとツッコむミアと、その様子を見て笑うミズリとドローン。


 この時。一行はこの風変わりなパーティが、案外上手く行くのではないかと感じていた。


「あ、腕戻った」


「その変化を制御出来るようになって、ようやく中級勇者よ」


 いつの間にか萎むように小さくなり、元通りの人の腕になった自らの右手を不思議そうに見ながら、アスカは確かめるように右手を動かししげしげと眺めた。


「旦那、旦那」


 ドローンがニヤニヤしながら、後ろ前に背負ったバックのような、変わった素材のポーチをアピールしている。


 中央の穴は、何かを差し込む穴だろうか。


「旦那、ソニーくんを貸して欲しいでやんす」


 イタズラを企む子供の目でドローンはアスカを見上げ、アスカも期待しつつ恋人草ジンバル装着のソニーくんを手渡す。


 地面に突き刺しても使える長い杖の先に付いた水晶。


 その杖の先が、胸の位置にあるポーチの穴に当てられスルスルと長い杖を飲み込む。


「おお!?」


 そして水晶をマウントした部分を残して穴が杖を飲み込んだ時、カチッと音がしてジンバル付のソニーくんは、ドローンの胸装備に収まった。


「これであっしも戦いながら撮影出来るでやんすよ」


 ソニーくんにエーテルを流し込んで起動させると、ドローンが動いてもジンバルがしっかり機能しているのが分かる。


「おおおおおぉ」


 ドローンの最高のドヤ顔が眩しい。


「戦闘モード用の装備は、このポーチに入ってやんして、変身と同時に装備出来るでやんす」


「「おおおおおおおおぉ」」


 ドヤ顔がめっちゃ眩しい。


「いつの間にそんな注文を……」


 ドローンのドヤ顔に笑いを堪えながら言うミアだが、ハタム家で居眠りしていたのは彼女である。


「じゃ、装備したおっきいドローンちゃんも見ましょう! 大森林の入口なら何度も転移したけど、パーティって……」


 ミアはそう言いながら、転移法術の術式を発動させる。


 四人の足元と頭上に法術陣が現れる。


「行けそうね」


 上下の法術陣は逆方向にゆっくりと回転しており、その金色の模様は非常に複雑で初めて見る三人を瞬間うっとりさせた。


「これが転移術式……いや、お主エーテルの巡りにまだ凝りが……」


 ミズリの心配をよそに、法術陣は輝きを増す。


 だか、金色の術式に所々変色が見られるのに気付く者は居ない。


 パシュッ。


 ショートするように光を発する変色部分。


「行きますよー!」


 ミアの合図で、各人の上下の法術陣は急速に逆回転を始め、上下の間隔を狭める。


 上下の法術陣が一体化した時、水平方向に光が走って音もなく四人は姿を消し、術式を使った跡に微かに光の粒が波うち漂っていた。






 背の低い広葉樹が風にそよぎ、派手な色の鳥が木々の間を飛ぶ。


 肌に纏わりつく程に湿度は高く、足元はぬかるみ、水の腐った匂いが鼻を刺す。


「こ……ここは……大森林じゃない?」


「南の大陸中央部じゃろうか」


「そんな……」


 不安気に周囲を見渡すミアとミズリ。


 ミアの状態が万全で無かったからか、はたまた設置型ポータルですらエラーで転移しないソニーくんを巻き込んだからなのか、転移術式がパーティに対応していなかったからなのか。


 一行は大森林とは異なる、未知の場所に転移してしまっていた。


 ミズリがすかさず呼吸を整え、臨戦態勢を取ったのは、一重に彼の経験のなせるものだったかも知れない。


 神経を集中し、周囲を探る。


 ……。


「撮れた?」


「バッチリでやんすよ〜空間転移を内側から撮影したのは、広大無限の三千世界と言えど、アスカチャンネルだけだと思うでやんす!」


「そうだよね! そんな動画見た事無いよね!」


 アスカとドローンは額を寄せ合って、ソニーくんを覗き込んでいる。


「何か来る……いや、もう囲まれたようじゃ」


 ミズリはアスカのそばに寄り、一行は背中を合わせてひとかたまりになった。


 その時森に朗々たる声をが響く。


「月が変わるまで、何人(なんぴと)もシキオ湿地に近付くなと命令があったであろう」


ミズリが警戒する方向の藪が揺れ、迷彩柄の甲冑を纏った兵士が姿を現す。


「キサマ、皇帝陛下の命令を軽視するか」


「皇帝陛下?……まさかここは……」


「ハラ帝国……なの?」


 一行が転移したのはハラ帝国のようだった。

 キドゴ山脈を挟んで北のビア王国と南のハラ帝国。両国は数百年来の宿敵であった。

読んで頂きありがとうございます。

第一章が終了し、次回から第二章に続きます。

続きが気になる方、ブックマーク、評価いただけると嬉しいです。


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