46 再会
「なんでアイツ居ないのよ」
ミアは教会前で頬を膨らませていた。
ここは大森林入り口付近の街マッシー。アスカが死に戻り登録してある教会のある街である。
王都騒乱から五日。
ハタムに頼んだドローンの装備が出来るのが三日後、教会本部の勇者蘇生が再稼働するのが四日後と聞いて、一行は休息も取らずに馬車を探した。
王都からマッシーまで普通は五日の旅程だが、貸し切りで急ぎならなんとか四日で着く。
ドローンの装備はハタム家自慢の飛竜便で、一行より先に到着している。
そして勇者蘇生も再開され、アスカがマッシーの教会で復活。この日一行は久しぶりに皆で顔を会わせる事が出来た……となる筈だった。
「……ええ、確かに今朝早くに」
「……しかし、本当に脱会なさったんですか?」
「そうじゃぞ、儂は教会とは無縁の勇者アスカのパーティメンバーじゃからの」
教会正面の扉が開き、神官長ら高官に見送られて、ミズリが出てくる。
「早朝に蘇生して、大森林へ向かったそうじゃ。コレをと……」
ミズリはアスカから預かったと言う手紙をドローンに見せる。
開いた手紙との間に割り込んで手紙を覗き込むミア。
その手紙には短くこう綴られていた。
『師匠が待ってるといけないんで、先に見てくる。宿屋でまっててね』
「「「師匠?」」」
顔を見合わせる三人。
「どういう事でしょうか? アスカは誰かに師事していたのですか?」
「儂は知らんな」
「あっしも知らないでやんす」
うーん。とソックリなポーズで首を傾げる三人。
教会前で首を傾げる三人の脇を、二組のパーティが会話しながら通り過ぎる。
「どうだ? 解けたか? 沼の新しいクエスト」
「いやぁ、こっちはダメだなぁ。頭の中まで筋肉なヤツばっかでよ。リハビリに来たのにまた四天王に合っちまうし、蘇生遅えし」
「謎の言語で書かれた石碑にまつわるクエスト。最近追加されたんだと思いますから報酬が楽しみではありますね。四天王出てるんですか? こっちは運良く遭わなかったです」
「王都に魔獣が入り込んで街をメチャクチャにしたって話は聞いたか?」
「高レベル限定の王都滞在クエストって、これだったんですね」
「白昼の中庭も新しいクエストじゃないかって言われてますね」
力と技にそれぞれ傾倒した二つのパーティが、話しながら遠ざかっていく。
「白昼の中庭ってもしかして……」
ミズリがドローンを見る。
「旦那の霊体からエーテルを貰った光精が昼夜を問わず光りっぱなしてた、あの井戸のある中庭でやんすかね」
王城を後にした一行が教会本部近くを通った時、ミズリが治療に使った中庭は昼の様に明るいままだった。
ドローンはアスカがエーテルを供給する光精の仕業だと知っていたが、まさか死に戻りするまでずっとあの中庭を照らしていたのだろうか。
怪訝な表情のミア。
「まさか、沼の新クエストとやらもアスカが絡んでるんじゃないでしょうね」
まさかと笑い飛ばそうとして、ミズリとドローンの二人共が失敗した。
我らがアスカは別行動を取って僅か数日で、霊体制御を会得して目の前に現れたのだから……。
「ま……まぁ、宿屋で待つでやんすよ」
「そ……そうじゃな、ミアの傷の具合も見よう」
二人はぎこちなくミアを納得させ、宿屋へ向かうのだった。
◇
「うーむ」
「あまり良さそうな反応じゃないですね」
「出血も止まっとるし、再生を促す活動も始まっとる。だが……」
「怪我の治りが遅い……と」
ベットに腰掛けたミアの腕の包帯を交換しながら、ミズリは苦い顔をする。
宿屋に戻った一行は、ミアの部屋に集まっていた。
「治りが遅いのは導師だからだと思いますよ。私達導師って勇者を見回る為に転移いっぱいするじゃないですか。肉体の分解と再構築を何度も。だから肉体は極端に脆弱だって習いましたよ」
「そうなのか? 導師を治療するのは初めてじゃが、回復加速も効果が出ておらんし……エーテルの循環もおかしいし……痛みは酷くないんじゃな?」
「痛み止めが効いてる間は何ともないです。それと導師の転移能力を戦闘に活かそうとした事があったらしんですけど、殆どの導師が剣が弾かれただけで手首を骨折したらしいです。背後に転移しても倒せない……と」
「儂らの頃は、転移を得意とする導師なる存在は、認知されておらなんだな」
「勇者召喚で生まれた副産物と言うか、肉体の構築障害と言うか。召喚術式の余剰エナジーを敢えて受ける事で、単独転移が可能な脆弱な肉体になるそうですよ」
「……業が深いでやんすね」
神妙な顔をするドローンだが、当のミアは違った。
「人国家が、卑劣な魔獣から大陸を取り戻す戦いに貢献出来るんですもの。光栄なことだわ。それに……」
ミアは親指と人差し指で輪を作って見せた。
「導師ってコレが良いのよ! 文官の中じゃピカイチね! 勇者の装備更新でバックも入るし、段階が進めばボーナスも出るの!」
困った顔でミアを見上げるドローン。
「でもその割に、お金無いでやんすね」
「先輩とかはもっとドバドバ入ってんのよ! なのにあたしはアスカなんてソロ勇者を担当したせいで、思ったほど入ってこなくて……」
「給料が出る前に使うのが悪いと思うでやんすよ」
「ぐ……」
ドローンの正論にぐうの音も出ないミアだった。
その時。
「あ! 来たでやんす!」
ドローンの嬉しそうな声の数秒後、廊下を足早に歩く足音が近付き……。
バン!
「お待たせ! 久しぶりだねー!」
アスカは隣の部屋のドアを開け……。
バン!
「お待たせ! 久しぶりだねー!」
バン!
「お待たせ! 久しぶりだねー!」
三枚目のドアでようやく一行との再開を果たし、白い歯をキラーンと光らせたのだった。
久しぶりの再会に目を輝かせるドローンだったが、アスカの出で立ちが以前と違うことに気が付いた。
真新しいマントが右半身を隠すように羽織られているのだ。
「マントでやんすか? 寒い所へでも行くんでやんすか?」
「いやーこれねー。死に戻りしたら、相当経験溜まってたみたいでさー」
妙にばつが悪そうに、右手をもそもそするアスカ。
「一次変化はじまっちゃったかも」
そういってマントから出された右手は、肘から先が鱗に覆われており、大きな手には強靭そうな四本の鋭い鉤爪が生えていた。
「「「ええええええええええええ」」」
目を剥いた状態で固まるドローン、ミズリ、ミア。
「……これ……」
神妙な顔のアスカと、気遣うような視線を送る三人。
「グロ認定で配信出来ないかも……」
「そこか!?」
思わず突っ込んだミズリ。
「最初からグロ注意ってサムネイルに入れないとでやんすね」
「オマエもか!!」
「まいるよねー」
「……?」
ミアだけが会話を理解出来ずにきょとんとしていたのだった。
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