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勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
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38 王都騒乱 其の六

 ズチャ。


「ああああああ! 脆い……脆すぎる……。ごめんなさいアスカああああ! ちゃんと強くしてあげるから、帰ってくるのですよおぉぉぉ!」


 四天王の一人、ズーによる指導の最中、スキンシップで肉体が駄目になってしまったアスカ。


 水辺の泥に座る下半身が光の塵になるにつれ、アスカは今回の死に違和感を覚えていた。


 光の塵となる肉体を、第三の視点から見下ろす自分が意識出来ている。


(今までって、どうだったかなー)


 腕組みをしたつもりで、アスカは自分の肉体を構成していた何かが、光の塵を経て世界を巡るエネルギーへと還元されてゆく様子を見ている。


(たしか……)


 アスカは微かな記憶の断片を掻き集め、夢か想像か定かではないイメージを描く。


 肉体的な激痛から開放されると同時に、何かに強く引っ張られた様な、そんなイメージがある。そして目が覚めるとそこは蘇生登録をした教会の棺だった。


 今迄は。


 アスカは俯瞰意識の他に、もう一つ違和感に気付く。


(引っ張られてない……どういう事だ? まさか蘇生しないのか?)


 幽霊の如くそこにフワフワと停滞するアスカの霊体。自分の意志で好きに動く事もままならず、上も下もなくただ月下の沼の上を漂っている。


 アスカの視界の端に映るズーが、コッチを見ている気がしたが、ゆっくりと回転するアスカの霊体は、視界からズーを追い出してしまい、一回りするまで待たねばならなかった。


(お、おおぉ)


 一回りして視界に再びズーを捉えたアスカは、心のなかで驚きの声を上げた。


 ズーは人種(ひとしゅ)の姿を止め、大きな緑の鷹にその姿を変えていた。そして……。


『……どうだ? 思考が感じられますか?霊体を制御するなら、無理に人種の姿である必要はありませんからね』


 何とズーは霊体のアスカにコンタクトしてきた。驚きと興奮を抑えきれず、高いテンションでアスカは応えようとしたが、声は出なかった。


『肉体の喉を使う感覚では、意思を伝える事は出来ませんよ。霊体を共鳴させて導線を開くのです』


 アスカは心の中で肩をすくめた。


『霊体は本来奔放。それを精神体で律するのです。肉体に紐付いた霊体は、余り肉体から時間的距離的に離れ過ぎると戻れなくなりますが、今アスカは肉体を失った状態』


 鷹の姿をしたズーは、アスカを見てニッコリと笑う。


『霊体が飛び去らないのは初めてですが、魂を持つ者として、今アスカは非常に稀な状態にあります。この機会を活かして精神体の制御を習得しましょう!』


 はあぁぁ?


 アスカに肉体があったらそう言ったに違いない。


 この師匠は、手違いで弟子を殺しておいて、良いチャンスだと言ったのだ。


(ポジティブ過ぎる! ……いや……。勇者の特異な不死性を理解しているからこその発想なのか……)


 相変わらずフワフワくるくると漂うアスカは、ズーの言っている事を肯定する興奮気味な自分を自覚した。

 そして早る心を嗜める様な、否定手前の冷静な自分もまた自覚していた。


『肉体の復活と共に、霊体は引き戻されるでしょう。ですから今は肉体のイメージを捨てて、奔放な霊体を先ずは開放してみてはどうでしょう』


 肉体のイメージ……いつの間にか沼の水面を避けて、地面から2メートル弱の辺りを浮遊しているのも、無意識に肉体の行動範囲に縛られているからなのだろうか? とアスカは自問する。


『気になる誰かを思い浮かべてみて下さい。思いが強ければ瞬時にその者のも元へと……』


(気になる誰か。……ドローンはもう王都に着いたかな? テイマーとやらに遭って武具を作って貰えただろうか……)


 身体の半分にもなろうかという、巨大な鉤爪を装備して、嬉しそうに飛び跳ねるドローンを想像して、アスカはちょっと可笑しくなった。


 シュン。


 その瞬間。アスカの目の前の景色は月下の大森林から、戦でもあったかの様な街中へと変わった。


 そして目の前のにはダンジョンマスターアースバットの姿で、懸命に何かを探すドローンが居た。


 驚きと喜びに溢れたアスカの霊体は、ドローンの周りを不規則に飛び回ったが、ドローンとアスカが重なった時、ドローンの思考がアスカに流れ込んだ。


「この辺に……がんばるでやんす、もう少しでやんす」


 ドローンの焦燥感がじりじりと伝わってくる。


(命の際に居る者が……助けたい命が近くにあるのか)


 左右に視線を送ったあと、アスカは思い直す。


(ドローンとは別の……今の俺にしか出来ない方法ならば)


 アスカは感情を抑え、息を潜め、波一つない水面の如く、心を鎮めて、集中を高める。

 物質(マテリアル)への意識を減らし、代わりに霊質(アストラル)へ意識を割く。


 自分を中心とした鏡の様な水面。そこに一滴の意思が注がれ、広がった波紋は剥がれた石畳や積み重なった瓦礫を透明にしてゆく。

 中心から遠ざかるにつれ波紋は弱くなり、その速度を緩めたが、それでも静かに確実に物質世界を透明化してゆく……。




(居た!)




 アスカは今まさに肉体を離れようとする霊体を見つけ、少女の霊体をその場に押し留めた)


「ど、何処でやんすか……もう少しだけ……」


 ドローンの声を聞いたアスカは、一瞬でドローンの前に立ち、少女の埋もれる瓦礫の山を指差す。


 アスカを認識したドローンは、無駄に時間を費やすこと無く瓦礫へと向かう。

 救い出した少女の肉体が活動を辞めている事を嘆くドローン。だがアスカには考えがあった。


 いつか見た心肺蘇生動画。


 そこでは心臓に圧迫とショックを与えて、止まった心臓を動かしていた。


(思考が流れて来たなら、逆もあるんじゃ?)


 アスカはドローンと重なり、ドローンの霊体の思考へと語り掛ける。


(左胸だけに超音波を当ててみるんだ! 心臓がびっくりして動き出すかもしれない)


「……。な、なるほど。やってみるでやんす」


 少女は鼓動を取り戻し、霊体は肉体に留まった。


 ほっ、と一息付いたアスカは、「そう言えば」とミズリを想い、その瞬間ミズリの前に居た。



(神官ちゃん、何者よ……)


 それがミズリを久しぶりに見たアスカの感想だった。


 ミズリは井戸のある中庭に陣取って、おびただしい数の怪我人の治療に当たっていた。

 戸板や荷車で運ばれてくる者、シーツに包まれて背負われて来る者。その殆どが大なり小なり怪我をし、苦しそうに顔を歪めている。


「右手に紐を巻いた患者は移動して大丈夫じゃ。宿屋に頼んでベッドを貸して貰え。今来た怪我人をこっちへ、まず診よう。運んだ宿屋はちゃんと覚えておくんじゃぞ! 後で儂が回復を加速させに行くからな!」


「分かりました!」


 アスカにとって怪我は珍しいものだった。


 勇者の戦いは勝てば相手を砂にし、負ければ自分が光の塵になるだけで、怪我という状態は短い。言ってしまえば状態異常のような感覚だ。


 そして人がこれほど沢山怪我をしている状況など、見たこともない。

 並べられ横たわる怪我人。ミズリ神官が手を洗うたらいは直ぐに赤く染まり、井戸そばの人がたらいの水をせわしなく入れ替え、別の人が運び込まれるシーツを破いて包帯にしている。


 裂傷、骨折、打撲、内蔵破裂……。処置する者と、断念する者とを見分け、短い祈りを捧げて両手を胸の上に組ませると、ミズリは息を一つだけついて命を繋ぐ可能性のある者への処置へと戻っていく。


 いったいどれだけの経験を積めば、こんな事が出来るのだろうか。

 むっきむきのマッチョ神官というだけでも珍しいと思うが、場を支配し、人を動かし、見事な手際で治療を施していくこの老神官は、意外性を鍛えたら筋肉になってしまったのでは無いかとアスカには思えてしまう。


(神官ちゃん! 俺に手伝える事は!?)


 ミズリの眼前に立つアスカ。


(あ……あれ?)


 だが、ミズリはアスカに気付かない。


 どんなに周囲を飛び回っても、ドローンにしたように体を重ねてみても、ミズリはアスカを認識しない。


 何が違うのかと考えるアスカは、ミズリの精術士としての面を知る事となる。


(両手にずっと纏わり付いてるのは……水精?)

何とかなりました。お騒がせ申し訳ありません。読んで頂きありがとう御座います。

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