表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者系チューバー・今日も異世界生配信!  作者: クバ
第一章 PERSON
36/69

36 王都騒乱 其の四

「とまれー」

「皆止まれー」

「「とまれーい」」


 瓦礫の撤去を手伝っている人達が、互いに声を掛け合って、その手を一時休める。


 ……。


「よし、続けろー」

「「続けろー」」


 ここは、周囲の孤児院や治療所を巻き込んで崩壊した教会本部跡。瓦礫の下からの被災者救出が続けられていた。


 災厄の中心が北の森へ移動したらしいと知れると、沢山の人が捜索や瓦礫撤去、治療移送にと手を貸してくれるようになった。


 中でもその特技を活かして、大車輪の働きをする者が居る。

 彼が居なかったら、増えるのは怪我人では無く、死者ばかりだったかも知れない。


「そこにロープを掛けて欲しいでやんす」


「……出来ました!」


「上げるでやんすよ」


 その声を合図にロープはピンと張り、大きな瓦礫はパラパラと小石を落としながら、静かに真っ直ぐに上昇する。


「い、居ました! 居ました!」


 大きな瓦礫の下に、奇跡的に生まれた空間に、数名の子供が横たわっている。

 バケツリレーの要領で子供達を瓦礫の下から救い出すと、一番奥まで入った男が最後に這い出て、救出完了の合図を出す。


 上がった時と同じように慎重に降ろされた瓦礫。弛んだロープを肩と腰から外すと、二対四枚の蝙蝠の翼を持つ魔獣は「その子達を頼むでやんす」と言葉を残して、石畳に穴を開けて地中へと潜って行った。


「有り難う御座います聖獣様!」


「ドローン様! お願いします!」


 子供達を抱えた大人達は、地面に掘られた穴に感謝と声援を贈り、ミズリの居る治療所へと駆け出すのだった。


 ドローンは救出初期に嗅覚で、次いで地中からの振動で、生き埋めになった人を捜索をしていた。

 崩落の危険がある時は、その飛翔能力を活かして瓦礫を吊り上げ、迅速かつ安全に、次々に被災者を救出していた。


 そしてまた。


 「とまれー」

 「「とまれーい」」


 救助作業に当たる人々が、申し合わせた時間で定期的に動きを止める。

 口を閉ざし、足を止め、些細な音や振動も出さない。まさに時が止まったかの様に静寂に包まれる救助現場。


 そしてその地下では、穴の先端に鼻を突っ込み、髭から伝わる振動に神経を集中するドローンの姿があった。

 その髭から人が地面を叩くかすかな振動を感知すると、ドローンは後退して穴から這い出し、教会シンボルを背負い直して震源へと急行するのだった。


 だが、震源付近まで来たドローンは焦燥感に包まれていた。


 近くまで来ている筈だが、振動が止まってしまい目標を見失ってしまったのだ。

 もし意識を失ってしまったなら、残された時間は少ない。


 視覚、聴覚、嗅覚、触覚を駆使して周囲の痕跡を探るドローン。だが、命の痕跡はその姿を見せない。


「ど、何処でやんすか……もう少しだけ……」




 その時。




「え……? 旦那?」


 ドローンはあらぬ方を見て一人つぶやき、そこから視線を転じた。


 視線の先にある瓦礫の山。ドローンは瓦礫を慎重に取り除き、そこから一人の少女を引きずり出す。

 だが既に少女は呼吸をしておらず、肉体は鼓動を止めていた。


「……。な、なるほど。やってみるでやんす」


 ドローンは両手で口先に筒を作ると、少女の胸元に筒先を当てて息を吸う。そして……。


 ドローンから発せられたそれは、周囲の瓦礫を揺さぶり、折り重なった瓦礫は崩れ、小石は割れ弾けた。


「けほっ……。ケホッ、ケホ!」


「やった……やったでやんす!」


 少女の心臓は、ドローンの発した超音波に刺激されて活動を再開し、肉体は鼓動と呼吸を取り戻した。


 ドローンはあらぬ方を一瞬だけ見、急いでミズリの元に向かうべくその翼を羽ばたかせるのだった。





「この……いい加減な攻撃は……厄介ですね」


 地面に突き刺さり、尚も降り注ぐ光の槍は太さ5センチ、長さ3メートル。その数……既に5万超。

 一度に五十本の光の槍が、連続して降り注いでくる。


 辺り一面焼け焦げ燻る樹木と、地面に突き立った光の槍。

 白い光を発する突き立った槍が光源となり、揺らぐ炎と立ち上る煙と相まって、ある種幻想的とさえ言える景色が北の森に広がっていた。


 厄介と呟いたアルゴスは、密度を増す光の槍の間を縫うように移動し、降り注ぐ光の槍を回避し続けている。

 防御障壁を展開してみたが、障壁を中和侵食する術式が組み込まれているのか、高度な術式である障壁が僅か一本の槍に消失させられていた。


 なにより厄介なのが、この光の槍のアバウトな精度であった。


 狙いが正確であればある程、アルゴスにとって回避は難しくない。常に移動し常に相手の予想を裏切る行動をすれば良い。

 だがこの光の槍は「その辺を殲滅する」事を目的とした術式のようで、精度も密度も速度も実にアバウトで、いちいち目視しての回避が必要だった。とは言え、そもそも見て回避出来るというのが規格外なのだが。



「おい! あの光の束近づいてねえか!?」


 ナンダガら5人は早すぎる自体の推移について行けなくなっていた。

 攻撃は成功したのか。あの巨大な防御術壁は何だったのか。セトは何処に行ったのか。そして上空から光の束を降らせているのは、敵なのか味方なのか。


「ちょっと! やばいんじゃないの!?」

「もう帰りましょうよぅ」


 混乱の一行の傍らをナニかが通りずぎる。


 ナンダガの目に微かに映ったソレは、灰色の髪を背中に結った、細い目の男に見えた。腰から生える複数の尾に気付くまでは。


「な!?」


 視界隅に映る複数の獣の尾を目で追い、振り返ったその時……。


 周囲に50本の光の槍が降り注ぎ、ナンダガと秒イキの体に突き刺さった。


 二人を貫いた光の槍は、ナンダガの右肩から右半身と逃げようと前傾していた秒イキの下半身とを、肉の霧と化して地面に突き立ち、周囲に降り注いだ槍は樹木を砕き飛び散る木っ端を燃やした。


「きゃああああああ」

「ナンダガ!!!」

「パドゥさーーん!!!」


 降り続ける光の槍の中、辛くも命中を免れた3人が叫ぶが、衝撃の中で彼らは自分の声さえ感知出来なかった。



「ん?今のは……」


 不規則な機動で樹木の間を移動するアルゴスは、すれ違った勇者と思しき5人と、何の躊躇いも無く5人を巻き込んで攻撃を継続する上空の何者かの事を考える。


(すれ違ったのは、障壁を破る時の攻撃を放った者とみて間違いなさそうですね。しかし、セトは地下空間に入っていったのに、まだこんな所をうろついていて、しかも私を狙った攻撃に巻き込まれた。……となると私と同じく利用されただけか。わざわざ戻って捕らえても何も知らなさそうですね)


 アルゴスは降り続ける光の槍の隙間から、発射点と思われる上空を睨む。


(巻き込まれた勇者レベルの存在が肉体を失えば、周囲に漏れたエーテルが作る波は決して小さくない。上空であれほどの術を組む事が出来る者なら気付かない筈がない。という事は、勇者を殺しても何ら問題にならない立場か地位にある者という事でしょうか? セトが地下空間への侵入を優先し、上空のアレは私の殺害を優先している。これはセトと連携が取れていないと言えるでしょうか……)


「まずはこの濃霧のような隠蔽術の施された森から出ないと、周囲の状況が分かりませんね」


アルゴスは速度を上げて南下し、北の森を抜けて文官庁舎が立ち並ぶ文官区へと出ていた。


「これで少しは厄介な攻撃が……」


 アルゴスの予想を裏切り、周囲の建物の損害など意に介さないような一際大きな光の束が周囲に降り注ぐ。


 木とレンガと漆喰とで建設された地上5階建ての庁舎群は、上空からの極太で長大な光の槍に打たれ、天井や壁が消失し、自重に耐えられず次々に倒壊する。


 倒れてくる壁に紛れて、反撃の術式を組もうかと上空を見上げたアルゴスは、視界の端に自分を狙ったものと思えない光の束が、離れた場所に降るのを捕らえた。

 今いる場所から当距離で等間隔に降る光の束。


「この区画ごと私を爆滅する気ですか……それはさすがに……」


 蛮族の駆除は、盟主選戦が終わった後、新盟主の名おいて大陸全土で行われる事になっている。

 今日ここであまりに派手に蛮族の都を破壊してしまっては、盟主の不興を被るかも知れない。そう考えたアルゴスはこれ以上ここを破壊させない為に、引き上げるとこにした。


「完全に見失って貰うのが一番なのですが……」


 アルゴスの脳裏にとある場面がよぎり、彼は愉快そうに口角を上げ、髭を摘んだ。

読んで頂き有難う御座います。物語も大分進んで来ましたので、あらすじを少し直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ