20 生配信の奇跡
両手にずっしりと感じる鋼鎚の重さ。
俗にウォーハンマーと呼ばれるこの武器は、武器の重さによって対象を叩き潰す太古の武器の一つだ。
斬撃が効果的ではない敵にも、有効的なダメージを与え得る選択肢の一つ。
素早さや手数と引き換えに手に入れたのは、当てるのが困難な圧倒的な破壊力。
アスカは少し前からこの鋼鎚を武器の選択肢に加え、少しづつ練習していた。
理由はニつ。
一つは、ドローンがパーティーに加わった事で、必ずしも左手にソニーくんを持つ必要が無くなった事。
もう一つは、大型で堅い敵が増えて来た事。
速い敵に鋼鎚を当てるには工夫が必要だが、幾ら当てても効果の無い鋼の剣では埒が開かない。
上段に振りかぶった鋼鎚を、トカゲ族の頭部目掛けて振り下ろす。
が、余裕をもってバックステップされ、鋼鎚は外れることの無い目標である「大地」を叩き、両手に不快な痺れを返す。
鋼鎚をしっかりと握り直し、もう一度と構えた所で水晶板の文字が目に入る。
『トカゲ最低でも@2来る。後のヤツ何かやってる!!!。ポイズンサライバ? サライバって??』
振り返ったアスカの目に映ったのは、今にも叫び声を上げそうなトカゲ族の姿だった。
咄嗟に横に飛び地面を転がる。
『……。まだ。』
トカゲ族は叫びのポーズのままアスカを見ている。
『サライバは唾液だってよ。ゲージ伸びてってるからこれが発動じゃね?。今だ!!。避けてーーーー。』
コメントのタイミングで再び横っ飛びのアスカ。
トカゲ族の口から吐き出された黒い液体が、アスカの居た場所に降り注ぎ、酸味の強い匂いを発する。
『ないすー。毒の唾液ってことね。ゲージ出てたのか。毒舌トカゲ。毒舌てwww。ワイの上司やがな』
異世界からのアドバイスで難を逃れたアスカは、盛り上がるコメントを見ながら驚きをより深くしていた。
レベルや弱点ばかりか、術の名前や発動タイミングまで判ってしまうとは……。
「す、凄いねーー! あ、このマークと2って?」
連携して攻撃してくるトカゲ族の攻撃を、回避し牽制し攻撃を空振りながらアスカは質問する。
『こっちのヤツが鎧ドクトカゲ6って名前だから、最低でも6体居るよね。確かに。よねー。だからあと2』
アスカの表情は驚きを通り越して笑っていた。
(毎日ヤベー程に疲れまくっている異世界の人が、俺の為にこんなにも頑張っくてくれている。俺の頑張りはきっと彼らの明日の活力になる! 今頑張らずしていつ頑張るんだ!)
「ラーグ・オセル」
アスカは小さく呟き、続いて鋼鎚の柄を使って地面に円を書く。
「法は肉、術は増幅、……剛力!」
トカゲ族の爪を避け地面を転がって距離を詰めたアスカは、先程までとは比較にならぬ程軽々と鋼鎚を振るい、トカゲ族一体の膝と一体の頭にその衝撃を叩き込んだ。
『おおおおおおおお。ブースト???。MP減り続けてる。エーテルです』
『ピヨった!!!!。ピヨゲージクソなげえエエエwwww。ピヨ!!!』
膝に一撃を入れて転倒させたトカゲ族に渾身の一撃を加えようとして、アスカは背中に痛撃を受け前方に転がる。
トカゲ族の連携の高さに小さく舌打ちしながら、アスカは素早く体勢を立て直し追撃を許さず、更にコメントをチラ見。
「ピヨってなんですかー!」
『気絶。頭に入れたヤツ意識飛んでる。あと30秒は気絶したままと思う。めっちゃ効いてるやん。油いらんなw』
アスカは気絶した仲間を庇う位置に立つトカゲ族を牽制だけして脇をすり抜け、膝を押さえるヤツを助け起こそうと背を向けているトカゲ族に迫る。
鈍い音を立てて頭部に命中した鋼鎚は、反動を利用して再度振り上げられ、片膝を付いた姿勢のトカゲ族の頭に振り下ろされた。
『……油。ピヨ祭りwwww。弱点どうなったし。ハンマーつええええ。ダメはそれ程でもなくね?』
気絶させたトカゲ族への追撃は気絶していない唯一のトカゲ族にまたも邪魔され、毒唾液を連続で飛ばされるせいで近づけない。
『そいつ多分リーダーだ1だもん。最初のピヨ解ける。』
なるほどよく見ると、他のトカゲ族より少し体が大きく、鱗には古傷が見える。
最初に気絶させたトカゲ族が、頭を振って気絶から回復したその時。
『ん?気絶じゃない状態異常残ってない?。ゲージの色違う。鱗変色してません?』
コメントを目にしたアスカは素早く視線を巡らし、即座に行動した。
「法は肉、術は増強、……俊敏!」
アスカは鋼鎚をポーチにしまうと鋼の剣を腰の鞘から抜き、気絶していない二体に迫り左手で指差す。
「アプチャー」
迫るアスカを注視した二体のトカゲ族の眼前で、真昼の太陽にも似た光が炸裂する。
目潰しからの斬撃を警戒したトカゲ族は腕で頭と首を守り、防御を固めた。アスカはまたも敵の脇をすり抜ける。
そして振り上げられた鋼の剣は……。
未だ気絶するトカゲ族の片方の、線上に変色した鱗に寸分違わず振り下ろされ、鱗を割いてその体へと深々と食い込んだ。
トカゲ族に足を掛けて剣を引き抜き、その傷口にもう一度剣を突き立てる。
色を失うトカゲ族の絶命を見届ける事無く、アスカはアプチャーで目眩ましをした二体へと取って返す。一体は最初に頭から油を掛けたアイツだ。鱗が変色した今なら……。
ガードする腕に当たらない角度で振り抜かれた剣は、見事トカゲ族の頭と胴体を切り離す。
チャリーン。
トカゲ族はついに砂となって崩れ、二枚のコインがポーチへと飛んだ。
『おおおおおおおおおおおおおおおおお。しゃーーーーー。かっけえええええ。攻略や!!!』
その時倒した敵の補充とばかりに、二体のトカゲ族が現れる。
『遅かったな!。もうテメーらは敵ぢゃねえ。経験値の小数点にしてやんぜ』
意気上がるコメントとは逆に、憔悴した表情で肩で息をしてポーチを探るアスカ。
『どした?。毒???。油ないとかwww』
「力と素早さの増幅を同時に使ったんで、スタミナすかすかで……ポーション……どこ……かなー」
『参るよねー!。まいったよねー。マイルよねー』
いつも読んで頂き有難う御座います!




