世の中って不公平だと思う……
翌日。
その日俺はリーシアとキリトを連れて出かけた。
向かう先はエルハシアの教会。
目的は……二人の職業を手に入れるためだ。
正直、自分の職業を考えたら教会なんかには行きたくない。
暗黒剣士や死霊術師のような、教会の教えに叛いている職業の人間は異端として処罰されそうだし。
とはいえ……リーシアとキリトだけ行かせるわけにはいかないという事になり。そして教会に行くぐらいなら別にバレないだろう……という事で、結局付き添う事に。
職業につくための神の啓示を受けるには多額の資金が必要だ。そのためのお布施を用意し、俺たちはエルハシアの教会に向かったのだった。
◆
丘の上でリーシアの思いを聞いた後、アルバ村に戻った俺たちはダリアにその事を伝えた。
「あら?ようやく伝えたのね??」
ん?知ってたの?院長??
「よくリーシアは言ってたわよ。アルの事が心配だから……って。もし自分に力があれば一緒に行きたいって……」
「ちょっ!院長!!」
「なんならもっと大切な事も一緒に言えば……」
「!!!!!いい加減にしてください!!」
なんかリーシア……慌てて止めに入っているな……うん、楽しそう。仲良しなんだなぁ。
でもまぁ、リーシアがそんな事を思ってくれていたと言うのはちょっと嬉しいかも。
今までは、俺がなんとかしなきゃって思いでやってたけど……もしかしたらそれは間違っていたのかもしれない。
からかうダリアと止めるリーシアを眺めながらそんな事を考えていた時……
バタン!!
唐突に扉が開く。
「俺も……お願いがあるんだ!!」
そこに立っていたのは孤児院の子供の中の最年長……キリトだった。
割と無口なタイプなんだけど……今回は何か決意に満ちた表情をしている……うーん、嫌な予感。
「俺も……強くなりたい!皆を守れるぐらいに!!」
そういえば最近キリトってヴィルヘルムから剣を習っていたんだっけ?凄く筋がいいとは聞いていたけど……んー、まだ14歳だしねぇ。
とりあえず落ち着けよ、と声をかけようとしたら
「いいと思いますよ?」
とキリトの後ろから声が飛ぶ。
その声の主はキリトの後ろから部屋に入ってきたヴィルヘルムだった。
「キリトの腕は中々なものです。彼を鍛えるとして……職業が分かれば、その方向性も見えてきますし」
おいおい、随分と無責任な……正直孤児院の子供達に俺は命のやり取りをあまりさせたくはないんだけど……
「アル兄」
そう言ってキリトは俺の目の前に立つ。こうやって見ると……背が伸びたなぁとは思う。俺、思えばこの子の手を繋いで村から逃げたんだよな……
「俺、アル兄がどれだけ大変な思いをしているのかはよく分かってるよ。そしてだからこそ同じような事を俺たちにさせないのも。だけど……俺も自分の大切な人たちを自分で守りたい」
俺はキリトの瞳を覗き込むように見つめる。あぁ、これは戦士の目だ。いつからこんな事言うようになったのだろう……俺が知らない間に、大人になったという事だろうか。
「キリトが日々剣に打ち込むのは、きっと主の事を大切に思っているからでしょう。その気持ちを無碍にしないでいただければ……」
うん……まぁお前の影響も大きいだろうさ、ヴィルヘルム。
とはいえ、ここまで言われると言い返せないよなぁ……俺は困ったようにダリアやリーシアの方に顔を向けると……
2人とも首を静かに振った。まぁ、そうだよね。説得できないよね。
「……わかった、キリト」
そう言って俺はキリトの肩に手を置いた。
「お前がもし戦闘職の職業なら、今後も剣を持つことは構わない。だけどそうでなかったら……」
「……分かった。その時はアル兄に従うよ」
くっ……健気なやつだよなぁ……だからこそ。俺はこいつを戦いの世界に連れて行きたくない……
そんなモヤモヤした気持ちをもちながら、俺は2人を教会に連れていく約束をしたのであった。
◆
エルハシアの教会にて。
「うわぁ……綺麗……」
リーシアはその中を見て言葉を失う。キリトも完全にこの雰囲気に飲まれている……
まぁ、そうだよね。でも……前の王都の教会の方が大きかったぞ?
「とりあえず、向こうに並ぼう」
そこは神の啓示を受ける職業選択の間に続く通路。
毎日、幾人もの人が職業を貰うために並んでいる。
見るとそれなりの身なりをしたものが多い。まぁ、平民以上……貧民は金がないから無理だよね。
そんな事を思いながら、そちらの方に目を向ける。
通路の奥からは、おそらく天職の儀が終わったであろう、人々が続々と戻ってくる。
意気揚々と帰ってくる者、落ち込んで帰ってくるもの……様々だ。
ま、そりゃそうだよね。これをやれば自分の未来の半分は決まったようなものだ。
良い職業なら気持ちも上がるし、もし自分の望んでいた職業と異なったなら……凹むよなぁ。
人によっては多額の金を注ぎ込んで『転職』をする人もいるらしいが……そんな事は稀なわけで。
ほとんどの人がその職業にあった仕事に着く。
スキルもその職業にあったものになるから、それしか方法がないわけで。
それが嫌で、頑張って初心者であろうとする人もいるらしいけど……これはこれで能力の限界にすぐに到達してしまう……
難しいよね……本当にこの世界のこのシステム。神様を恨むしかないわ。
そうこうしているうちにいつのまにか、リーシア達の出番となっていた。
「アル兄、行ってくる」
「あぁ」
まずはキリトから天職の儀を行う。俺は付き添いだから……その部屋には入れない。リーシアと2人でその扉を見守る。
神々しい光が部屋から漏れた。すると……
おぉぉぉお!!
と数人の歓声のような声が聞こえた。
並んでいる者たちもザワザワと色めき立つ。何があったんだ……?
扉から漏れていた光が消え、そしてゆっくりと扉が開く。
中から呆然としながらキリトが戻ってくる。
「おい、キリト……どうした?」
「あ……アル兄……」
キリトは俺の方を見ると少し涙目になった。
戦闘職ではなかったか?
「俺の職業……魔法騎士だって……」
はっ?ルーンナイト??
それを聞き、俺は慌ててキリトの能力を『神眼』で視た。
◇ ◇
キリト
職業 魔法騎士LV1
LV5
体力350
魔力200
攻撃力220
防御力180
俊敏性230
スキル 魔法剣(風) LV1
風魔法 LV1
マジックシールドLV1
◇◇
ほ……本当だ……いきなり上位職業かよ。しかも魔法騎士って……魔法剣士より守備力が高いレア職業だ……
しかもスキルを三つ持ち……
羨ましい……俺なんかずっと初心者だったのに……
「アル兄……俺、これで剣を学んでも良いんだよね??」
「まぁ、約束だからなぁ……」
涙目は安堵の気持ちから……なんだね。
でもなんか嫉妬と、羨望と、そして不安や安心といった様々な気持ち入り混じり……複雑な感情だ。
そんな時……
「オォォォォォォォォォ!」
再び扉の奥から声が聞こえる。キリトの時より、もっと大きい。
おいおい、今度はなんなんだよ。
その場にいた者達が扉の方に視線を向ける。
扉がゆっくり開き、中から出てきたのは……え?リーシア??いつのまに入ってたの?
戻ってきたリーシアは小さな声で言った。
「アル……なんか私、とんでもない職業だったみたい……大騒ぎになってるんだけど」
不安そうにこちらを見つめるリーシア。
確かにさっきから教会の人間がこちらを見てヒソヒソと話をしている。異様な雰囲気を察し、周りの人間の視線もこちらに集まっていた。
だが。騒いでいるのは周りであって本人はあんまりピンときてないようだ。一体どんな職業についたのだろう??
リーシアに尋ねると、本人もよく分かっていないらしい……いや、よく聞いておいてよ……君はなんのためにここに来たんだよ……
しょうがない……そう思いながら俺は神眼スキルを使った。
◇ ◇
リーシア
職業 聖騎士LV1
LV1
体力100
魔力110
攻撃力80
防御力110
俊敏性350
スキル 聖魔法 LV1
◇◇
んなっ!?
パ……聖騎士!?
マジか……そりゃあ教会の連中も騒ぐって。
聖騎士っていえば、『勇者』と並び立つほどの『英雄』の職業だ。特に教会からすれば、神を守る戦士という事で最も重要視されているものの一つ。
教会の人からすれば何年かに1人ぐらいしか現れない貴重な職業だ。それがエルハシアなんて小さな都の教会に現れたわけで。注目されるだろうさ。
そんな事を考えながら俺は周りの様子を見てため息をつく。
早くもコンタクトを取ろうと、教会の人間がこちらを伺っている。それだけじゃない、冒険者ギルドのスカウトなども、教会にいる。
ハイエナのように情報を聞き入れた奴らは、レア職業の人間を見るや、早急に仲間に引き込もうと動いてくる。こういうのは早い者勝ちだしね。
彼らに声をかけられたら面倒だ。
俺は2人の手を繋ぐと逃げるようにその場をさったのであった。
そろそろ女性キャラを目立たせたい……そんな気持ちを持っています笑
まずはリーシアさん。そして、そろそろ新しいキャラも登場予定です。
さて。
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