私も戦える力が欲しい
今回のダンジョン探索では色々な収穫があった。
俺はスケルトン達を小さな玉……今後『骨玉』とでも呼ぼうか。これに戻してアルバ村に向けて歩いている。
今回は冒険者協会の依頼ではなく、個人的な都合……というか実験?のためにダンジョンに潜ったわけだから、エルハシアに寄る必要もないわけで。
「でも、お土産ぐらいは買ったほうが良かったかなぁ?」
なんて暢気な事を思いつつ一人笑う。元孤児院の子供達、俺がダンジョン潜ると毎回エルハシア寄っているのを分かっているから……最近お土産をねだるようになったんだよね。
今回も3日ほど潜ってたからなぁ……きっとエルハシアに寄ったと思っているだろう。とは言え、今からエルハシアに戻って買うのもどうかと思うし。
まぁ良いや。また次回、お土産を買う約束をして許してもらおう。
そんな事を考えていた俺はアルバ村が見える小高い丘を登った時……足が凍りついたように止まった。
なぜなら……アルバ村から煙が上がったいるのが見えたからだ。
村が襲われた?なぜ?俺のいないタイミングで??
俺はその瞬間何も考えず、脱兎の勢いで丘を下っていくのであった。
◆
俺がアルバ村に着いた時。目にしたのは二軒ほどの民家の燃え跡だった。
どういう事だ?山賊や奴隷商人、もしくは魔獣などに襲われればもっと酷い状況でもおかしくないはずだ。
入り口付近の家だけ襲われるなんて、そんな事あるはずない。
何が起きた?ここにいる皆はどうした??
全く不可解な出来事に考えがまとまらず一人立ち尽くしていると……
「アル!!」
唐突に声をかけられた。
振り向けばそこにリーシアが笑って立っていた。
良かった……とりあえず彼女が無事なら皆無事ということか?
「リーシア……この状況は……?」
俺の問いかけにリーシアは少し表情を曇らせて口を開いた。
「アルがいなくなった後、盗賊の集団が村を襲ったのよ……」
「!???」
だが、動揺する俺にリーシアは笑みを浮かべながら落ち着いて、と言った。
「大丈夫、皆無事だから」
「……どういうこと?」
「ヴィルヘルムさんが私たちを守ってくれたのよ」
そう言うとリーシアは俺不在の出来事を話し始めるのであった。
◆
俺がダンジョンに向かった2日後の深夜。どうやらそこを狙って賊がアルバ村に襲いかかってきたとの事だ。
手始めとばかりに手前の家を燃やしたらしい。
狙いはやはり子供達。子供を売ればそれなりの金にはなるからね。
で、それに最初に気づいたのはやはりヴィルヘルムだったらしい。馬の蹄の音、そして燃える家の匂い。その辺りですぐに気づいたそうだ。
ヴィルヘルムはアンデットだから寝る必要は本来はないんだけど……日々の習慣とかで、夜になると横になり、一応眠ってはいるらしい。
だけど流石は歴戦の強者。賊の侵入をすぐに察すると、子供達を安全な場所に誘導。そして自らは剣を手にすぐさま賊の方へ向かったとの事。
そこからはもう一方的展開だったようで。
「もう、凄かったのよ。私が安全を確認に行った時、ヴィルヘルムさんがちょうど戦っている時で。あっという間に怖そうな男の人たちを叩き伏せているところだったんだから」
興奮冷めやらぬ様子のリーシア。そりゃあそうでしょ。だって龍殺しの勇者なんだから。あんな連中、なんて事もないだろうさ。
彼の活躍もあり、アルバ村の損害は家が二軒燃えたぐらいで収まったらしく。死者はおらず、被害も最低限だったみたい。
賊は今、縄で縛り上げて空き家となっている家に閉じ込めていると。で、馬やら奴らの武具なんかは纏めて他の所に置いている……売ればそれなりの金にはなりそうだ。
「そんなヴィルヘルムは今どうしてるの?」
さっきから気にはなってたんだよね。
一応、俺はヴィルヘルムの主だからね。あの義理堅いヴィルヘルムが俺が帰ってきても出てこないのは、ありえないわけで。
「子供達と一緒にいる。子供達が離さないみたい」
やっぱり子供達は怖かったんだろうな。こうやって外部の人間に襲われたのは三度目……か?
ヴィルヘルムもそれを分かっているからそばにいてあげているんだろう……
それにしても。子供達は最初はあんなに怖がってたのに……今や子供達にとって、なくてはならない存在だ。見た目はただの赤い骨なのに。
そんな事を考えていた時。
「ねぇ……相談があるんだけど」
リーシアが少し思い詰めた顔でこっちをみていた。
◆
「今日、分かった事があるの」
そう言ってリーシアは俺の方を見た。村では話しにくいとリーシアに連れられて俺はアルバ村の見える小高い丘にいた。
地面に座りのんびりと星を眺めている。
その横にリーシアも腰を下ろした。
「誰かを守るためには……やっぱり力が必要なのよね……」
そりゃあ……ね。だから俺は皆を、リーシアを守るためにこの力を手に入れたわけだから。
「今は皆の事はアルが守ってくれる。前回はアルが助けてくれたし、今回のようにアルがいなくてもヴィルヘルムさんが守ってくれた。でも二人が居なかったら?」
そう言うとリーシアは真剣な表情で俺をみる。
……たしかにね。彼女の言うことは一理ある。今回のダンジョンで手に入れたスケルトンいるけど……あの3体の現在の力じゃ、多数で襲われたらあっという間にやられるだろうなぁ……
「アルだってこれからもダンジョンに潜る。その時ヴィルヘルムさんもついていくことも多いと思う。そうなった時、誰があの子達を守るの?」
そう言うとリーシアは、ほう、と一息をつき、言葉を続けた。
「だから、今回の件で思ったの」
リーシアが、俺の瞳を覗き込むようにこちらを見つめている。
「アルがそうであったように……私も強くなりたい。私も皆を守りたい。私も戦える力が欲しい」
強い決意を帯びた声。あぁ、こうなったら彼女はてこでも動かない。
「それに……ね」
リーシアはそう言うと小さく笑う。
「私、一度アルと一緒に冒険してみたい!って思ってた」
そしてそこまで言うとリーシアは俺に頭を下げて。…言葉の続きを言った。
「だから……私に『戦うこと』を教えてください」
と。
◆
結果的にリーシアの熱意に負けて……これから彼女に戦い方を教える事となった。
まぁ確かに彼女が戦えるようになれば安心して留守を任せていけるしね。
いつまでもヴィルヘルムを置くわけにはいかないもんなぁ、と。
それに……
俺はこのアルバ村より北方の方を眺める。
いつか故郷に帰った時。あの村を守れる人は一人でも多く欲しい。
俺だけが強くなるのではなく。俺たちが強くならなければいけない。
だからこそ。
まずは彼女を鍛えていこう、そう思っている。
とりあえず……まずは信託で職業を授かるのが一番最初かなぁ……??
そこからスタートしてみようか……?
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