君……誰?
暁色のスケルトンは自らの背に剣を収めると、俺の前に恭しく跪く。
「主よ。御下命に従い敵を討ち果たしました」
「……あぁ…そりゃどうも……」
呆然とする俺。なんか締まらない返事だけど……そりゃあそうだ。さっきまでピンチだったのに。
あのアンデット3人組にギリギリまで追い詰められていたのに。
全てこのスケルトンが一瞬で倒してしまった……
目の前の出来事にもビックリしたけど……同時にあまりの力量の差にショックも受けてるよ……
「でさ……」
「はっ!」
「とりあえず状況を読み込めないんだけど……君、誰?」
うん、間違ったことは言ってない。だって本当に分からないんだもん。
味方なのか、敵なのか。屍王やデスナイトを倒してくれたから味方だとは思うけど……もし、あの剣をこっちに向けたら俺だって一瞬でやられるだろうなぁ……
だからとりあえず穏やかに話を進められそうな雰囲気のうちに聞けることをたくさん聞いておこう……
俺の質問に対して赤いスケルトンは姿勢をビシッと正しながら、ゆっくりと身の上話を始めていくのであった。
◆
「私の名前はラーサー・ヴィルヘルム・エルハザードと申します」
「あぁ、うん。それはさっき聞いたよ」
「エルハザード王国の第二王子として生を受けました」
………これ絶対話が長くなるタイプの人だ。完全に自分のペースで話を進める。俺の話なんて全然聞いてない……
予想通り、ラーサーはその後じぶんのおいたちを長々と話し始めた。
生まれのこと、自分の職業のこと、ざまざまなモンスターとの戦いなどなど。
そのほとんどは歴史や伝説、そして演劇の題目になっている様な事だ。この墳墓に入る前にエリックに馬鹿にされたから俺なりに調べたんだよね、彼の人生。
でも話したいみたいだから……話させてあげようか。だって彼は今まで誰にもこの事を話せ那賀ったんだから。
そんな事を思いながら等々と話す赤いスケルトンの話に俺は耳を傾ける。
そしてその話の内容はその最期の話となっていた。
たしか……ラーサー・ヴィルヘルム・エルハザードは王国を守るために、邪龍マハラジャータに挑み、相討ちとなったような……?
そう俺が尋ねると
「正確には相討ちではないのです」
とは彼は言った。
「私は奴を仕留めました。だが…不覚にも、奴の血に触ってしまったのです。奴の血は強力な毒を持つものでした。それゆえに僅かながらもそれに触れてしまった私は……いともあっけなく最期を遂げたのです」
英雄のあっけない死。いや……案外そんなものかもしれないな。
物語や歴史では彼は邪龍との戦いで瀕死の重傷を負い、斃れたこととなっている。けど……本当は斃した相手の血に触れてあっさり命を落としたわけだ……
無敵の英雄でも予想もしない最期を迎える。それは偶然か必然か……この商売をしている限り、その覚悟は持たないといけないかもね。
「で、そこからどうしてこうなった?」
俺はついに、今回の核心となるべき質問を彼にぶつけた。ここからが一番聞きたかった事だったんだ。
「それが……正直分からないのです。気づいたら……私はこの姿で蘇っていました。動きも力も当時のまま。ただ……」
「ただ?」
「声が聞こえるのです。身体の内より……あなたに従えと言う声が。そしてそれが私にとって……とても心地よいものなのです……」
そう言って彼は恍惚の表情を見せた……骨だけど。
色々質問したけど、やはり何故復活したのか……は彼自身も分からないらしい。やはりこれは俺の死霊術師の力の影響かもしれない。
あの時、確か俺はあの棺に向かって「起きろっ!」って叫んだ。それがきっと鍵だったんだ……
ふと俺は思い立って自分の能力を確認した。
◇◇
アルス
職業
暗黒剣士 LV25
死霊術師 LV5
魔物使い LV1
LV42
体力3800
魔力3200
攻撃力2900
防御力2200
俊敏性3200
スキル
暗黒剣「紅」
暗黒剣「朧月夜」
暗黒剣「宵闇」
暗黒剣「瞬獄」
譲渡
ネクロマンシーLV3
モンスターテイムLV1
神眼LV5
アイテムボックスLV♾
ダンジョンキーLV6
強奪LV5
気配感知LV18
身体強化LV3
堅牢LV2
火魔法LV5
光魔法LV8
水魔法LV5
双剣術LV11
剣術LV10
斧術LV3
短剣術LV5
弓術LV3
俊足LV3
狩猟LV3
◇◇
あぁ、やっぱり。死霊術師のレベルが上がってる。今までずっと上がらなかったのに。きっと今回の事がきっかけだろうな。
そして……レベルもちょっとだけ上がったみたいだ。スケルトンが斃した経験値も手に入れる事ができると言う事……なのかな?
そして『譲渡』とかいうスキルもある。きっと死霊術師のスキルだろう。これも後で調べる必要がありそうだ。
とにかくだ。
龍殺しの英雄ラーサー・ヴィルヘルム・エルハザード。彼は俺に従う事を拒んではおらず、また蘇った際は何とも言い難い快感に包まれたとも言っていた。
だから、この姿で生まれ変わった事は不快でも何でもなく、むしろ喜びらしい。
さっきまでは……なんか死者を冒涜しているみたいで気が引けていたんだけど……
「主によって再び得た生……それゆえに、このスケルトンとしての人生は主に捧げたいと思います……何よりあの屍王の配下になりそうだと思うと……ゾッとしますね」
そう言って彼はカラカラと笑った。
そんな彼の笑顔を見て……俺もまた釣られて思わず笑顔になるのだった。
◆
こうして龍殺しの英雄であるラーサー・ヴィルヘルム・エルハザードは俺の『仲間』となった。
正確には『配下』なんだけど……なんかそんな事を言うと背中がムズムズするので今はこう呼ばせてもらう事にした。
彼の事を俺はミドルネームの『ヴィルヘルム』と呼ぶ事にした。いや、ラーサーと呼んでも良いんだけど……彼自身がこちらを望んだから。
「第一の生と区別したいので、是非私の事はヴィルヘルムとお呼びください」
だって。まぁ、彼がそう望むならそれで全然構わないけどね。
とりあえず、エルハシアに着いたら、骨の姿を隠せる様な装備を整えよう。胴体の部分は『女神アルテナの鎧』で良いとして、腕から肘そして手の甲の部分に下半身。プレートアーマーみたいな形にするのが良いかもしれない。そして何より……顔。これは鉄仮面みたいな兜を買うのがいい。とにかく。この状態では町に入れない。大騒ぎになっちゃうもんねぇ……
そんな事を思いながら、俺はわずかに背後に立つこの暁色のスケルトンに目をむける。
しかし……できる事ならバグリーのオッサンなんかが居てくれると良いんだけどな。
エルハシアの武器屋ってロクな装備がないんだよな……本当にこればかりはいつも困ってる。
後は……彼をどうやって紹介していくか、だ。
『仲間』となったからにはこれからずっと一緒にいると言う事だ。
エリックはきっと大丈夫だとして……リーシアやダリア、孤児院の子供達にどのように伝えるか……うーん。悩みがいっぱい。
まぁ、一つ一つやっていくしかないよねぇ……
そんな事を思いながら俺は小さく溜息をつくのであった。
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