とっとと、『起きろっ』!
遅くなりました。すみません。
屍王が手を広げると、背後から数匹のスケルトンが現れた。
【さぁ我が僕よ。我が意思に従い、奴を殺せ!】
くっ!スケルトンウォーリアか。でもこれくらいならっ!
俺は『簒奪王の太刀』と『鬼戦士の鉈』を取り出し、大声で叫んだ。
「暗黒剣『瞬獄』!」
その瞬間….きっと奴らの目からは俺の姿が消えた様に映っただろう。そして……
ジャキンジャキン
金属がぶつかる音と共にスケルトンウォーリアの首が飛んでいく。
どんなもんだい。
だが屍王はゆっくりとそれを眺め……
パチパチパチパチ
鷹揚に手を叩いた。
【見事ではないか、若いの】
そう言うと、口からどす黒い息を漏らした。
【気に入ったぞ。主の魂は我が貰うとして……主の肉体もまた我が活用してやろう】
そう言うと、再び屍王は手をかざす。
【でろ、我が騎士よ】
そう言うと彼の背後に2体の黒い影。
……!?あれは……!?
俺は『神眼』を使い、背後の『化け物』を確認した。
◇
死霊騎士
Aランク魔獣
体力2500
魔力2000
攻撃力2500
防御力3000
俊敏性1000
スキル 剣術
◇
◇
死霊騎士
Aランク魔獣
体力2500
魔力2000
攻撃力3500
防御力2500
俊敏性700
スキル 斧術
◇
剣を持ってるデスナイトに斧を持ってるデスナイト……ね。
とんでもないな……
【我は以前『死霊術師』であった】
俺が訝しんでいると屍王が語り出す。
【我の『コレクション』の中でも最強の2人。それが此奴らよ。1人はとある王国最強の騎士団長。もう1人はSクラスの冒険者。強者をアンデットにするとそのアンデッドもまた強き能力を有する】
そう言って屍王はカカ、と笑う。
【そして……我も。我自身に死霊術をかけ永遠の命を得ようと思うていたのに……なぜ不完全体なのだ……??】
そう言うと屍王は虚空を睨む。
【魂……高貴な魂が必要なのだ。それこそ
かつて英雄と呼ばれた様な……】
あぁ、何となく話が見えてきたぞ……
【魂は我がいただき、そしてその抜け殻を利用して強き兵を作る。龍殺しの英雄の亡骸ならこの2体よりも遥かに強い兵になるはず。そして我は本当の屍の王として国を興し、世に君臨するのだ!】
なるほどなるほど。
つまり、こいつの狙いはやはり龍殺しの英雄の亡骸なわけだ。
で、魂を喰らう事で屍王として完全体のなりたいと。そして抜け殻?はこのデスナイト達の様に自分の手駒にする……と。
なんてタチの悪い奴だ……
【さぁ、我が騎士達よ!ゆけっ!!】
屍王の命令でデスナイトは動き出す。
ちっ!冗談じゃない。1体でも苦戦するデスナイトなのにそれが2体だと?そして俺1人でなんとかしろと??
俺は全身に身体強化を施した。これをかけないと……デスナイトの相手にはならないだろう。
猛然と襲いかかってくるデスナイト。幸い動きはこちらの方が早い。2体いたとしても、とりあえず距離を取ることはできる。
で……
俺は斧のデスナイトに的を絞る。あいつの方が遅いから……狙いやすい。
「暗黒剣『宵闇』!」
以前戦った際はこれで鎧と鎧の隙間を狙って奴の腕を落とし、戦闘力を奪った。今回もこれで……
俺の意識が斧のデスナイトに集中していると……
ゾクリ
気配感知の悪寒が背中を伝う。
いつの間にか背後に現れた剣のデスナイトが俺の背中を狙っていたようだ。
「ちぃっ!」
このデスナイト……連携もできるのか。
片や速い機動力をもち、片や堅牢な防御力を誇る……くそっ、タチが悪い。
それだけでなく。
ゾクリ
再び悪寒が背中を走る。それと同時に黒い球体が俺の方に飛んできた。
【デスボール!!】
くそっ、あの屍王、魔法まで使ってきやがる。これって確か触れるだけで命を落とす魔法だよな……
それを避けつつ、俺は簒奪王の太刀を握りしめ、振りかざした。
「『宵闇』!」
今度は先程魔法を放った屍王を狙って斬撃を飛ばす。
だが……
ガキンガキン
あの斧の方のデスナイトが、身を呈して屍王を守る。
【無駄だ、小僧。我の僕がいる限り、貴方の刃は我には届かぬ】
勝ち誇った様に笑う屍王
【貴方も死んだら我の僕として使ってやろう。デスナイトと互角に戦うとは素材として非常に興味深い。どの様なアンデットに変わるか楽しみだ】
カカ、と満足げに笑う屍王。
【貴様もそして、龍殺しの英雄も我が僕となる。そして我は英雄の魂を得て本当の【屍王】になる。真のアンデットの王として屍の軍団を率いて国を作るのだ!】
……こいつ……自分に酔ってやがる。
【そうなれば、さらに魂を吸収でき、ゆくゆくは『不死王』として君臨する事ができる!】
……完全に危険な思想だ。こんな奴、絶対に世に出すわけにはいかない……けど。
正面にデスボールを放つ屍王
その両脇には奴の配下のデスナイト2体。
「ダメだ……どう考えても打つ手がない……」
俺は距離を取りながら宵闇を繰り出すが……全てデスナイトの鎧に跳ね返される。近づいて直接狙おうものなら、もう片方のデスナイトが襲いかかり、そして屍王のデスボールが繰り返し飛んでくる。
俺は着実に追い詰められていた。
デスナイトの斬撃を躱し、そして屍王のデスボールを避け続けていると、俺は『龍殺しの英雄ラーサー・ヴィルヘルム・エルハザード』の棺のところに追い詰められていた。
せめて……もう1人、俺と同じぐらいの力の戦士がいたら……
追い詰められていた事から、俺は思わずその棺に毒づいた。
「おぃ!そんな所で寝てるなよっ!!お前もあいつの子分になっちまうぞ!!そうなりたくなかったら……」
それを言ったことに対して特に意味はなかった。
ただの苦し紛れの一言だったはずだった。
「とっとと『起きろ』!」
だが、その瞬間。
俺の背後の棺が闇に包まれた。
「なっ!?」
【馬鹿なっ!?】
俺と同時に驚愕の声を上げる屍王。
棺が闇の渦に飲み込まれていく。……凄まじいまでの魔力の流れが生まれていく。
「何だ…?これ??」
敵が近くにいる事も忘れてその闇の渦に目を向ける俺。
対して屍王はと言うと……
【馬鹿な……死霊術だと?だが、これほどの魔力量……我よりも遥かに強力な『死』の力だと?どうなっている??貴様は……何者だぁぁぁぁああ!?】
彼もまた魔力の渦に釘付けになっていた。
轟音と共に闇の渦は大きくなり、そしてその中から光が放たれる。
「何がっ!?」
それと共に徐々に闇の渦は消え……そして。
そこに立っていたのはまるで暁のような。朱色に輝く1人のスケルトンだった。
「……だれ?」
今思えば……俺もずいぶん間抜けな声を出していたなぁ、と思う。
でもあの時……本当に頭が混乱していたんだ。
そのスケルトンはそんな俺を見ながら口を開いた。
「私の名前は『ラーサー・ヴィルヘルム・エルハザード』。どうか御下命を。我が主」




