暗黒剣『瞬獄』
墳墓の入り口は重厚な門で閉ざされていた。
まだモンスターが溢れていなかった時。確かここまで観光で見学してよかったんだっけ?
今はそんな見学するものもおらず、ただ静寂があたりを包んでいた。
俺は大きく深呼吸をすると
「よしっ!!」
と大きな声で気合一声、その門を開いていく。
門を開けると、そこには漆黒の闇が広がっていた。
当然先などは見えない。
「ライトニング!」
俺は光魔法を使いあたりを照らす。すると石造の通路が奥まで続いているのが見えた。
「深いなぁ……これは奥まで行くのに時間がかかるかも?」
そんな事を呟きつつ、光魔法ライトニングを使って数分。あたりを確認しながらあるいていると、奥の方から何やら足音のような音が聞こえてくる。
「……早いなぁ。もう来るんだ」
気配感知が告げている。間違いなくモンスターの気配だ。
ドドドドドド
足音が段々と近づいてくる。
目を凝らすと……
「こりゃ……酷いな。尋常じゃない数だ……」
骨戦士、食屍鬼、腐乱死体……アンデッド全員集合って感じかなぁ?
しかしなんでこんなにアンデッドがいるんだろう?本来こういうモンスターは命を落とした冒険者や戦士した騎士、魔物に襲われた村人といった者たちの死体がアンデッド化するものであって。
この墳墓にはそんなにたくさんの人がいたとは思えないんだけどな……
アンデッドの群れは通路をひしめき合いながらどんどん近づいてくる。
でも……俺には焦りはない。
なぜなら……今の俺にはとっておきの必殺技があるから。
「さて……やるか」
俺はマジックボックスから『簒奪王の太刀』と『鬼戦士の鉈』を取り出した。
あのデスナイトから手に入れたスキル『双剣術』。
この力を手に入れてから、『剣術』と合わせてずっとこのスキルを磨いてきた。
防御を捨てて攻撃に特化したスタイル。
一本の剣で戦うのも悪くはないが……ソウルイーターごある以上、盾を持つ必要がない俺には、どうやらこっちの方があっているようだ。
そしてもう一つ……俺が手にした力。
俺の新しい『暗黒剣』
俺は全身に魔力を伝えていく。魔力の出し惜しみはしない。なぜなら……今は『呪われし黒影の闇靴』を履いている。お陰で歩いていれば勝手に魔力が回復するからだ。
ふぅ、と一呼吸おくと俺は小さく呟いた。
「暗黒剣『瞬獄』」
その瞬間、俺の姿は消え、それと同時に多くのアンデッド……骨戦士、食屍鬼、腐乱死体の首が跳んでいったのだった。
◆
暗黒剣 『瞬獄』
このスキルを習得したのはLV5のダンジョンキーのダンジョンに挑んでいた時だ。
ちょうど蟻のモンスターの大群と対峙していた時。あまりの数に手も足も出ない状況に陥った時だったのを覚えている。
この暗黒剣の特徴は『乱撃』。いわゆる『複数攻撃』だ。
最大限まで瞬発力を上げ、一斉に多数の敵に対して攻撃をしかける技だ。
つまり一対多数の際に使う技である。
さらに現在の俺は二刀流。この攻撃方法は今の俺にとって非常に相性の良い攻撃だ。
蟻のモンスターの時も数百といた蟻を一気に屠る事ができた。
当然今回もそうだ。
あれほどたくさんいたアンデッドだったが、いともあっさりと首を跳ねた。アンデッドは胴体やらを傷つけても影響がない。やはり首を跳ねるのが、倒すための常套手段だ。
しかし……とその亡骸を眺めながら思う。
先程も思っていたけど、なぜこうもアンデッドが湧いて出てきたんだろう?
アンデッドは魔獣の襲撃にあった村や、元戦場などで良く現れる。そのため、このように門で封印されたところなどには現れないと思うのだが……
「何か嫌な予感がするな……何でもなければ良いんだが」
そう呟くと俺は墳墓の奥へと進んでいくのであった。
◆
それからも多数のアンデッドが現れ俺の行手を遮った……が、とにかく『瞬獄』を使いながら片っ端から無に返してあげた。
このクラスの魔物だったらば、この暗黒剣で一撃だから……何一つ怖さは感じない。
しかしこのアンデッドの数はやはり異常すぎる。本来ならこの様な場所にこんなにいるはずがない。
大規模な戦場の跡地ならいざ知らず、なぜ対して大きくもない墳墓にこんなにたくさんのアンデッドが現れるんだろう……??
そんな疑問を抱えながらも、俺は最奥の部屋まであっという間に辿り着くことができた。
そこは木の扉に閉ざされた、英雄ラーサー・ヴィルヘルム・エルハザードが眠っている場所。
この扉を開けば全てがきっと分かるはずだ。
俺は迷う事なく、その扉を開ける。そしてその視界に飛び込んできたのは……明らかにここでは存在しないであろう凶悪な者が姿であった。
◆
墳墓の奥にいたのは……フードを被った1人の男だった。
……何者?モンスター?それとも冒険者?
いずれにしよ、こんな所に一人でいるなんて明らかにおかしい。
とりあえず声をかけようとした瞬間。
【貴様……ここに何用だ?】
脳内に響く声。え、どういう事?
【我の崇高な目的に其方は邪魔だ。消えてもらいたいのだが】
これは奴の力か。なら乗ってやろう。
「いや、都合のいい事を言わないで欲しいんだけど」
ってか何勝手な事言ってるんだよ。折角ここまで来たのに帰れって……ふざけるなって。
「俺は冒険者協会の依頼で正式にこの墳墓の探索に来たんだ……お前の方こそ、ここで何してるんだ?崇高な目的って?」
俺の問いかけにフードの人物はケタケタと笑いだした。
「……おい、別に変な事を言ってないぞ?」
【愉快だ。実に愉快だ。この様な愚かな者が我の崇高な目的も知らず邪魔をしようとするとは】
ダメだ。話がつうじない。
こいつ完全に頭がイカれてやがる……
ケタケタケタとずっと笑っているフードの人物。
とりあえず、その隙に『神眼』で奴の様子を確認……っ!?
俺は『神眼』で見たフードの人物の詳細を見て愕然とした。
◇◇
屍王(不完全体)
Sランク魔獣
体力3000
魔力7500
魔法攻撃力5000
防御力1500
俊敏性2500
スキル 死霊術
闇魔法 死霊魔法
◇◇
屍王だって!?
その瞬間
【主は……我の情報を覗き込んだな?】
そう言うとフードの人物はこちらの方に顔を向けた。
そしてその顔が姿を表す。そこには目の窪みに緑色の炎を宿した黒い頭蓋骨が見えた。
……屍王。魔王とも誤解されるほどの圧倒的魔力を持つアンデッドモンスターだ……
アンデッドの中でもかなり上級のモンスターと言えるだろう。
まずい……いくら不完全体とは言え明らかに俺が戦ってきた中でも最強の存在だ……
冒険者協会でも、こいつが現れたらSクラスギルドが協力して討伐に行くと言われるほどだ。
ソロの俺が果たして相手になるだろうか……
俺の手に冷たい汗が伝い流れたのを感じることができる。
そんな俺の様子を知ってか知らずか……屍王は俺の脳内に語りかける。
【英雄の魂を喰らって完全なる屍の王となろうと思っていたが……まずは前菜といこうか。貴様の魂から喰らおうぞ】
そう言うとその屍王は問答無用で襲いかかってきたのだった。
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