俺が必ず守ってみせる
推敲したため少し遅れての投稿となります。すみません。
太陽が沈み……薄暗くなった大通りを。
俺は静かに歩いていく。
今から俺は……大罪人になる。
その覚悟をゆっくりゆっくり飲み込みながら。
魔獣を殺すわけでもない。アンデッドを潰すわけでもない。
稽古でもなく、演習でもない。
生まれて初めて……人間と『命』のやりとりをしにいこうとしている。
「ほんの数ヶ月前は……こんな事をするなんて思いもよらなかったな」
そう言って空を仰ぎ……俺は小さく笑った。
本当にそうだ。人生って一瞬で全てが変わる事がある。不思議だな……とそう思う。
この力を手に入れた時もそう。
でも。
この力がなければきっと今日、無力さに泣いて終わっていただろう。でも今の俺にはこの力がある。
大切なものを守る力が俺にはある。
そう自分に言い聞かせながら。
俺は一つの屋敷の門の前で止まった。重厚な門が聳え立ち、招かれざる客を拒んでいるように見える。
門を守る守衛はいない……この国ではそれが当たり前だ。だって、家族が襲われるなんてありえないから。
徹底された上下関係。選民思想。それがこの国の根本なのだ。
太陽が沈み、あたりを暗闇が染め始めている。
そして静寂が包み込む時間帯。
「暗黒剣士にはちょうど良い時間帯だ。さぁ……行こうか!」
俺は自分を鼓舞するためにそう言うとマジックボックスから『簒奪王の太刀』を取り出した。そしてその重厚な門を一刀両断に断ち切ったのであった。
◆
ボフマン男爵の屋敷の中は……びっくりするほど広かった。これが貴族って奴なのかな……?
「何者ですか!?貴方は!!」
バタバタと執事風の男が近寄ってきた。そりゃあそうだ。侵入者なんだから。
あれ?そしてこいつ。この前、ワーウルフの毛皮の服を寄越せと言ってた奴じゃないか。
「こんな事をしてただですむとお思いですか?一体……ぐへっ!」
煩いな。こいつはとりあえず気絶させよう。太刀の峰打で首筋を叩いたら、すぐに白目をむいてくれた。
さて、あのクソ貴族とリーシアは……
そんな事を考えていると、2階の方から賑やかな声が聞こえる。あ、これ絶対あのクソ貴族のダミ声だな。
俺は静かにその声のする扉に向かう。階段をあがり1番奥の部屋。そこに他の部屋とは異なる豪奢な扉が佇んでいる……俺はそれを盛大に蹴り上げた。
大きな音を立てて開く扉。視界に入ったダミアン男爵の部屋の内部。それを見た瞬間……俺の怒りは頂点に達したのだった。
◆
そこで見たのは半裸の状態で縛られているリーシアとそれを見ながら下卑た笑いを見せるダミアン。そして同じく下品な笑みを浮かべていた奴の取り巻きだった。
「な…なんだ!?貴様は!?」
俺の姿を見て驚きのあまり尻餅をつくダミアン男爵。取り巻き達も同様だ。だが俺はそんな事に目もくれず、リーシアの方に駆け寄った。
「アル……」
リーシアは涙目でこちらを見ている。
「助けにきた」
俺が言ったのは一言、それだけ。でもリーシアは嬉しそうに。でも照れ臭そうに小さく答えた。
「来ると思ってた」
その一言で十分だ。俺はマジックボックスからマントを取り出すとリーシアにそっとかける。
「大丈夫……まだ何もされてないよ」
何もされてない?そう言う問題じゃない。服を破った時点で……いや、お前が泣いている時点で俺の怒りは限界を迎えているんだ!
「リーシア。今から起きる事……見て欲しくないから扉から出ていってくれないか?」
俺はそう言うと、リーシアを縛っていた縄を切り裂いた。
リーシアは俺の顔を見て……そして小さく頷くと小走りに扉の方に向かった。
さて……と。
「おい!女が逃げるぞ!お前たち!!」
そんなリーシアを見て慌ててダミアンがそう言った、その瞬間。
取り巻きの1人がリーシアの方に走り出す。
だが。
シュン
一瞬の出来事。俺が太刀を振るった瞬間。
「ギャアアアアアア!!」
「ワアアアアアアア!!」
大騒ぎになる部屋の中。それもそのはず。走り出した仲間の首がすっ飛んでいったのだ
飛ばされた首は……何が何だか分からない顔をしている。首が離れた胴はそのまま前のめりになって倒れていった。
「き……貴様!こんな事をして良いわけ…」
俺は奴の言葉を聞かず、ただ黙々と剣を振りかぶっていく。
シュン
剣を振った音と共に、奴の取り巻きの首が面白いように飛んでいった。
「き……きさまぁ」
「お前、剣が使えるんだろ?じゃあ戦ってみろよ?」
そう言うと、俺は近くにあった飾り物の剣をひったくり、それを奴の前に投げ捨てた。ダミアンはそれを取るなり
「舐めるなぁ!!!」
そう言いながら襲いかかってきた。
確か前回『神眼』で覗いた時……それなりに力があったのを覚えている。確か剣術のスキルももってたよな。
しかし。
シュン
俺が太刀を振るった瞬間。
ダミアンの腕が虚空を舞った。
「ギャアアアアアア!!」
のたうち回るダミアン。
ま、お前が剣術スキルを持とうが持つまいが。今の俺の敵ではないんだ。
奴の潰れた蛙のような顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。あー気持ち悪い。
「おた…お助け……」
あれほどいきがってたのに。俺に必死になって頭を下げるダミアン。それを見ながら俺は。
「あ、無理です」
感情のこもってない一言。それを言って、今度は足を飛ばす。
「ギャアアアアアア!!」
奴の悲鳴が部屋にこだまする。
楽には殺さない。こいつに酷い目にあわされた平民は数知れず。その恨みを晴らしてあげよう。
手足がなくなり何もできないダミアン。恐怖に震えながらこちらを見ている。
それを眺めながら……なんとも言えない不快感が俺を襲った。
もういいや、とばかりに俺は奴の首を落とす。こいつも十分恐怖は味わっただろう……
首を飛ばして一息つく。
ふう……これでとりあえず終わったか……そう思い、扉を後にした。だが廊下に出た瞬間……
「オェェェェェェェエエエ」
俺は盛大に胃にあったものをその場にぶち撒けてしまった。
自然と出てくる涙。止めどなく流れる鼻水。
あれほど冷静に。多くの男たちの首をはね。ダミアンを惨たらしく殺したと言うのに。
事が終わった瞬間、我に帰った様にあの映像が頭を駆け巡った。
恐怖に怯えた顔。悪魔を見るような目。
いくら……人としてカスのような人間とは言え……人間は人間だ。
あぁ、俺はついに人殺しをしてしまった。もう……後には戻れない……
胃の中のものがなくなっても……嘔吐は止まらない。
だがそんな俺の背中に……
何か温かい重さが乗っかってきた。
もちろん誰だかは分かっている。
そして……その彼女もまた涙を流してくれているのも。
俺たちは少しの間……そうやって静かに泣いていた。
◆
その後、気絶している連中を外に投げ捨て、俺は屋敷に火をかけた。
そしてリーシアを伴い、孤児院に向かう。
孤児院に戻ってからはとにかく必死だった。
屋敷が炎上し、皆その火を消すのに必死になっている。恐らくその後、男爵家の者たちに事情を聞き、それから憲兵隊などが動くだろう。
となると数日は分からないはず。そのうちに荷物をまとめて国抜けをしなければならない。
孤児院の皆を馬車に乗せ、荷物はとにかくマジックボックスに詰めるだけ詰めて。
エリックは流石に仕事が早い。すでに立派な馬車を用意してくれていた。
エリックは俺を顔を見て、全てを察するとその後の準備も手伝ってくれた。
「急がないと憲兵隊に追いつかれる。追いつかれたら俺も極刑だからな。一連托生だな」
そんな事を冗談ぽくいいながら。
そして俺たちはその日の深夜のうちに孤児院を出発した。
街道を通れば魔獣や賊に会う確率は低いのだけど……当然そんなところを通ったら、関所で捕まってしまうので。
俺たちが選んだのは魔獣が闊歩する西の平原を突っ切る事だった。
しかし、ここを通るとすぐにエルハザード公国。ここで少し休んだら後は北上すれば……俺たちの村に帰れる。
リーシアに村に帰ろう、と言った時。彼女は泣いた。
きっとその思いは今まで抑えたいたのだろう。
あぁ、そうだよね。俺たちが帰るべきは……やっぱりあの村なんだよね。
きっと、村の守り神……弱き者を全て守ってくれるという九頭龍様……『ゼノサーガ』もきっと俺たちを守ってくれるはずさ。だから……
馬車は今、荒れた平原を直走っている。手綱を握ってくれるのはエリック。俺はその横に腰掛けている。
幌の中を見ればそこには眠っている院長や子供たち、そひてリーシアの姿がある。疲れたのであろう、これだけ揺れるのに皆深く眠っていた。
それを眺めながら一つの誓いを胸に刻む。
俺が必ず守ってみせる、と。
孤児院を出てから数刻。
朝日がゆっくりと上がり俺達の馬車を照らす。と同時に俺達な走る平原の道も明るく照らしていた。
俺にはそれが、自分たちのこれからを暗示しているような……希望の道に見えたのだった。
急遽話を推し進めました。
とりあえず年内に『暗黒剣士編』終了です。
暗黒剣士編はアルスが暗黒剣士としての力に目覚め、そして実力をつけ始める……というところで終わりました。まだまだ彼は強くなっていきます。
さて来年からは『死霊術師』編になります。ペースに関してはまた後ほど活動報告に紹介します。よろしくお願いします。




