俺も一緒に連れて行け
俺はマジックボックスからハイポーションを取り出すと、それを一気に飲み干した。
「ふぅ……とりあえず生き返った……」
頭痛も少しおさまった様な気がする。
それにしても……
暗黒剣『宵闇』
とても便利な技だけど……どうもこれは魔力を使うみたいだ。打っていくうちに段々と頭痛が酷くなってきた。魔力は枯渇していくと頭痛が起こると聞いた事があるから……きっとそれだな。
さてと……
俺はゆっくりと起き上がるとダンジョンコアの元に近づいて行っな。
ダンジョンコア……初めてみた。なんというか……紫がかった……水晶のような……そしてこの輝き。デスナイトに夢中で気がつかなかったけど、この空間一面を照らすほどの凄まじいまでの輝きを放っている。
それにしても……このダンジョンコア……デカイな。大人の頭ほどの大きさだ。こんなのは見たことがない。となると、やはりここはA級ダンジョンだったんだろうな……
俺がこれを持っていったら……きっとエリックの奴、頭を抱えるだろうな。俺も流石に目立つだろう。
でももう良いや。思いっきり名前を出して売ってやろう。
これで名前が出れば……冒険者としての名前が売れるかもしれない。と同時に『紅蓮の炎』から睨まれる事になるだろう……勿論協会の上層部からも。
だが。
「これを売ったら俺は王国を出るんだ。知ったこっちゃないや」
そう言い放っと俺はダンジョンコアを両手で掴む。そしてひったくるようにそれを奪うと、無造作にマジックボックスに投げ込んだ。
すると……あれほどまでに輝いていたこの空間は、徐々に暗闇に包まれていく。
まるで太陽が沈んだ様に。
だが、俺はそんな様子を確認する事もなく、踵を返すと先程通ってきた道へと走り出すのであった。
◆
ダンジョンを出てから、俺はその足ですぐに協会に向かった。
俺が王都を出発してからすでに3日が経った様だ。日も傾いている。
でも、まだ協会も開いてるし、せっかくなので夜になる前にとっととこのダンジョンコアをなんとかしたい。
協会の館に入ると、俺は早速エリックを呼び出した。エリックは俺の様子を見て何かを察したのだろう。早々と持ち場を離れ、俺を個室へと連れていった。
誰もいない事を確認すると、俺はエリックに先程手に入れたダンジョンコアを見せた。
案の定、それを見てエリックは頭を抱える。
「お前……俺は偵察って言ったぞ」
「偵察がてら、ダンジョンを,クリアしてきた」
「お使いに行ってきた、みたいに簡単に言うな!しかもこの大きさはA級ダンジョンクラスじゃないか……こんなのが出てきたら大騒ぎになるぞ」
「だから、とっとと金にして俺は王都を出たいんだ」
「……こんなの、とっとと金にできるわけないだろう……?」
そう言うとエリックは盛大にため息をつく。
「こんなのが出たと言うことは、やはりやばいダンジョンだった感じか?」
「ヤバかったな。なんと言っても最奥にいたのはあのデスナイトだ。生きているのが不思議なくらいさ」
「デスナイトだと!?よくまぁお前……生きて帰れたな……」
「本当に」
俺とエリックはダンジョンの情報を交換し合う。
そんな時だった。部屋の外から大きな音が響いたのは。
「すみません!!助けて……助けてください!!」
あまりにも大きな物音に驚いて部屋の外に出ると……そこで俺の目に映ったのは、あちこち怪我をしてボロボロになった院長の姿だった。
◆
「院長!!何があった!?」
俺は院長を囲んでいた冒険者たちを突き飛ばすと、院長の方に駆け寄った。
俺の姿を認めると、院長は泣き崩れる。
「ア……アル……ごめんなさい!ごめんなさい!!」
泣きながら謝る院長。俺は彼女を落ち着かせながら場所を変えた。
様子からして尋常ではない。まだ周りには他の冒険者がいる。聞かれるとまずいかもしれない……
俺はエリックと目配せを交わす。エリックも静かに頷いた。こういうところは、流石だな。
「とりあえず院長、場所を変えよう」
そう言って先ほどまでエリックと話をしていた個室に移る。あたりに人がいないのを確認すると、俺はマジックボックスからポーションを取り出し、それを飲ませた。
すると彼女の傷がみるみる癒えていく。
傷が治ったのと同時に少しずつ落ちつきを取り戻した院長から話を聞いていく。
「実は……」
院長は先程あった出来事を俺にゆっくりと説明してくれた。
簡潔に言うとどうやらあのバカ貴族ボフマンの連中が孤児院を襲い、リーシアを攫っていったらしい。
くっ……先に孤児院に戻れば良かった……
「憲兵隊のところに行ったのですが……相手にされず、だからこうして冒険者協会に……」
「憲兵隊は……無理だろうな。相手が貴族だと尚更だ」
エリックは苦虫を潰した様な顔を見せた。
あいつらは弱い者を虐めることには長けているが、強い者にたいしてはからっきりダメだ。相手が貴族となると……まぁ、話すら聞かないだろうね。
俺はある程度の事情を聞くと、一つため息をつき、エリックに向かって言った。
「なぁ……他の国の協会とかでもダンジョンコアって換金できるのか?」
「まぁ、そりゃあできるが……お前この事態なら何を言って」
「じゃあエリック。悪いが今回ダンジョンコアは換金しない」
そう言うとゆっくりと俺は立ち上がる。
「院長……子供たちは?」
「子供は隠れていたから全員無事よ。ただ……皆恐怖で震えているわ」
「恐怖で震えるぐらいなら大丈夫だ。俺だって昔はそうやって逃げたもんさ。命さえあれば。怪我をしていなければ大丈夫。とりあえず今日の夜中までに旅立つ準備、できるかな?」
「?? 貴方……一体何を……?」
院長の言葉には答えず、今度はエリックの方に振り向き、金貨を5枚ほど渡した。
「これで馬車をお願いしたい。今からだと難しいかもしれないが、そこは金を使ってくれていい。そしてできるだけ大きめの馬車を。馬は上等な奴で。それを孤児院に届けてくれ。金が余ったらそれが駄賃だと思ってくれればいい」
「お前……だから何を……」
エリックの問いかけ。そして院長の訝しむ視線。それに応えるように俺は静かに言った。
「今からリーシアを取り返してくる」
と。
◆
貴族の屋敷に平民が乗り込むのは重罪だ。王国の法では極刑と言っても過言ではない。
だが、今回俺はそれをやる。それだけの事ができる力もある。もう、我慢の限界だ。
かかわった奴らを……
皆殺しにしてやる
そしてリーシアを助け出したら俺は皆を連れて高飛びしようと思ってる。
ちょっと予定が早まっただけた。だからそれに対して迷いはなかった。
勿論、行き先はすでに決めている……そう、俺たちの村があった場所だ。
あそこは今どこの国にも属してなく,モンスターが闊歩する空白地帯。そして王国からも距離がある。きっと手は伸びてこないはず。
到着したら魔獣を一掃して、村を再興する。
昔は魔物の一掃なんて夢物語だったけど……今の俺なら出来るだろう。
そして、魔獣の脅威がなくなったら孤児院の皆もそこで暮らして貰おう。
反対はさせない。王都に残っても……俺がこれからやる事をやってしまったら待っているのは全員極刑だ。
だからリーシアも院長も子供たちも。全部俺が背負ってやる。あぁ、手が血に染まって皆は俺の事を、恐れるかもしれない。でも嫌われても良い。エゴだと言われても構わない。
それが俺の……
覚悟だ。
「待てよ」
エリックはそう言うと頭をガシガシとかいた。
「お前の片棒を担いだら……俺も極刑じゃねーか」
あ、確かに。それはそうだ。俺と個人的に仲が良いだけでエリックは疑われるだろう……
「そんな顔するなよ。断るわけじゃない」
そう言うとエリックはポケットから短くなったタバコに火をつけた。そして俺に笑顔を見せた。
「条件がある。俺も一緒に連れて行け」
◆
後々になってこの時のこの瞬間は……歴史の本に載り、そして劇の題材になるとは本人達は思いもやらなかったであろう。
それは男と男の友情の物語の序章。
最強国家『ゼノサーガ』において、魔王アルスと、国庫を一手に引き受けた財務尚書エリックの。その始まりの物語として。




